ちらほらと見える雪に意識を奪われるように少年は空を見上げた。
「マスター、ここはどのあたりなんですか?」
「日本列島は東北、青森のあたりですね」
ともに歩く主は白い息を吐きながら答えた。
手には鍋の材料と、一杯のカニが入っている。
せっかくの港町のなのだから、と奮発して買ったのだった。
「宙……キレイですね……」
「はい……」
いったい何が、なんて野暮なことは聞かない。
この満天の星空に言葉なんて不要だと、そう言わせるだけの美しさがそこにはあった。
不意に燕尾服の袖が夜空を指す。
ゆっくりと流れる指は燦然と輝く一等星を三つ、結んでいく。
「宙、わかりますか?」
はい、と小さくつぶやいた少年は足を止めた男性に寄り添うようにその身を寄せ、立ち止まる。
田畑に囲まれた田舎道には、星の光を邪魔するものが少なく、はっきりとその輝きを大地に注いでいた。
「天頂の中央に近い一つがペテルギウス、オリオンを形作る星の内、右下のリゲルと同じ一等星です」
少年は沈黙を守り、男性の伝える知識をしっかりと受け止め吸収するため宙を見上げ続けた。
男性はそんな少年をちらりと見て、すこしだけ目じりを下げた。
(勤勉なことはよいことですが、面白みがないですね)
少しだけいたずら心をのぞかせる男性の心は、クスリとだけ微笑み、その身を潜ませた。
「実はリゲルのほうが少しだけ明るかったりするのは、神様の悪戯かもしれませんね」
小さく笑う少年を横目に男性は続ける。
「そのリゲルに近いもう一つの一等星がシリウスです。
おおいぬ座の口のあたりにあたりますね」
「おおいぬ?」
首をかしげる少年は、一生懸命に周囲の星をつなげているのか、目を細めて眉にしわを刻んでいる。
「店に帰ったら、天頂図を見てみましょう。
今は見えていないものもあるかもしれませんしね」
「はい……」
少しだけ口惜しそうに少年は頷いた。
「最後の一つ、東側の一等星がプロキシオンといいます。
あまりメジャーとは言えませんね。おそらく名前を知っている方は少ないんじゃないでしょうか」
「これも何かの星座の一部、なんですか?」
少年の問いに男性は答えようと口を開きかけるが、ややあって一度口を閉じた。
「?」
疑問を顔に浮かべる男性はにこりと笑って言った。
「あれは、宙のような星座です」
その一言に、少年は一瞬ぽかんとして、いつの間に歩き出したのか、男性の背を追いかけた。
「ま、ますたー!!どういうことですか!?なんだかすごくからかわれている気がします!!」
男性は小さく肩を揺らす。
「きちんと自分で調べなさい」
そう言うと男性は少しだけ早足になる。
「マスター!なんだか歩くの速くなってませんか!?」
「寒いですからねぇ……間違えて鍵を閉めてしまうかもしれません」
やっとの思いで隣に並ぶ少年は、すこしだけ驚いたようにしながらも笑顔で応じる。
「負けません」
「おや、何のことでしょう」
二人の掛け合いは誰にも聞かれることはない。
静かな闇に飲まれるように消えた二人の影は、温もりに満ちていた。
それはまるで星空に輝く星があるように、
いつまでも変わらぬ物だった。