揺れる大樹に手を伸ばすと、まるで私がそれであるように思えた。
まだ、つぼみもつけないこの木に私は、
八重舞花はその意識を挿し木した。
思いもよらないことだ。
少し前まで人間だった私がこうして人の形を失っているのだから。
大地から、水を。
空から、大気からは空気を。
厳密にいえば違うことのようだと、この体になってみれば気付くのだがそんなことはどうだっていい。
私の一生はこれを感じるためだけに費やされるのだ。
舞花は思った。
今、人でなくて良かった、いや涙を持つ生き物でなくてよかったと。
その身を小さくゆすることしか許されぬ、大樹になってこれでもかとばかりに舞花は泣いた。
両親や友達、学校、将来。
夢だってあった。
大好きな男の子だっていた。
儚い心が、音を立てて少しずつ少しづつ壊れていた。
(わたしが……なんで……)
舞花自身どうしてこうなったのかなど知る由もない。
自分にそっくりななにかに出会って、触れられて、気付くとここにいた。
山の中腹、ひっそりと佇むそれは花をつけないことで有名な、枝垂桜だった。
しかし、ある瞬間から狂ったような季節にその花を咲かせるようになる。
舞花が、意識のみの存在となりここへ現れ、老木と存在を共有した瞬間だ。
奇跡などと安直な言葉で表すことのできない現象。
ただそこにいることしかできぬ少女は、そこで出会うことになった。
もう一人の自分とは異なる異質な存在。
「のぅ……嬢さんや」
乾いたその声は、舞花という存在にとって何よりも大切なものになっていく。
「え?」
その存在、老いた翁の様相をとるそれは、にっこりと笑っていた。
「はじめまして、じゃのう」