沢田隆之は自室の窓から庭を眺めた。三姉妹は正次がなぜ殺されたか、その真実を探ろうとしている。真実を探ろうとすれば危険が伴うことになる。できることなら事件と深く関わるようなことはさせたくない。それが沢田の本音だった。
誰が息子を殺したのかはわからない。正次宛の脅迫状が届いていたのは事実だが、その脅迫者が正次を殺したと結論付けるのはまだ早い、もし口封じに殺されたとしたら、犯人にとって不利な情報を息子が何かの形で知ってしまったと考えられる。三人がこの事件を探ろうとすれば、犯人も黙っているとは思えない。今度は彼女たちを標的にする可能性が高い。彼女たちがおとなしく全てを警察に任せて、この件から手を引いてくれれば良いが・・・。あとは一条がうまく三人を説得してくれることを願うばかりだ。
隆之はふっと笑った。口は悪いが心根の優しい姉妹は、正義感に溢れて過大に肝が据わって度胸もある。私がいくら関わるなと言っても、おとなしく引き下がるような三人ではない。一条の説得が失敗に終わることも考えられるが、その時は一条に彼女たちをサポートするよう指示しておこう。
誰が息子を殺したのかはわからない。正次宛の脅迫状が届いていたのは事実だが、その脅迫者が正次を殺したと結論付けるのはまだ早い、もし口封じに殺されたとしたら、犯人にとって不利な情報を息子が何かの形で知ってしまったと考えられる。三人がこの事件を探ろうとすれば、犯人も黙っているとは思えない。今度は彼女たちを標的にする可能性が高い。彼女たちがおとなしく全てを警察に任せて、この件から手を引いてくれれば良いが・・・。あとは一条がうまく三人を説得してくれることを願うばかりだ。
隆之はふっと笑った。口は悪いが心根の優しい姉妹は、正義感に溢れて過大に肝が据わって度胸もある。私がいくら関わるなと言っても、おとなしく引き下がるような三人ではない。一条の説得が失敗に終わることも考えられるが、その時は一条に彼女たちをサポートするよう指示しておこう。
なかなか本題に入ろうとしない一条に千秋は苛立っていた。どうも煮え切らない曖昧な言葉で、一条にはぐらかされている気がしてならなかった。一条が知りえる情報はまだあるはずなのに、私たちにそれを隠そうとしているように見える。
「この脅迫状は正次さん宛てですね」
「この部屋で見つかったということから考えれば、おそらく・・・」
「脅迫状を送りつけてきた人間が犯人ということかしら・・・」
「この脅迫状だけでは、そう簡単には断言はできないでしょう」
「正次さんはこの脅迫状を誰にも見られないようにここへ隠した。でも、なぜここなのかしら・・・。それに彼は何を脅迫されていたのかしら・・・。脅迫するくらいだからよほどの理由がないとね」
「脅迫状には詳しい内容は書かれていない。どの文面も似たようなものです」
「正次さん以外の人間が読んでも、何のことかわからないように注意深く言葉を選んでいたからじゃないかしら?」千春は千秋をチラッと目をやる。
「そうかもしれません」千春の問いに一条は答えた。
歯切れの悪い一条の言葉に、ますます千秋は苛立ちを募らせていた。千夏は注意深く一条を観察していた。一条が全てを話すとは初めから思っていなかった。自分たちがこのことに関わることをやめさせたいというのが彼らの本音だろうから、何処まで本当のことを話しているのかもわからない。だが、うまく話を聞きださなければ・・・。
「封筒には脅迫状と鍵三つとカードが入っていたというけど、三つの鍵は何処の鍵かわかっているのですか?一条さん?」
一条はアタッシュケースに手を伸ばし、中の封筒の上に脅迫状を置くと、手早くアタッシュケースを閉めた。一条の突然の行動に三人は呆気に取られる。
「これは一体どういうこと?」
千秋は一条の前に立って睨みつけたが、まるで視界に入らないかのように一条は千夏に向かって微笑んだ。
「皆さんお疲れのようですね。今日はこのくらいにしましょう。鍵のことはまた今度詳しく話しできると思いますので・・・」
「この脅迫状は正次さん宛てですね」
「この部屋で見つかったということから考えれば、おそらく・・・」
「脅迫状を送りつけてきた人間が犯人ということかしら・・・」
「この脅迫状だけでは、そう簡単には断言はできないでしょう」
「正次さんはこの脅迫状を誰にも見られないようにここへ隠した。でも、なぜここなのかしら・・・。それに彼は何を脅迫されていたのかしら・・・。脅迫するくらいだからよほどの理由がないとね」
「脅迫状には詳しい内容は書かれていない。どの文面も似たようなものです」
「正次さん以外の人間が読んでも、何のことかわからないように注意深く言葉を選んでいたからじゃないかしら?」千春は千秋をチラッと目をやる。
「そうかもしれません」千春の問いに一条は答えた。
歯切れの悪い一条の言葉に、ますます千秋は苛立ちを募らせていた。千夏は注意深く一条を観察していた。一条が全てを話すとは初めから思っていなかった。自分たちがこのことに関わることをやめさせたいというのが彼らの本音だろうから、何処まで本当のことを話しているのかもわからない。だが、うまく話を聞きださなければ・・・。
「封筒には脅迫状と鍵三つとカードが入っていたというけど、三つの鍵は何処の鍵かわかっているのですか?一条さん?」
一条はアタッシュケースに手を伸ばし、中の封筒の上に脅迫状を置くと、手早くアタッシュケースを閉めた。一条の突然の行動に三人は呆気に取られる。
「これは一体どういうこと?」
千秋は一条の前に立って睨みつけたが、まるで視界に入らないかのように一条は千夏に向かって微笑んだ。
「皆さんお疲れのようですね。今日はこのくらいにしましょう。鍵のことはまた今度詳しく話しできると思いますので・・・」
なんなのよ!千秋は車に乗り込んで、思い切りドアを閉めると、二人の姉は車に当たるなと声を揃えて言った。
「目の前にいる私を無視して・・・。頭にくるったらないわよ」
「上手くかわされたって感じね」千春は楽しげに言った。
「確かに、広間では会長に連れ回されて疲れたわ」千夏はどっかりとシートの背に寄りかかった。
沢田と関わる人間たちの顔ぶれを見る機会を得た三人だが、正次が殺された事件と彼らが関わっているかどうかまではわからない。糸口を掴むどころか複雑に絡んで、事件の謎は深まっていくばかりだ。脅迫状を受け取っていたのは正次に間違いないが、彼は何故脅迫をされていたのだろうか・・・。脅迫したのは誰なのかということを知る必要があるが、彼を殺してまでも隠そうとしたのは一体何か・・・。
「鍵が三つあるって、どういうことかしらね」千夏は大きく溜息を吐いた。
「脅迫状と鍵がどう結びつくのか・・・」千夏の横で千春は呟いた。
「正次さんは脅迫者の何を知っていたのかが問題よ」千秋は前方に広がる車線を睨むようにして言った。
「脅迫するような人間は、人を苦しめて自分の欲のために、平気で人を欺くような人間でしょうよ。お金や権力に目が眩んで、誰が苦しもうが悲しもうが関係ない。犯人が隠そうとしているものが何かわかれば苦労しないわ・・・」千春は首の後ろを右手で揉みながら目を閉じた。
「三つの鍵って一体何処のかわかれば、突破口を開くことができるってことじゃない?」千夏はシートに寄りかかったまま溜息交じりに言った。
「そうかな・・・。関係あるとは限らないじゃない・・・」疲れたように千春は言った。
「関係あるからでしょう。あの人が鍵のことになるとはぐらかしたくらいだから・・・」千秋はむすっとしながら言った。
「一条さんは、私たちが疲れていると思って話を早く切り上げただけでしょう。実際私たちもうくたくた・・・。千秋は運転して気が張っているから、そう感じないでしょうけど・・・」
「千夏姉さんの言う通りよ。千秋はあの人のことになるとどうしてそう過剰に反応するのよ」
「べ・・・別に・・・」
「いいから運転に集中しなさい・・・」千夏は千秋の声を遮りながら言った。
「目の前にいる私を無視して・・・。頭にくるったらないわよ」
「上手くかわされたって感じね」千春は楽しげに言った。
「確かに、広間では会長に連れ回されて疲れたわ」千夏はどっかりとシートの背に寄りかかった。
沢田と関わる人間たちの顔ぶれを見る機会を得た三人だが、正次が殺された事件と彼らが関わっているかどうかまではわからない。糸口を掴むどころか複雑に絡んで、事件の謎は深まっていくばかりだ。脅迫状を受け取っていたのは正次に間違いないが、彼は何故脅迫をされていたのだろうか・・・。脅迫したのは誰なのかということを知る必要があるが、彼を殺してまでも隠そうとしたのは一体何か・・・。
「鍵が三つあるって、どういうことかしらね」千夏は大きく溜息を吐いた。
「脅迫状と鍵がどう結びつくのか・・・」千夏の横で千春は呟いた。
「正次さんは脅迫者の何を知っていたのかが問題よ」千秋は前方に広がる車線を睨むようにして言った。
「脅迫するような人間は、人を苦しめて自分の欲のために、平気で人を欺くような人間でしょうよ。お金や権力に目が眩んで、誰が苦しもうが悲しもうが関係ない。犯人が隠そうとしているものが何かわかれば苦労しないわ・・・」千春は首の後ろを右手で揉みながら目を閉じた。
「三つの鍵って一体何処のかわかれば、突破口を開くことができるってことじゃない?」千夏はシートに寄りかかったまま溜息交じりに言った。
「そうかな・・・。関係あるとは限らないじゃない・・・」疲れたように千春は言った。
「関係あるからでしょう。あの人が鍵のことになるとはぐらかしたくらいだから・・・」千秋はむすっとしながら言った。
「一条さんは、私たちが疲れていると思って話を早く切り上げただけでしょう。実際私たちもうくたくた・・・。千秋は運転して気が張っているから、そう感じないでしょうけど・・・」
「千夏姉さんの言う通りよ。千秋はあの人のことになるとどうしてそう過剰に反応するのよ」
「べ・・・別に・・・」
「いいから運転に集中しなさい・・・」千夏は千秋の声を遮りながら言った。
数日後・・・。
千夏は一条から連絡を受けて、正次が住んでいたマンションへ千春と共に向かった。少し遅れて到着した千秋は、正次が住んでいたマンションを車の中から見上げた。ガラス窓を叩く音に気づいて助手席の窓を見ると一条と視線がぶつかる。一条は千秋に微笑みかけたが、千秋はニコリともせずに視線をはずした。千秋はキーを抜いて車の外へ出る。
「いつも機嫌が悪いようだな・・・」
「これが普通です・・・」バックを肩にかけ直しながら答える。
「この間のことをまだ怒っているのかい?」
「何のことです?」千秋はわざとらしく目を瞬く。
「別に君をわざと無視したわけではないよ」
「無視した?何を?」
一条は困ったように右手で額の髪をかきあげる。千秋は急に黙ってしまった一条を見上げた。一条は口元をおかしそうに歪めている。
「何を笑っているの?私をからかって何が面白いの・・・」
「君といると楽しいよ」
「はい?」からかわれたと思って憎らしげに一条を見る。
「妹が君だったら、ずっと兄妹げんかをしていたいと思うよ」
妹・・・。千秋はその言葉にカチンときた。
「私はあなたの妹じゃないわ!あなたみたいなお兄さんは要らない・・・。ばかにしないでちょうだい!」
「褒めているつもりなんだが・・・」
「どうせ、私は子供っぽいわよ」千秋はぷりぷりしながらマンションに向かって歩き出す。
「やれやれ・・・扱いにくい人だな・・・」一条はポケットに手を突っ込みながら頬を緩めた。
エレベーターの前に先に着いた千秋は、いちいち一条に腹を立てる自分に腹が立っていた。二人の姉にこの間も指摘されたばかりだというのに、また過剰に反応してしまった。後方に一条が近づいてくる足音が聞こえてくる。どんな人ごみの中でも、彼の足音を聞き分けることが簡単にできるくらい、千秋は彼の存在を意識している。
「三つの鍵は事件の関係者にとってもっとも厄介で、もっとも重要な役割を果たしているはずだ。相手は人を殺すことなどなんとも思わない。金と欲と権力の為に平気で非情になれる人間だ。それでも君はこの事件を調べるつもりかい?君たちに危険が及ぶことになってもかい?脅迫状に書かれてあったように、君の大切なものを失ってしまうかもしれない・・・それでも・・・」
千秋は一条の眼差しに釘付けになりながらゆっくりと頷いた。一条は千秋の目に一瞬恐怖が滲むのを見逃さなかった。
「とめても無理だとわかってはいる。でも、君は自分がどんな危険なことに巻き込まれているかちゃんと理解しているようだ。避けようとしても君たちはすでに大変なことに巻き込まれていると自覚してもらいたい」
「あなただって自分が危険に曝されているかわかっているくせに・・・」
一条はエレベーターのボタンを押しながら千秋の肩に腕を回した。温かなぬくもりがじわじわと伝わってくる。千秋は思わず涙ぐみそうになった。
「本当に頭にくるわ・・・。あなたは正義の味方、ヒーローかナイトになったつもりでしょうけど、白馬に乗った王子様なんて現実には存在しないのよ」
「君は現実主義でひねくれ者・・・。だけど、私はそんな君は嫌いじゃないよ」
エレベーターのドアが開いて、千春が姿を現す。
「あら・・・。いつの間に二人とも仲良くなったのかしら?」
姉の登場にびっくりして一条の腕を振り払う千秋。ばつの悪そうな妹をからかって楽しむ千春である。
千夏は一条から連絡を受けて、正次が住んでいたマンションへ千春と共に向かった。少し遅れて到着した千秋は、正次が住んでいたマンションを車の中から見上げた。ガラス窓を叩く音に気づいて助手席の窓を見ると一条と視線がぶつかる。一条は千秋に微笑みかけたが、千秋はニコリともせずに視線をはずした。千秋はキーを抜いて車の外へ出る。
「いつも機嫌が悪いようだな・・・」
「これが普通です・・・」バックを肩にかけ直しながら答える。
「この間のことをまだ怒っているのかい?」
「何のことです?」千秋はわざとらしく目を瞬く。
「別に君をわざと無視したわけではないよ」
「無視した?何を?」
一条は困ったように右手で額の髪をかきあげる。千秋は急に黙ってしまった一条を見上げた。一条は口元をおかしそうに歪めている。
「何を笑っているの?私をからかって何が面白いの・・・」
「君といると楽しいよ」
「はい?」からかわれたと思って憎らしげに一条を見る。
「妹が君だったら、ずっと兄妹げんかをしていたいと思うよ」
妹・・・。千秋はその言葉にカチンときた。
「私はあなたの妹じゃないわ!あなたみたいなお兄さんは要らない・・・。ばかにしないでちょうだい!」
「褒めているつもりなんだが・・・」
「どうせ、私は子供っぽいわよ」千秋はぷりぷりしながらマンションに向かって歩き出す。
「やれやれ・・・扱いにくい人だな・・・」一条はポケットに手を突っ込みながら頬を緩めた。
エレベーターの前に先に着いた千秋は、いちいち一条に腹を立てる自分に腹が立っていた。二人の姉にこの間も指摘されたばかりだというのに、また過剰に反応してしまった。後方に一条が近づいてくる足音が聞こえてくる。どんな人ごみの中でも、彼の足音を聞き分けることが簡単にできるくらい、千秋は彼の存在を意識している。
「三つの鍵は事件の関係者にとってもっとも厄介で、もっとも重要な役割を果たしているはずだ。相手は人を殺すことなどなんとも思わない。金と欲と権力の為に平気で非情になれる人間だ。それでも君はこの事件を調べるつもりかい?君たちに危険が及ぶことになってもかい?脅迫状に書かれてあったように、君の大切なものを失ってしまうかもしれない・・・それでも・・・」
千秋は一条の眼差しに釘付けになりながらゆっくりと頷いた。一条は千秋の目に一瞬恐怖が滲むのを見逃さなかった。
「とめても無理だとわかってはいる。でも、君は自分がどんな危険なことに巻き込まれているかちゃんと理解しているようだ。避けようとしても君たちはすでに大変なことに巻き込まれていると自覚してもらいたい」
「あなただって自分が危険に曝されているかわかっているくせに・・・」
一条はエレベーターのボタンを押しながら千秋の肩に腕を回した。温かなぬくもりがじわじわと伝わってくる。千秋は思わず涙ぐみそうになった。
「本当に頭にくるわ・・・。あなたは正義の味方、ヒーローかナイトになったつもりでしょうけど、白馬に乗った王子様なんて現実には存在しないのよ」
「君は現実主義でひねくれ者・・・。だけど、私はそんな君は嫌いじゃないよ」
エレベーターのドアが開いて、千春が姿を現す。
「あら・・・。いつの間に二人とも仲良くなったのかしら?」
姉の登場にびっくりして一条の腕を振り払う千秋。ばつの悪そうな妹をからかって楽しむ千春である。
