つきのないよる #4 | フレンズ

フレンズ

自作小説を中心にupしていきます!

お楽しみいただけると嬉しいです

足元から忍び寄るような冷気が全身を包んでいく。


静寂とわずかな獣の声が、耳に届く。


そこから眺める広い世界が私をさらに包んでいるのだと思うと、言葉にならない無力感に苛まれる。


「私は、あの人のために、なにができるのだろう」


手の中に握る二つのカプセル。


艶のいい黒髪と派手な赤い髪が五本ずつ入っている。


「ただ、待っていることしかできないなんて……私は……」


風に揺れる髪が煩わしく、落ちていく涙がひどく冷たかった。



「各員の配置状況をミミコ、頼む」


「はい。後方支援部隊が今回の召集の過半数を占めているため、工作部隊が2チーム。強襲部隊が1チーム、撤収、情報隠ぺいチームが4チームとなっています」


ブリーフィングの大半を終え、ミミコからの事務連絡に耳を傾ける。


「工作員はどの程度潜り込んでいる」


「先月から事務作業員などの名目で数名、戦闘可能な要員が控えています。作戦が発動された時点で同調し施設の破壊を開始する手はずです」


「おおむね作戦通り、か」


「あとは本日到着される、141番様がいらっしゃり次第私がお二方を施設上空に転移させていただき、翌朝0600に回収段階を経て任務完了となります」


執務室にわずかな沈黙が流れる。


腕時計を確認すると、短針はいまだ11時の中頃を指していた。


「あいつが参加できるのは珍しいし、他にいなかったのはわかるんだけど……」


深いため息とともに、背もたれにゆっくり体重を預ける。


「苦手なんだよねぇ。アレ」


「トーヤァ?アレ呼ばわりはないんじゃないのぉ?」


背もたれから突如として伸びた腕に呆れこそすれ、驚きはしなかった。


「141番様、遠路遥々お越しいただきありがとうございます」


恭しく頭を下げる部下に視線を軽く送ると、首を軽く横に振っている。


「お前な、せめてミミコに連絡くらい入れてくれ」


「ここのセキュリティーがザルすぎるだけでしょー。そんなことあたしはしらないわぁー」


俺自身の体を通り抜けて徐々に姿を現したのは、身長は190に迫ろうかという引き締まった肉体の男。


赤い頭髪がひどく目にうるさいが、それを艶やかに振りながら歩いていく。


体に当たるものすべてを透き通りながら進み、執務室のソファーに腰を下ろす。


「お久しぶりよねぇ、陸ガメに来るのは」


「お前は特にそうだな、141番。いや今はなんて名乗ってるんだっけ?正義の使者ローズレッドだっけ?」


その言葉が終わるか終わらないかという瞬間に、背後の壁へ大型のナイフが突き刺さる。


「横の子は知らないだろうから教えてあげるわね。私の名前は紅薔薇(べにばら)。そこの間抜けみたいなことを言えばきれいな血の花が咲くわよ」


「おーこえぇ。いつ投げたのやら」


立ち上がりこちらに向かって歩いてくる。


「後ろのそれ、返してくれる?一応商売道具なのよね」


「ミミコ」


「はい」


そういい副官は丁寧な動作で大ぶりなナイフを差し出した。俺の背側に回ることなく、だ。


「……ふーん。この子新種?」


「そ。二年前ぶっ壊した施設で極秘裏に作られた個体の生き残り」


「生体番号334番です。以後お見知りおきを」


ミミコの手からナイフを受け取ると、紅薔薇はそれを弄びながら問う。


「今回狙うのは、日本の閣僚クラスにもコネクションのある政財界の重鎮。失敗なんてできないわけよね?」


「そもそも失敗が許される現場なんてのは存在しないけどな」


「口だけはほんと憎たらしいままねぇ。黙ってれば多少いい男になったと思うんだけど」


「相変わらず貰い手募集中だよ。性別不明者は願い下げだけどな」


「安心なさーい。私もあんたに興味ないシー。同僚としては別だけど」


流し目気味にウィンクを決めつつ、机から離れ出入り口へと紅薔薇が向かう。


自動ドアが開くことなく体の半分が扉に消えていく。


「出発は0200。作戦決行は0220だ。それ以外は全て端末に送ってある」


扉から生えた手でOKマークを作り、その手も埋もれていった。


「この施設の壁平均15センチはあるのにすごいですね、紅薔薇様」


ミミコが緊張を解いた表情でいう。


「あいつにとっては、ほとんどのものが壁になりえないからぁ」


同僚が消えていったドアを見つめながらしみじみという。


「とりあえず、役者はそろいましたかね」


「きついとは思うけど、今夜はよろしく頼んだ、ミミコ」


「はい」


はっきりとした返事とは裏腹に俺の心は晴れなかった。


ここ、日本は山口県。日本海側のとある山中で用心殺しが今夜決行されることとなった。


「あー……桃、食いてぇなぁ」


「何言ってるんですかね、この人は」


副官の敬意の足りない言葉に苦笑いしながら腰を上げる。


「さーて準備しませんとねぇ」


月の丸い夜に、戦端は切られようとしていた。