武良先生に関する思い出を整理していたら、ふと僕は水木作品によって
漫画関係者にとって大事な信念
を教わっていたんだと改めて思った。それを今回、回顧録的に語ってみると…
…僕が昭和の漫画界に物凄く詳しいのは、幼少時に貸本屋が近所にあった事が大いに関係していた。
この貸本屋がまた凄く、当時発刊されていた少年少女誌やコミックスをほぼ全部購入しており、店内は辺り一面、天井から床下まで隙間なくの本だらけだった。
バビル2世に出てくるバベルの塔をイメージし、そこにある背景のコンピューターがまんま漫画本と言えばいいだろう。
ただ、時は昭和50年代に突入しており、この貸本屋は地元では
古臭い本屋
のイメージで有名だった。
今日だと資料性に値するはずのこの店は、余りにも時代を先取りし過ぎていたからか…ある日を境に本の購入を一切止めてしまった。
貸本屋は旧作が財産のはずなのに、新作しか借りられない現象に、この店主がついに嫌気をしたのかもしれない…
実際、昭和50年代における貸本屋の存在とは、いつ廃業してもおかしくない職業だった。
そんなバックボーンを知らず、ある日僕はこの店に入った。入った理由は最新の少年ジャンプを見たいがためだった。
だが店主が用意した最新の少年ジャンプは全く別物で、3年前の少年ジャンプだった。
嘘やん!
が、確か最初に出た言葉だったと思う。いくら子供でも騙すなよ!とも思ったと思う。
だが、出会いこそ最悪だったが、僕はこの貸本屋の店内に圧倒と興奮を覚え、気付いたらこの店に足しげく通う漫画バカ少年になっていた。
僕にとって最もラッキーだったのは
古い漫画ほど安く読める
だった。そして僕は、ここに置かれた少年誌やコミックスをほぼ全て読み、最終的には横山光輝先生の有名なマニア(コレクター)に成長していた。
僕が集めた横山関連本は全部で15000冊ほどで、これは横山作品の全体の7割に相当するだろうか。
今現在、横山光輝先生のホームページにも発表されていない幻の横山作品をいくつも知っており、それを持っていた数少ない貴重な人間になっていた。
後年、僕は店を経営するために資金作りとして15000冊以上のコレクションを古書店に売却した。
その買い取り金額800万弱…
その大金を元手に商売を始めるも、結果的に店経営は失敗に終わり、大金をドブに捨てるだけでなく、僕は人生における最大の挫折感をこの時味わった。
と、水木作品についての話が今回のメインなので、話を戻すと…
僕が水木作品で最初に読んだ漫画は、ジャンプコミックスの『千年王国』の全4巻だった。
この本はジャンプコミックスが誕生して間もない頃に発売されたものだが、タイトルだけ聞くと知らない人が多いと思う。
だが、この作品が『悪魔くん』と言えば世間にも通じるだろう。
実は水木作品の『悪魔くん』とは全部で5種類存在し、内容は以下のように分類される。
初代:貸本漫画の書き下ろし単行本、全5巻予定だったが販売不振により3巻で中断の未完作品。
2代目:講談社の少年マガジン系列で連載、特撮の悪魔くんはこれがベースになる。
3代目:初代をリメイクして少年ジャンプで連載。これが今回の話の肝になる千年王国である。
4代目:1980年代のリバイバルブームに作られた読み切り作品。悪魔くんと鬼太郎が協力して敵を倒す内容に仕上っている。
5代目:武良先生が鬼太郎を含む過去作品で食べている矢先に中小出版の依頼により連載した新作もの。
僕が武良先生と話した際に、3代目の千年王国が先生の作品の中で一番好きだと話すと先生は非常に喜んで下さり、悪魔くんに関する作品秘話をおっしゃって下さった。
その内容は…先生ご自身も(悪魔くんは)3代目が一番お気に入りとの事だった。
また3代目の話は初代と違い、無事最後まで物語を完結させられたのが嬉しかったともおっしゃっていた。
それは漫画家や原作者にしか解ってもらえない感情なのかもしれないが…未完の作品ほど心残りなものはない!
個人的には、人生における敗北の烙印にも相応しいと思っている。
世間では2代目が悪魔くんと認知されているにも関わらず3代目を手掛ける先生の執念。
この執念は漫画家や漫画家を目指す人間ならば、是非とも取り入れて欲しい感情だと僕は思っている。