相場は玄関に見慣れぬ男物の靴があるのを見て、それを口実に帰ろうとしていた。
「何を言っているの、ここまで来て千夏姉さんの顔を見ずに帰るつもり?」
千秋は無理やりスリッパを履かせて、相場の背中を押していく。
「お客さんが来ているし・・・」
千秋はそんなことなどかまってはいられない。なんとしても二人を会わせなければ、友美のお膳立てを無駄にするわけにはいかない。
「つべこべ言わずに、さっさと行く!」
居間では三人がお鍋を囲んで座っている。浅井の為に千夏がちょうど器によそっているところだった。なんとまあ、よりによってこういう場面に出くわすとは、物事は全てタイミングよくできているものらしい。
― どんなタイミングだ? ―
まったくのんきにいそいそと・・・。こっちの身にもなれつうの!千秋は心の中で呟く。
「ただいま・・・」
「お帰り・・・」
「お客さん・・・だったのね」
千夏は千秋の横に立つ相場を見て嬉しそうな顔をした。
「相場さんいらっしゃい。浅井さんは知っているわね」
「今晩は、お邪魔しています」浅井は千秋と相場に軽く会釈する。
「千秋と何処で一緒になったの?」
「仕事でフラワーショップの近くまで来ていたから、久しぶりに相場さんの顔を見に寄ったの。それで会社に戻る必要もないから、友美さんを送るついでに私も便乗させてもらったの。友美さんはちゃんと紅影に送り届けてきたわ・・・」
「そうだったの・・・。友美さんも一緒にと思って、今日はお鍋にしたのよ」千夏は期待を込めて相場を見て言った。「多めに材料を揃えているし、相場さん食べていくでしょう?」
緑は立ち上がって相場の分を用意すると、浅井の横に座ってちらりと千秋を見る。それに応えて千秋は頷くと笑みを浮かべた。二人はどうやら千夏の横に相場を座らせようとしているらしい。しかし、相場は居間に入ろうとはせずそこに立ったままだ。
「いや、これで失礼するよ」
「帰るの?来たばかりじゃない」浅井の横に座っていた緑は思わず立ち上がる。
「どうせ帰っても夕食の用意をしなきゃならないでしょう?食べて帰ったらいいのに・・・」千夏はどうにか相場を引きとめようとするが・・・。
「君たちの顔を見てすぐに帰るつもりだった。それにちょっと寄るところがある」
「お茶だけでも飲んでいったら?」どうにか引きとめようと千秋は言った。
さらに食い下がろうとする千秋に相場は首を振った。
「浅井さん、ごゆっくり・・・」
相場はちらりとも千夏を見ようとせずにそのまま居間を後にした。
「お姉さん、玄関まで送っていけば?相場さんとは最近会ってないんでしょう?」
千秋に言われて千夏は慌てて相場の後を追って玄関へ向かった。
「相場さん」
千夏の声に相場はゆっくり振り返った。
「どうした?」
「今度ゆっくり話がしたいわ・・・」
「そうだな・・・」相場はじっと千夏を見つめた。
「最近、会えなくて寂しかったわ・・・」
「わかっているよ。今度電話する」
相場は硬い表情で頷くと、そのまま千夏に背を向けた。
千夏は背中を向けで出て行く相場を見送りながら、虚しい気持ちを噛み締める。相手も同じ気持ちだと思うのは間違いだったのか・・・。
相場は車に乗り込み、シートに寄りかかった。意地を張って夕食の誘いを断ったことで、千夏と一緒に過ごす機会を逃してしまった。浅井があの場所にいなかったとしたら、今頃は千夏たちと和やかに鍋をつつきながら過ごしていたかもしれない。
正次が千夏の前に編集者として突然現れた時のことが蘇る。別れたとしても二人の絆が絡み擦り切れずに繋がっていた。それを目の前に突きつけられたような気がしたものだ。浅井の存在は正次とだぶって見え、落ち着かない気分にさせられてしまう。浅井が千夏に対して担当編集者以上の関係を望んでいるのではないかと、相場はちらりっとそんなことを考えた。だからといって彼女が個人的な感情を浅井に持っているわけではないだろう。本当にそう思っているのか?いや、自分がそう思い込もうとしているだけかもしれない。
会えなくて寂しかったと言った千夏の表情が思い浮かぶ。もう少し気の利いたことを言えば、あんな気まずい別れ方をしなく良かったかもしれない。こうなれば明日にでも、彼女に電話して会う約束をしたほうがよさそうだ。相場はエンジンをかけて車を発進させた。
「何を言っているの、ここまで来て千夏姉さんの顔を見ずに帰るつもり?」
千秋は無理やりスリッパを履かせて、相場の背中を押していく。
「お客さんが来ているし・・・」
千秋はそんなことなどかまってはいられない。なんとしても二人を会わせなければ、友美のお膳立てを無駄にするわけにはいかない。
「つべこべ言わずに、さっさと行く!」
居間では三人がお鍋を囲んで座っている。浅井の為に千夏がちょうど器によそっているところだった。なんとまあ、よりによってこういう場面に出くわすとは、物事は全てタイミングよくできているものらしい。
― どんなタイミングだ? ―
まったくのんきにいそいそと・・・。こっちの身にもなれつうの!千秋は心の中で呟く。
「ただいま・・・」
「お帰り・・・」
「お客さん・・・だったのね」
千夏は千秋の横に立つ相場を見て嬉しそうな顔をした。
「相場さんいらっしゃい。浅井さんは知っているわね」
「今晩は、お邪魔しています」浅井は千秋と相場に軽く会釈する。
「千秋と何処で一緒になったの?」
「仕事でフラワーショップの近くまで来ていたから、久しぶりに相場さんの顔を見に寄ったの。それで会社に戻る必要もないから、友美さんを送るついでに私も便乗させてもらったの。友美さんはちゃんと紅影に送り届けてきたわ・・・」
「そうだったの・・・。友美さんも一緒にと思って、今日はお鍋にしたのよ」千夏は期待を込めて相場を見て言った。「多めに材料を揃えているし、相場さん食べていくでしょう?」
緑は立ち上がって相場の分を用意すると、浅井の横に座ってちらりと千秋を見る。それに応えて千秋は頷くと笑みを浮かべた。二人はどうやら千夏の横に相場を座らせようとしているらしい。しかし、相場は居間に入ろうとはせずそこに立ったままだ。
「いや、これで失礼するよ」
「帰るの?来たばかりじゃない」浅井の横に座っていた緑は思わず立ち上がる。
「どうせ帰っても夕食の用意をしなきゃならないでしょう?食べて帰ったらいいのに・・・」千夏はどうにか相場を引きとめようとするが・・・。
「君たちの顔を見てすぐに帰るつもりだった。それにちょっと寄るところがある」
「お茶だけでも飲んでいったら?」どうにか引きとめようと千秋は言った。
さらに食い下がろうとする千秋に相場は首を振った。
「浅井さん、ごゆっくり・・・」
相場はちらりとも千夏を見ようとせずにそのまま居間を後にした。
「お姉さん、玄関まで送っていけば?相場さんとは最近会ってないんでしょう?」
千秋に言われて千夏は慌てて相場の後を追って玄関へ向かった。
「相場さん」
千夏の声に相場はゆっくり振り返った。
「どうした?」
「今度ゆっくり話がしたいわ・・・」
「そうだな・・・」相場はじっと千夏を見つめた。
「最近、会えなくて寂しかったわ・・・」
「わかっているよ。今度電話する」
相場は硬い表情で頷くと、そのまま千夏に背を向けた。
千夏は背中を向けで出て行く相場を見送りながら、虚しい気持ちを噛み締める。相手も同じ気持ちだと思うのは間違いだったのか・・・。
相場は車に乗り込み、シートに寄りかかった。意地を張って夕食の誘いを断ったことで、千夏と一緒に過ごす機会を逃してしまった。浅井があの場所にいなかったとしたら、今頃は千夏たちと和やかに鍋をつつきながら過ごしていたかもしれない。
正次が千夏の前に編集者として突然現れた時のことが蘇る。別れたとしても二人の絆が絡み擦り切れずに繋がっていた。それを目の前に突きつけられたような気がしたものだ。浅井の存在は正次とだぶって見え、落ち着かない気分にさせられてしまう。浅井が千夏に対して担当編集者以上の関係を望んでいるのではないかと、相場はちらりっとそんなことを考えた。だからといって彼女が個人的な感情を浅井に持っているわけではないだろう。本当にそう思っているのか?いや、自分がそう思い込もうとしているだけかもしれない。
会えなくて寂しかったと言った千夏の表情が思い浮かぶ。もう少し気の利いたことを言えば、あんな気まずい別れ方をしなく良かったかもしれない。こうなれば明日にでも、彼女に電話して会う約束をしたほうがよさそうだ。相場はエンジンをかけて車を発進させた。
千春が雑誌の編集者との打ち合わせで手間取り、帰って来た頃にはすでに浅井の姿はなかった。
「へえ、そうなんだ。それで千夏姉さんはハウスに引きこもっているわけ?」
「せっかく二人を会わせようと友美さんが気を利かせてくれたのに無駄になってしまったわ・・・。相場さんたら、寄る所があるとか見え見えの嘘をついてぶち壊すんだもの・・・。相場さんの前で浅井さんにへらへらと愛想を振りまく千夏姉さんもどうかしているわよ」
千春はなるほどと思った。千夏はよほど親しくなければ家に上げたりはしないし、自宅へ仕事関係の人間は招かない主義。浅井と千夏が親しくしているのを見た相場が嫉妬したというわけだ。自分が浅井に嫉妬しているなどと私たちに知られたくないと思うのは、男としてのプライドがあるから・・・。嫉妬心というものは厄介なもの・・・。
相場は自分たちの兄の親友であり兄のような存在だが、千夏にとっては特別の存在。二人の関係が何処まで進んでいるのかはわからないが、信頼関係を保つ絆はまだしっかりと結ばれてはいない。それは仕方のないこと、人間同士の信頼関係はそう簡単に築けないものだし、親しい間柄でも相手の全てを理解することはできない。ゆっくり時間をかけてお互いの信頼関係を築いていくしかない。
「千秋が二人のことを心配するのはわかるけど、これは当人同士の問題であって、いくら姉妹でも介入するべき事柄じゃないわ。相場さんにしたって余計なお世話と思うでしょうね」
「私はただ・・・」千春の言うことが理解できないわけではない、相場の煮えきれない態度が不満なのだ。
「わかってるわよ。私だって二人がうまくいくように願っているし・・・」千春は首をすくめながら妹の肩に手を置いた。「二人ともいい大人だし、自分たちのことは彼らのやり方で解決するわよ。それにあの二人の性格はわかるわよね。私たちが割って入ったらますます意地張るんじゃない?」
姉の言うことはもっともだ。あの二人は相当意地っ張りだし・・・。
「タイミングが悪すぎるわ・・・。せっかく友美さんが相場さんをここへ来るよう仕向けたのに、その努力も無にしてしまった。浅井さんがいなかったら彼だってあんなふうに出て行ったりしなかったと思うし・・・」
「友美が絡んでるってわかったらますますまずいんじゃない?相場さんを振って園田さんと結婚してしまったから、相場さんに後ろめたいって言う気持ちが友美にはある。お兄さんが死んでから彼女を支えてきた人だから、友美は彼には幸せになってほしいと思っている。相場さんとお姉さんがうまくいけば後ろめたさから解放されるかもしれないけど、相場さんは友美にそんなことされても心から喜べるとも思えないし・・・」
「千春姉さんは友美さんの親友じゃない。そんな言い方ひどくない?」
千秋は自分の親友のやり方が間違っていると言いたげな千春にむっとする。
「友美が悪いとか良いとかと言う問題じゃないのよ。相場さんの立場ならそう思うだろうってことが言いたいだけよ」
「相場さんはお茶も飲まないでさっさと出て行こうとするし、千夏姉さんはボーっとして見送ろうとするし・・・。私すぐに追いかけなさいってけしかけたのよ。世話が焼けるわ」
「それで千夏姉さんは追いかけていったの?」
「ええ・・・。戻ってきたとき浮かない顔していたけど、ケンカしたというふうには見えなかったわ」
千秋がやきもきする気持ちもわかるけれど、千春には二人の関係が悪い方向へ向かっているとは思えない。
「二人とも好き合っているのは確かだし・・・。まあ、どうにかなるでしょうよ。千秋、心配することないって」
「どうにかなるでしょって・・・。千春姉さんはのんきすぎよ」
「千秋こそどうしたのよ。私たちの中で一番冷静なあんたがそんなにカッカして・・・。千秋らしくないよ」千春は、にやっと笑って言った。「はは~ん、一条さんとなんかあったんじゃない?彼が絡むと必ず突っ走るものね」
「千春ネエ!」

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「へえ、そうなんだ。それで千夏姉さんはハウスに引きこもっているわけ?」
「せっかく二人を会わせようと友美さんが気を利かせてくれたのに無駄になってしまったわ・・・。相場さんたら、寄る所があるとか見え見えの嘘をついてぶち壊すんだもの・・・。相場さんの前で浅井さんにへらへらと愛想を振りまく千夏姉さんもどうかしているわよ」
千春はなるほどと思った。千夏はよほど親しくなければ家に上げたりはしないし、自宅へ仕事関係の人間は招かない主義。浅井と千夏が親しくしているのを見た相場が嫉妬したというわけだ。自分が浅井に嫉妬しているなどと私たちに知られたくないと思うのは、男としてのプライドがあるから・・・。嫉妬心というものは厄介なもの・・・。
相場は自分たちの兄の親友であり兄のような存在だが、千夏にとっては特別の存在。二人の関係が何処まで進んでいるのかはわからないが、信頼関係を保つ絆はまだしっかりと結ばれてはいない。それは仕方のないこと、人間同士の信頼関係はそう簡単に築けないものだし、親しい間柄でも相手の全てを理解することはできない。ゆっくり時間をかけてお互いの信頼関係を築いていくしかない。
「千秋が二人のことを心配するのはわかるけど、これは当人同士の問題であって、いくら姉妹でも介入するべき事柄じゃないわ。相場さんにしたって余計なお世話と思うでしょうね」
「私はただ・・・」千春の言うことが理解できないわけではない、相場の煮えきれない態度が不満なのだ。
「わかってるわよ。私だって二人がうまくいくように願っているし・・・」千春は首をすくめながら妹の肩に手を置いた。「二人ともいい大人だし、自分たちのことは彼らのやり方で解決するわよ。それにあの二人の性格はわかるわよね。私たちが割って入ったらますます意地張るんじゃない?」
姉の言うことはもっともだ。あの二人は相当意地っ張りだし・・・。
「タイミングが悪すぎるわ・・・。せっかく友美さんが相場さんをここへ来るよう仕向けたのに、その努力も無にしてしまった。浅井さんがいなかったら彼だってあんなふうに出て行ったりしなかったと思うし・・・」
「友美が絡んでるってわかったらますますまずいんじゃない?相場さんを振って園田さんと結婚してしまったから、相場さんに後ろめたいって言う気持ちが友美にはある。お兄さんが死んでから彼女を支えてきた人だから、友美は彼には幸せになってほしいと思っている。相場さんとお姉さんがうまくいけば後ろめたさから解放されるかもしれないけど、相場さんは友美にそんなことされても心から喜べるとも思えないし・・・」
「千春姉さんは友美さんの親友じゃない。そんな言い方ひどくない?」
千秋は自分の親友のやり方が間違っていると言いたげな千春にむっとする。
「友美が悪いとか良いとかと言う問題じゃないのよ。相場さんの立場ならそう思うだろうってことが言いたいだけよ」
「相場さんはお茶も飲まないでさっさと出て行こうとするし、千夏姉さんはボーっとして見送ろうとするし・・・。私すぐに追いかけなさいってけしかけたのよ。世話が焼けるわ」
「それで千夏姉さんは追いかけていったの?」
「ええ・・・。戻ってきたとき浮かない顔していたけど、ケンカしたというふうには見えなかったわ」
千秋がやきもきする気持ちもわかるけれど、千春には二人の関係が悪い方向へ向かっているとは思えない。
「二人とも好き合っているのは確かだし・・・。まあ、どうにかなるでしょうよ。千秋、心配することないって」
「どうにかなるでしょって・・・。千春姉さんはのんきすぎよ」
「千秋こそどうしたのよ。私たちの中で一番冷静なあんたがそんなにカッカして・・・。千秋らしくないよ」千春は、にやっと笑って言った。「はは~ん、一条さんとなんかあったんじゃない?彼が絡むと必ず突っ走るものね」
「千春ネエ!」

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