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フレンズ

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世界は神といわれる存在によって作られたらしい。

 

曰く、人類という存在は神の創造物であり、その神の遺構を用いて生きているのだとか。

 

全く理解できない。

 

なぜ、神などという超常的存在などがこの世界を創造できようか。

 

出来ぬだろう。

 

なぜなら神など人類が作り出した、まやかしに過ぎないのだから。

 

人々は盲目的に神を信じて疑わない。なぜだ。

 

わからない。

 

窓の外では熱心な指導者たちが、昨今の猟奇殺人犯を救済すべしと唱えている。

 

神を信ずれば救われるということらしい。

 

愚かと断ずればそれまでだが、よくよく聞いてみれば面白げなことをいっていた。

 

「神は、何れの物に現れず。すべての者の後ろにおわす。

 己が知覚を持って感じること叶わず。

 しかし常にわれらは守られている。」

 

おもしろい文言だ。妄言というべきか。

 

そんなことは問題ではない。

 

彼らが言うその概念はとてもおもしろい。

 

いつも後ろに立っているのだから見えないし、感じ取れないと。

 

そしてその背後に立つ神がわれわれを守ってくれているのだと。

 

「これはまた、すばらしい」

 

思わず声が漏れてしまう。

 

「どうかなされましたかな、ジャック神父」

 

「いえ、今回の筋書きがあまりにすばらしかったもので」

 

「筋書きとは、あまり笑えないご冗談ですな」

 

私と、目の前に座るこえた男との間には足の低いテーブルとひとつの書類の束があった。

 

書類にもう一度目を通すため、手に取る。

 

「よく、考えていただきたい。カングリー卿。今回の事件は私がどうこう出来る類ではありませんよ」

 

「しかし、この事件の手口は人間業とは思えない」

 

カングリーが言うように、すべての被害者には本来ならありえない共通点が存在する。

 

「一晩で人間の水分を絞りつくす。これは確かに人間業ではない」

 

「でしょう!ミドウ伯爵も早期の解決を望まれております

 私自身も、子爵という立場を抜きにしてもこの事件は早くに解決してしまいたいのです」

 

カングリーはゆっくりとその脂肪過多の体を、前傾にしていく。

 

「それで私の元へいらっしゃったと。

 ここに来るまでの間にお調べになられませんでしたか。第六教会について」

 

「お恥ずかしながら、名前以外のことはなにも。

 個人としては噂はいくつか耳にしております。

 奇術の類を使い神への信仰を妨げるもの達であるとか、他宗派の工作員だとか」

 

「総じてしまえばあまりいいものではありませんな。この国や地方にとって」

 

「ええ。そうですね」

 

「ここがその第六協会の支部だということは、ご存知で?」

 

「ジャック神父。私は第六協会を噂のままのものだとは思っていないのです」

 

「やはり、おもしろい筋書きだ」

 

カングリーはひどくその顔を歪ませる。

 

「世間は今回の事件を我ら第六協会の仕業だということにしたがっている。

 それはあなた方行政も同じだ。

 我々が怪異に対して行ってきた対策すべてをこの国、アトビアの成果とした。

 そして次は自分達が対処が出来ないと見るや。私達を頼る。

 これは、とてもよく出来た喜劇だ。笑いが止まりませんよ」

 

ゆっくりと立ち上がり、ソファアを離れる。

 

窓の外ではこちらを血眼で見つめる民衆と、それを取り巻く目に色を失った有象無象。

 

「私達はなにもあなた方を責めたいわけではない。

 むしろより多くの人類が救われることこそが、我々の望む未来です。

 その為ならば犠牲などいといません。しかし」

 

視線をカングリーへと向ける。

 

いくつかの蝋燭だけが照らすこの部屋でさぞ私は不気味に映ることだろう。

 

「外の彼らは、果たしてわれらと同じ人類なのでしょうかね。それとも私が異質なのでしょうか」

 

問いは空間に小さくこだました。

 

その顔に苦悶を浮かべた老官は、ゆっくりと口を開いた。

 

「わが国では、他宗教は悪だとされている。

 例えそれがどれだけよいもであっても。

 それがわが国の現実だ」

 

「よく、知っていますとも。

 ひとつの教えに倣うことで、人を操り、ほかの教えを絶つことで正常な感覚を殺す。

 まさに神のみわざにも等しい」

 

深くうなだれたままのカングリーに問う。

 

「しかしあなたは、私を頼った。異教徒の私を。なぜですか」

 

「あなたにしか、頼る道が、なかったのです。

 そしてもしこの事実が明るみに出てもいいように私は一人でここにいます」

 

「すべてはあなたの独断ということ、ですか。

 何の面白みもない話だ。お引取り願いましょうか」

 

カングリーは一度大きく目を見開き、やがってゆっくりと大きなため息をついた。

 

「明日、もう一度伺います。もとより、一度で」

 

言葉を遮り、背を向ける。

 

「いえ、来ていただかなくて結構です。

 あなた方は暖かいお屋敷から眺めていてくだされば結構ですよ」

 

「しかし……」

 

「あなた方に出来ることが何か?」

 

背中越しに子爵を一瞥する。

 

「……わかりました。ではお任せします。すべては主のお心のままに」

 

カングリーは重たげに腰を上げ、一礼を済ませ部屋を出て行く。

 

異教徒相手に祈りを、それも自身の神にささげるというのはどういう了見なのだろうか。

 

「そもそも、この世界に神なんてものは存在しえませんが」

 

独り言をもらしていることに気づき、口角がゆっくりとつりあがっていく。

 

この世界に、もし神がいるとするのなら。

 

「きっと私は、一番に罰せられるのでしょうねぇ」

 

机の上におかれた山高帽をしっかりと被る。

 

朱色がかった髪が僅かに震えた。

 

「神はいませんが、もし現れるのなら、殺してあげますけどねぇ。

 この、わたしが」

 

灯った蝋燭が、一斉に消えた。

 

部屋に残されたのは、古びた机と二脚の椅子。

 

そして、赤で彩られた巨大なアトビア文字。

 

“神を殺すは、命の輝き”

 

そして無残にも引き裂かれた首なしの死体だった。