毎日新聞 2014年02月16日 朝刊
<解雪(かいせつ)・氷論(ひょうろん)>
五輪金メダルの重みをひしひしと感じたフリーだった。日本の男子フィギュア史に新たな輝くページを加えた羽生には「おめでとう、そしてありがとう」と言いたい。
ベストの演技ではなかったのは十分承知している。前半の二つのジャンプの転倒は、緊張ゆえだろう。リンクに出たときの顔つきも、明らかにいつもと違っていたし、ウオームアップでも、思うようなジャンプを跳べていなかった。
だが、後半の踏ん張りは見事の一言だ。スピードはやや落ちたものの、難度の高いジャンプを丁寧に決めたことが、快挙をもたらした。
驚いたのは、直後に滑ったチャンの演技だ。羽生がミスして、逆転の好機が転がり込んだにもかかわらず、 小さな失敗を重ねた。ジャンプのミスだけでなく、エッジの流れもチャンらしさがなく、最後のスピンもチャンとは思えないほど悪かった。要素の出来が悪い と、彼の得点源の表現力を表すプログラム構成点も伸びず、羽生を圧倒できなかった。羽生のいつにない緊張も、チャンの思いがけないミスも、金メダルがか かっていたから。やはり五輪は難しい。
しかもバンクーバー五輪からの4年間で、レベルは格段に上がった。前回、ライサチェク(米国)は、4回転ジャンプなしで優勝したが、今大会では、跳ばない選手は少なかったし、上位にも食い込めなかった。
4回転を跳べばいい、というわけでもない。とくに要素と要素のつなぎの部分で、ただ前や後ろに滑ってい るだけ、という選手は、メダルをかけた勝負はできない、とわかった。フィギュアというスポーツを技術面、表現面でトータルに見て、羽生が1番と評価された わけで、羽生は誇っていい。
町田と高橋も頑張った。高橋は足の故障の影響でジャンプは苦しんだが、美しいスケーティングは見せた。よい終わり方ができたと思う。
3人とも6位以上なのだから、日本全体でも上々の結果だった。
逆にいえば他の国、とくに欧州の選手が低調だったという印象も残した。プルシェンコ(ロシア)の棄権も あったが、チェコのブレジナ、ベルネルやフランスのジュベール、アモディオら、シャープだった選手が軒並み、入賞を逃したのは残念だった。【元日本オリン ピック委員会(JOC)強化コーチ】
テレビで見ていたとき本当に美しかった
1番美しかった
この記事の美しいスケーティングの部分だけで少し安心した