はじまり 2 | 紫苑の扉

紫苑の扉

主にストーリーと詩を書いています。
あるがままに、そのままに・・・。
徒然に気ままに

 ここ数日雨の日が続いていたが、今朝になって雨が小降りになったかと思うとあっという間に太陽が顔を出して空が明るくなった。眩しいほどの水色の空が広がり、太陽の光が優しくレースのカーテンを通して室内に差し込んできた。休みはいつも家でのんびりして過ごしているが、こんないい天気の日に家でじっとしているのももったいない。裕子は背伸びをしながら窓へ近づくとカーテンを開いた。
 市役所方向へ向かうバスは架橋下を潜り抜けた。自分が降りる停留所までは後三つぐらいだったろうか・・・。信号が赤になりバスはゆっくり止まった。思い立って図書館へ行くことにした裕子は、車窓からのんびりと風景を眺める。土曜日といってもそれほど車は多くなくて流れはスムーズだ。次は市立総合病院前というアナウンスが流れ、再びバスはゆっくり走り出す。左手に市立総合病院の建物が見えてきた。バスは左にゆっくりと曲がって病院の駐車場前で止まった。三人が降りてバスの乗客はたったの五人だけとなった。
 裕子はバスから降りると図書館の建物を探して辺りを見回した。図書館は車の通りが多い道を横断しなくてはならない。前方には横断歩道が見えている。後方に歩道橋があるけど、ちょっと距離があるし階段を上っていくのもきつそうだ。裕子は横断歩道を渡っていくことにした。
 図書館は三年前、職業安定所に通っている時に利用したことがある。それ以降一度も行ったことはない。一階は一般向けの本が置いてあり、二階には子供図書館とパソコン教室、三階は専門書や持ち出し禁止の書物が数多く書棚に収まっていた。椅子に座ってテーブルの上に本を広げている熱心な利用者がいる。
 館内に食堂も完備、各階に自動販売機が置かれ、ちょっとした休憩所がある。平日でもかなりの利用者がいるようだ。今日は土曜日とあって学生や一般の利用者の姿がある。ゆっくりと時間をかけて本を読んだり、調べ物をしたりするにはもってこいの場所だ。
 裕子には特別目的があるわけでもなかった。ジャンル別けされた館内の書棚をゆっくり回って、なんとなく目についた本を取り出してテーブルへ向かった。構内のテーブルの数は二十以上あるだろうか・・・。利用者はまばらにあちこちのテーブルに座っている。裕子は窓際近くのテーブルに着いた。三月に入ったといってもまだ肌寒く、春と言うにはまだ早いような気がするが、館内は寒くもないし暑くもなく過ごしやすい。
 しばらく本に見入っていた裕子は斜め前に女性が座っていることに気づく。本を見ながらバインダーノートにペンを走らせている。裕子もその女性同様ペーパーバックからバインダーノートを取り出す。一時間後、ほとんどのテーブルは半分ほど人で埋まっていた。その間に何度か席を立って、何冊かの本を持ってきた。斜め前に座っている女性はどう見ても学生には見えない、もしかしたら学校の先生かもしれない。それともどこかの塾の講師だろうか・・・。それとも主婦かしら・・・。裕子はここにはどんな人たちが、何の目的で来ているのかなどと想像をめぐらす。
 裕子ははっとして目を上げた。時間はあっという間に過ぎて閉館時間が近づいている。周りを見るとどのテーブルもまばらで空席が目立つ。閉館時間を知らせるアナウンスが流れた。裕子が席を立つとさっきの女性も同時に立ち上がった。目が合うと二人は自然と笑みを浮かべた。本を所定に戻し荷物を手にする出口へと向かった。階段の踊り場に来るとさっきの女性と一緒になった。彼女は誰かを待っているようだった。裕子の姿を目にすると声をかけてきた。
「明日もここへ来られます?」
「ええ・・・」
「私も来ようと思っているんですけど、明日のお昼をご一緒させていただけないかしら・・・」
「え?」
「ごめんなさい。初対面でいきなりこんなこと言うのは失礼ですね」
「いえ、そんなことありません。ちょっと驚きましたけど・・・」
 突然のことで裕子は面食らったが少しも嫌な気がしない、むしろ喜んで歓迎したいくらいだ。
「はじめまして、私は田辺玲子と言います」
「私は浅田裕子です」
 館内に閉館を知らせるアナウンスが流れる。二人は握手をすると横に並んで階段を下りていく。一階はまだ貸し出しの受付が行われており、完全に閉まるのは午後七時だと玲子が教えてくれた。二人はまた明日ここで会うという約束を交わす。玲子は歩道橋へと、裕子はバス停へと向かってそれぞれに歩き出す。ゆっくりと黄色を帯びていく様が西の空に見える。
 バスに乗り込みながら裕子の脳裏にある言葉が浮かんできた。人と人の出会いは偶然だと誰かが言っていたっけ・・・。誰が言ったのかはわからない。もしかしたら、何かの本で読んだのかも・・・。
 人生の中で出会いは数え切れないほど巡ってくるが、自分の人生に大きく影響を及ぼす出会いは早々あるものではない。それどころか運命を左右する出会いに気づかず、その期を知らぬまに逃してしまうこともあるのだ。出会いとはいくつもの偶然が生み出した奇蹟なのかもしれない。




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