沢田は正次の部屋で話がしたいと三人を連れてくると、正次が使っていた机の椅子に座った。
「何度もお呼びたてして申し訳なかった。今日は沢田グループの今後のことについて関係者に集まってもらった。沢田家と沢田グループ関係者が揃ったわけだが、彼らは誰が私の後継者になるかに興味があるだけだ。私がここで倒れたことを知る者はわずか。君たちを含めてな・・・」
三人はあまり顔色の良くない沢田を見て黙って頷いた。
沢田は沢田グループの会長としての責務を果たし多忙な毎日を送っている。息子を失った悲しみや過失感は大変なものだろうと想像できる。沢田の表情には疲労が色濃く影を落としていた。
「例のものをここへ持ってきてくれたか?」
三人が部屋の入口に立つ一条を見た。この部屋に入る前に、沢田に何か言われて引き返していった一条がいつの間にか戻ってきた。一条はアタッシュケースを机の上に置いた。沢田は机にチラッと視線を向けただけで、膝の上で手を重ねて目を閉じた。
「私はあの日ここであるものを見つけた」
「沢田家で初七日を行われた日のことですね」顔色は悪いがしっかりした口調の沢田を見た千夏はちょっと安心する。
沢田はゆっくりと目を開けると、机の上に視線を戻してアタッシュケースを見た。一条は沢田のそばに立ちアタッシュケースを開いた。
「私はベッドの下で封筒を見つけた。ベッドの下で見つけたといっても、畳の間に茶色の紙がはみ出ているのが見えただけで、それが封筒だとわかるはずもない。私はしゃがみ込んで初めて単なる紙切れではないと気づいた。私は少し畳を上げてそれを引っ張ったが、途中で引っかかって破けてしまった。ちょうどベッドの脚が重石になって抜けなかったわけだ。封筒の中から新聞や広告の文字の切抜きを使った脅迫状が数枚出てきた。引っ張った拍子に紙が破れ途中文章が途切れてはいたが、それが脅迫状だとすぐ察しがついた。こんな切抜きを使って文章を作るなど普通は考えられないからね。内容を理解すると同時に私はそのまま気を失った。しっかりと紙を握り締めたまま倒れていたそうだ」
沢田のそばについている一条なら体調があまり良くないことに気づいていたはずだ。会長の姿が見えないと気づいた一条さんは慌てて探し回った。そして、ここに倒れている沢田会長を見つけたというわけだ。
「私たちがここへ来た時、封筒は見当たりませんでした」千秋は一条に視線を走らせて言った。「ただ、沢田会長が何か手に握り締めているということだけはわかりました。紙のようなものだとしかわかりませんでしたけど・・・」
「だから、私たちはここで会長が倒れていたのはその紙が原因ではないかと考えました。私はそのことには気づきませんでしたが、千春と千秋は気づいていたようで・・・」
「一条さんは封筒をこの部屋のどこかに隠した。でも、その時は会長が手にまだ脅迫状の紙切れを握っていることに気づかなかった」千秋はじっと一条を見つめて言った。「脅迫状を読んだあなたは、ここで会長がこの脅迫状を読んで倒れたことを隠さなければならないと考えた。葬儀の後で会長が疲労の為に倒れたと思わせなければならない。だから、私たちをわざわざ連れてきた。なぜなら、私たちがここで何が起きたか探ろうとするだろうと思ったから・・・。それを避けるためにわざわざあの時ここへ連れて来た。目の前で会長が運ばれていくのを見せ、動揺している私たちに会長が疲労で倒れたと強調しようとした。でも、私たちは会長が紙の切れ端を握り締めているのを見てしまった。それで私たちは疑いを持つようになった。私たちは会長がただの疲労ではなく、別の原因で倒れたのではないかと気づいた」
沢田は感心したように千秋を見る。一条はこれに対してどう応えるか興味深いものだ。それにしてもなんと感のいい姉妹だ。特にこの千秋という妹は鋭いところを突く。
「その上、会長がここで何を見つけたか私たちに話すと言い出した」千秋は挑むように一条を見つめた。「多分、会長は千夏姉さんの為にそうすべきだと思ったのではありませんか?」
「ほう・・・。そこまで読んでいたのかね。驚いたな・・・」沢田は微笑んだ。驚くどころか面白がっている。「どうしてそう思うのかね?」
「千夏姉さんは仕事部屋で正次さんが殺されたのは、自分のせいだと責めていると思ったのではないかと・・・」
「正次が殺されたのは福山先生のせいではないと思っている」沢田はいたわるように千夏を見つめた。「ただ、池で起きた二つの事件と正次が殺されたこと・・・。全てが結びついているのか、それともまったく関連がないのかはわからない。君たちは色々調べているようだね。隠そうとすればするほど君たちは色々探ろうとしてくる。そのことで君たちが危険な何かとんでもないことに巻き込まれることも考えられる。できるなら君たちを危険な目に遇わせたくない。これを見せることが君たちとって良いことなのかはわからない。私が倒れた原因をあれこれ詮索させるより、きちんと話す方がお互いの為だ。それに、駄目だと言っても聞くような君たちでもないだろうしな・・・」
「そうですね、確かに・・・」千春は微笑んだ。「でも、三つの事件が解決されない限り、私たちは危険から身を守ることはできません。多少なり事件のことを知っておくべきだと思っています。何も知らされないままでは、いつも何かにおびえて暮らさなければならなくなります。それに、これ以上誰かが苦しめられたり殺されたりするのは耐えられない」
「日本の警察は優秀です。いずれ犯人は捕まるでしょう。それに一般人のあなたたちに何ができるというのですか?」一条は静かだがどこか冷ややかな口調で言った。
一条は自分たちがこのことに関わることをやめさせたいのだと千夏は考えた。それに自分が襲われそうになったことも沢田に隠している。隠すには何か理由があるはずだ。正次が自分の仕事部屋で殺されたあの日、自分の両肩を掴んで口走った一条のあの言葉がずっと引っかかっていた。
「真相を突き止める・・・」千夏は呪文を唱えるように呟いた。
千夏の呟きに一条は振り返った。千夏は自分が呟いたことを意識していないようだった。一条の冷ややかな視線を瞬きで返した。
「そうだな・・・。真相を突き止めなければ・・・」千夏の呟きに沢田は答えた。
沢田の声で一条の冷ややかな視線は机の上のアタッシュケースへと向けられた。
「一条、 例のものを彼女たちに見せてくれ」
一条は沢田の指示通りアタッシュケースに納められていた封筒を出した。その封筒は底が抜けて破れ、A4のコピー用紙のような紙がめくれて見えている。一条はそれを取り出し机の上に置いた。紙には新聞や雑誌を切り抜いた文字が不ぞろいな形で貼り付けられている。
千夏はその紙をとろうと手を伸ばしたが、一条の方が早くその紙を取り上げた。千夏は問うように一条を見た。
「手を引け、手を引かなければ殺す。さもなければお前は大事なものを失うことになる。真相を突き止めるというような愚かなことを考えるな・・・。口を噤め、貝のように・・・」
一条は冷ややかな声で脅迫状を読み上げ、千夏へと視線を向けた。千夏の顔は強張り目には恐怖の色が滲んだ。千秋は二人の間にある緊張を怪訝な表情を浮かべて見つめた。
「この封筒には脅迫状と鍵が三つとカードが入っていた。鍵とカードのことは後で知った。私は脅迫状を見て倒れたものでね」沢田は深い溜息を吐いた。
「沢田会長?大丈夫ですか?」千春は心配そうに沢田を見る。
「ああ、大丈夫だ。しかし、私も年を取ったものだ」沢田は肩を落として大きく息を吸った。
「お疲れになったのでしょう。後は私が・・・」一条は沢田を気遣うように言った。
「そうだな・・・。後のことは君に話してもらおう」
「ワンマン経営者も年には敵わないってことでしょう」千秋はぶっきらぼうに言うと、沢田を支えながら立たせた。
「若いお嬢さんにそう言われると真実味が湧くものだな・・・」沢田はひねくれたように口を尖らせていたが、目は柔らかく楽しげに煌いていた。
「素直におとなしく言うことを聞くべきです。また、病院へ逆戻りしたいのですか?」
「そうだな・・・。あなたの言うとおりだ」
沢田は千秋に支えられながらドアまで歩いていく。ドアの前に来るとまるで事前に示し合わせたようにドアが開き、一条の部下が入ってくると千秋に頭を下げた。沢田は自分を支えている千秋の腕をゆっくり放す。
「後は頼むぞ、一条・・・」
「はい、指示通りに・・・」
沢田は満足そうに頷くと、一条の部下と共に部屋を出て行った。
「説明して頂戴、一体これはどういうことか・・・。隠さずちゃんと最後まできちんと納得のいく説明をしてもらいましょう」
千秋は挑むように一条と真正面で向き合う。千春と千夏は千秋を挟んで並び、一条の前に立ちはだかる。まるで戦いを挑むかのように・・・。

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「何度もお呼びたてして申し訳なかった。今日は沢田グループの今後のことについて関係者に集まってもらった。沢田家と沢田グループ関係者が揃ったわけだが、彼らは誰が私の後継者になるかに興味があるだけだ。私がここで倒れたことを知る者はわずか。君たちを含めてな・・・」
三人はあまり顔色の良くない沢田を見て黙って頷いた。
沢田は沢田グループの会長としての責務を果たし多忙な毎日を送っている。息子を失った悲しみや過失感は大変なものだろうと想像できる。沢田の表情には疲労が色濃く影を落としていた。
「例のものをここへ持ってきてくれたか?」
三人が部屋の入口に立つ一条を見た。この部屋に入る前に、沢田に何か言われて引き返していった一条がいつの間にか戻ってきた。一条はアタッシュケースを机の上に置いた。沢田は机にチラッと視線を向けただけで、膝の上で手を重ねて目を閉じた。
「私はあの日ここであるものを見つけた」
「沢田家で初七日を行われた日のことですね」顔色は悪いがしっかりした口調の沢田を見た千夏はちょっと安心する。
沢田はゆっくりと目を開けると、机の上に視線を戻してアタッシュケースを見た。一条は沢田のそばに立ちアタッシュケースを開いた。
「私はベッドの下で封筒を見つけた。ベッドの下で見つけたといっても、畳の間に茶色の紙がはみ出ているのが見えただけで、それが封筒だとわかるはずもない。私はしゃがみ込んで初めて単なる紙切れではないと気づいた。私は少し畳を上げてそれを引っ張ったが、途中で引っかかって破けてしまった。ちょうどベッドの脚が重石になって抜けなかったわけだ。封筒の中から新聞や広告の文字の切抜きを使った脅迫状が数枚出てきた。引っ張った拍子に紙が破れ途中文章が途切れてはいたが、それが脅迫状だとすぐ察しがついた。こんな切抜きを使って文章を作るなど普通は考えられないからね。内容を理解すると同時に私はそのまま気を失った。しっかりと紙を握り締めたまま倒れていたそうだ」
沢田のそばについている一条なら体調があまり良くないことに気づいていたはずだ。会長の姿が見えないと気づいた一条さんは慌てて探し回った。そして、ここに倒れている沢田会長を見つけたというわけだ。
「私たちがここへ来た時、封筒は見当たりませんでした」千秋は一条に視線を走らせて言った。「ただ、沢田会長が何か手に握り締めているということだけはわかりました。紙のようなものだとしかわかりませんでしたけど・・・」
「だから、私たちはここで会長が倒れていたのはその紙が原因ではないかと考えました。私はそのことには気づきませんでしたが、千春と千秋は気づいていたようで・・・」
「一条さんは封筒をこの部屋のどこかに隠した。でも、その時は会長が手にまだ脅迫状の紙切れを握っていることに気づかなかった」千秋はじっと一条を見つめて言った。「脅迫状を読んだあなたは、ここで会長がこの脅迫状を読んで倒れたことを隠さなければならないと考えた。葬儀の後で会長が疲労の為に倒れたと思わせなければならない。だから、私たちをわざわざ連れてきた。なぜなら、私たちがここで何が起きたか探ろうとするだろうと思ったから・・・。それを避けるためにわざわざあの時ここへ連れて来た。目の前で会長が運ばれていくのを見せ、動揺している私たちに会長が疲労で倒れたと強調しようとした。でも、私たちは会長が紙の切れ端を握り締めているのを見てしまった。それで私たちは疑いを持つようになった。私たちは会長がただの疲労ではなく、別の原因で倒れたのではないかと気づいた」
沢田は感心したように千秋を見る。一条はこれに対してどう応えるか興味深いものだ。それにしてもなんと感のいい姉妹だ。特にこの千秋という妹は鋭いところを突く。
「その上、会長がここで何を見つけたか私たちに話すと言い出した」千秋は挑むように一条を見つめた。「多分、会長は千夏姉さんの為にそうすべきだと思ったのではありませんか?」
「ほう・・・。そこまで読んでいたのかね。驚いたな・・・」沢田は微笑んだ。驚くどころか面白がっている。「どうしてそう思うのかね?」
「千夏姉さんは仕事部屋で正次さんが殺されたのは、自分のせいだと責めていると思ったのではないかと・・・」
「正次が殺されたのは福山先生のせいではないと思っている」沢田はいたわるように千夏を見つめた。「ただ、池で起きた二つの事件と正次が殺されたこと・・・。全てが結びついているのか、それともまったく関連がないのかはわからない。君たちは色々調べているようだね。隠そうとすればするほど君たちは色々探ろうとしてくる。そのことで君たちが危険な何かとんでもないことに巻き込まれることも考えられる。できるなら君たちを危険な目に遇わせたくない。これを見せることが君たちとって良いことなのかはわからない。私が倒れた原因をあれこれ詮索させるより、きちんと話す方がお互いの為だ。それに、駄目だと言っても聞くような君たちでもないだろうしな・・・」
「そうですね、確かに・・・」千春は微笑んだ。「でも、三つの事件が解決されない限り、私たちは危険から身を守ることはできません。多少なり事件のことを知っておくべきだと思っています。何も知らされないままでは、いつも何かにおびえて暮らさなければならなくなります。それに、これ以上誰かが苦しめられたり殺されたりするのは耐えられない」
「日本の警察は優秀です。いずれ犯人は捕まるでしょう。それに一般人のあなたたちに何ができるというのですか?」一条は静かだがどこか冷ややかな口調で言った。
一条は自分たちがこのことに関わることをやめさせたいのだと千夏は考えた。それに自分が襲われそうになったことも沢田に隠している。隠すには何か理由があるはずだ。正次が自分の仕事部屋で殺されたあの日、自分の両肩を掴んで口走った一条のあの言葉がずっと引っかかっていた。
「真相を突き止める・・・」千夏は呪文を唱えるように呟いた。
千夏の呟きに一条は振り返った。千夏は自分が呟いたことを意識していないようだった。一条の冷ややかな視線を瞬きで返した。
「そうだな・・・。真相を突き止めなければ・・・」千夏の呟きに沢田は答えた。
沢田の声で一条の冷ややかな視線は机の上のアタッシュケースへと向けられた。
「一条、 例のものを彼女たちに見せてくれ」
一条は沢田の指示通りアタッシュケースに納められていた封筒を出した。その封筒は底が抜けて破れ、A4のコピー用紙のような紙がめくれて見えている。一条はそれを取り出し机の上に置いた。紙には新聞や雑誌を切り抜いた文字が不ぞろいな形で貼り付けられている。
千夏はその紙をとろうと手を伸ばしたが、一条の方が早くその紙を取り上げた。千夏は問うように一条を見た。
「手を引け、手を引かなければ殺す。さもなければお前は大事なものを失うことになる。真相を突き止めるというような愚かなことを考えるな・・・。口を噤め、貝のように・・・」
一条は冷ややかな声で脅迫状を読み上げ、千夏へと視線を向けた。千夏の顔は強張り目には恐怖の色が滲んだ。千秋は二人の間にある緊張を怪訝な表情を浮かべて見つめた。
「この封筒には脅迫状と鍵が三つとカードが入っていた。鍵とカードのことは後で知った。私は脅迫状を見て倒れたものでね」沢田は深い溜息を吐いた。
「沢田会長?大丈夫ですか?」千春は心配そうに沢田を見る。
「ああ、大丈夫だ。しかし、私も年を取ったものだ」沢田は肩を落として大きく息を吸った。
「お疲れになったのでしょう。後は私が・・・」一条は沢田を気遣うように言った。
「そうだな・・・。後のことは君に話してもらおう」
「ワンマン経営者も年には敵わないってことでしょう」千秋はぶっきらぼうに言うと、沢田を支えながら立たせた。
「若いお嬢さんにそう言われると真実味が湧くものだな・・・」沢田はひねくれたように口を尖らせていたが、目は柔らかく楽しげに煌いていた。
「素直におとなしく言うことを聞くべきです。また、病院へ逆戻りしたいのですか?」
「そうだな・・・。あなたの言うとおりだ」
沢田は千秋に支えられながらドアまで歩いていく。ドアの前に来るとまるで事前に示し合わせたようにドアが開き、一条の部下が入ってくると千秋に頭を下げた。沢田は自分を支えている千秋の腕をゆっくり放す。
「後は頼むぞ、一条・・・」
「はい、指示通りに・・・」
沢田は満足そうに頷くと、一条の部下と共に部屋を出て行った。
「説明して頂戴、一体これはどういうことか・・・。隠さずちゃんと最後まできちんと納得のいく説明をしてもらいましょう」
千秋は挑むように一条と真正面で向き合う。千春と千夏は千秋を挟んで並び、一条の前に立ちはだかる。まるで戦いを挑むかのように・・・。

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