「笑えよ」
彼はそういった。
私に。笑え、と。
わからなかった。どうしてそうするべきなのか。
問うた。
なんで?
答えは簡単だった。
「泣いてるよりはましだからだよ」
でも、私は悲しいんだ。
泣きたい、気持ちなんだ。
かなしの、どうしてわかってくれないの?
彼は困ったように答えた。
「俺は、俺のことだってよくわかってないから。だから、だよ」
答えに、なっていない。そう感じた。
誤魔化さないでよ
少し、手に力が入った。声は少し震えた。
「わかんないもんは、わかんねーよ!」
目の前の男の子は苦しそうだ。どうしてだろうか。わからない。
「俺が、いまどうしたらいいのかも、お前をどうしてやればいいのかも!わかんね!」
小さく震える、本当にちいさなこぶしが硬く握られている。
泣きたいのは、泣いているのは私だ。私なんだ。
なのに。
どうして、君が、泣くの?
「な、泣いてねーし!」
顔を僅かにゆがめる君は、震えながら手を腰に当てて胸を張って見せた。
「笑ってるし!」
私と同じくらいの背丈。
私と同じ歳の、私より少しだけ嘘をつくのが上手で、でも下手な私の友達。
「笑え!笑ってなきゃ、前見えない!転んだら痛いし、もっといっぱい泣きたくなっちゃうだろ!」
必死、だった。
涙がいくつも落ちる。私の頬をすべっていく。
でも。
なら、笑わせて
「え?」
笑わせてよ、私のこと
「えっと、よくわかんないけど、い、いいぞ!」
少し戸惑いながら、不可解を抱えたまま大げさに笑ってくれる。私のぴえろさん。
なら、笑ってみる
涙を拭いながら、すこしだけ笑ってみせる。
「笑ったな!なら、もう泣いちゃだめな!」
そんなの、わかんないよ
「いいや!わかるね!」
どう、して?
「聞いてばっかりだな。ちょっとは自分で考えろよー」
いじわる
少しうつむいて見せた。
「わ、わわ!うそうそ!!教えるから!泣かないで!」
不安そうに顔を覗き込んでくれた。
だから。
「はい!?」
ぎゅっと抱きしめた。お父さんと、お母さんがしてくれたときみたいに。
ありがと
わけがわからなくて慌てているいるのがかわいくて、すこし意地悪をしてみたくなったけど我慢する。
ごめん
すっと一方後ろに下がって、謝る。
「え、いや。うん?べ、別になんともないけど!」
顔が赤いのが少しおかしくて、笑ってしまう。
「い、いいよ」
え?
「笑ってくれるなら安いもんだ!」
そういって両手を恥ずかしそうに広げた君を、私はまっすぐに見ることが出来ない。
うつむいたまま、ゆっくりとその肩に頭を預ける。
私の体を、不器用な細い腕が包みこむ。
首にくっつけた耳から、強い鼓動を感じた。
おと
「え?」
きみの、おとが聞こえる
「心臓の音?」
たぶん
「どくんどくんって?」
うん、でも話してるときは、こえみたいなのも
「いやな感じ?」
ううん、安心する
「そっか、ならいいや」
腕の力が少しだけ強くなる。
「好きなだけ、聞いとけ。んでまた泣きそうになったら言え!」
いい、の?
「その時に俺が近くにいたら、またこうしてやるから!それがもう泣かない理由!!」
どこか楽しそうに言う君が、とても眩しくて。
だめ、私が泣きそうになったらちゃんと傍にいて
いじわるをしたくなってしまう。
「えぇ。俺サッカーとかしたいんだけど」
そのときは、走って来て
「うーん。いいけど」
無理でしょ!
顔を上げて、笑う。
「わかんねーし!」
君も、笑う。
もし、もしね
「うん」
このおとが、聞けなくなったら、私また泣いちゃうかも
「そりゃないね!」
どうして?
「俺の心臓は、俺が死んでもしばらくは動くから!」
うそだぁ!
「いや、テレビで言ってたし!」
ホント?
「本当だって!だから、心配するな!」
私を抱きしめる腕がゆっくりととほどけていく。
「俺の鼓動(おと)がやんだら、なんてことは気にすんな!気にせず笑ってりゃいいの!笑っててください!」
いたずらっぽく笑うその顔が、根拠のない、でもまっすぐな君の言葉が、私は好きになった。
君がいてくれてよかった。
ありがとう
fin