※これはさかさま運命☆輪っかをかえせ!!のおまけです。

 本編からお読みください。

 

 

 

 

 

マル:お前、こんなとこに倒れて何やってんの?死ぬんならよそでやってくれ。ここは俺のねぐらの真ん前だ。

 

クリエンス:(M)あれはまだぼくがただの野良猫で、神のひざ元へ還る準備をしていたころの話だ。

 

マル:……はぁ。しゃぁねぇ、これでも食えよ。

 

クリエンス:(M)その男はよぼよぼのしなびた体を優しく撫でて固いパンを差し出した。今にもカビの生えそうな、そんなしけたパンだった。

 

マル:嚙めねぇのか?ったく、しゃぁねぇなあ。

 

クリエンス:(M)そう言った男は、溜息をついて何処かへ行くと、どう言う訳か新鮮なミルクを持って戻ってきた。固いパンを浸して柔らかくするとゆっくりゆっくりとぼくの口元へ運ぶのだった。

 

マル:お、食えそうか?食べれるだけ食っちまえ

 

クリエンス:(M)水も何も喉を通らなくて、今にも死にそうだったはずなのに、何故だかぼくは、あの日あの男の差し出したパンが魔法みたいに喉を通り抜けたんだ。

 

マル:なんだお前、また来たのかよ。もう飯なんて持っちゃいねぇぞ。

 

クリエンス:(M)あくる日目覚めると、今までの事が嘘みたいに頭のてっぺんからしっぽの先までお日様みたいな力で満ち溢れていた。びっくりしてそいつを探すと、昨日と同じ場所に座っていて、ぼくをみつけてニカリと笑ったんだ。

 

マル:よう、兄弟。今日はなんかご機嫌だな。俺も機嫌がいいんだ。

 

クリエンス:(M)だからかな、朝日上る度そいつの事が気になって、

 

マル:なんだぁ?なんか欲しいってか?

 

クリエンス:(M)自然と足がそちらに向いた。

 

マル:あいにく今は何にも持ってねぇんだよなあ。

 

クリエンス:(M)別に欲しい物なんて何もなかった

 

マル:ふふふ、そんな目ぇしたって無駄だよ。

 

クリエンス:(M)ぼくがそいつに会いに行って、あいつが嫌な顔をして、でも嬉しそうに笑って、いやだいやだと言いながら固いパンを分け合って食べる。そんな毎日が日常になったころ。

 

マル:そういやお前、名前ってあんの?

 

クリエンス:思い出したように男が言った。

 

マル:ねぇんだろ。じゃあ俺がつけてやるよ。

 

クリエンス:名前。それは確か特別なものだ。魂の形を作る、神様が与える特別なもの。

 

マル:ひひ、嬉しいか?そうかそうか。

 

クリエンス:(M)そんなものを、この男は僕にやると言う。

 

マル:何が良いかなあ…。相棒だからな、特別なものがいい。

 

クリエンス:(M)相棒、相棒。男はいつのころからか僕の事をそんな風に呼んだ。それだってなんだかくすぐったくて、ぼくはくふふと笑ってしまうのに。

 

マル:何がいいかねぇ……うーん……

 

クリエンス:(M)そう言って男は黙ってしまって、しばらくして閃いたとばかりに声を上げる。

 

マル:俺の名前半分やるってのはどうだ?!

俺が持ってる数少ない物の中で、一等特別なもんさ。マルクリエンス!それが俺の名前!

カッコイイだろ?でも長いから、分けてやるよ。

そうだなあ。半分切り取って、エンス…リエンス…ゴロが悪いな。うーん、クリエンス!おお、いい感じじゃねぇか?クリエンス!お前は今日からクリエンスだ!

俺は今日からマルクって名乗るよ。よろしくな、相棒!

 

クリエンス:(M)その時だ。ぼくはただの野良猫からクリエンスになった。世界の見え方も変わっていった。だって、名前って言うのはすなわちそいつの魂だ。知ってか知らずか、そんな大事な物の半分を…いや、半分以上を、あいつはあっさりぼくに明け渡した。

あの日から、あいつはマルクでぼくはクリエンス。ぼくはあいつであいつはぼく。そんな不思議な関係になった。

 

マル:お?なんだなんだ?ついて来んのか?あぶねぇからお前はあっちにいろよ。……お前がいると、あいつらが喜ぶんだ。

 

クリエンス:(M)しばらくして、あいつの周りに人が増えた。あいつはもっと忙しくなったけど、それでも前より生き生きとしていて、なんだか自分まで嬉しかった。

 

マル:なぁ兄弟。俺がいない間あいつらの事、よろしくな。

 

クリエンス:(M)このまま幸せでいて欲しかった。ずっと笑っててほしかった。

 

マル:……かえ、ら…なきゃ……ぅ、あいつらが、まって………

 

(ト:横たわる男に音もなく近づく影。)

 

マル:……ぁ、クリエンス…っ、たす、け……おれの、かわり

 

(ト:男は影に手を伸ばしたが、その手が届く事はなかった。影はじぃっと男を見つめると、ゆっくりと男にすりよった。)

 

クリエンス:知ってるかい?愛された猫には不思議な力が宿るんだ。

大丈夫、きっとぼくが、全部ひっくり返してあげる。

 

 

 

 

 

 

(ト:運命の分かれ道にて)

 

オクト:ねぇねぇブック、難しい顔してどうしたの?

 

ブック:あー。運命の輪がでた。

 

チャック:運命の輪??なあに、それ

 

ブック:んー、なんか、そんなカードがあるらしい。

 

チャック:わあ!!なんか綺麗な絵だね!

 

ブック:ああ、正位置と逆位置ってのがあって…。

 

オクト:正位置と、逆位置??

 

ブック:まっすぐと、さかさまってことだな

 

オクト:どんな意味があるの?

 

ブック:うーん、まずこのカードには人生の分岐点って意味があるんだ。んで、まっすぐだといいことが、逆さまだと悪いことが起こるんだと。それもすんごい。

 

チャック:ふーん??

 

オクト:で、ブックはどうしてら難しい顔してたのさ

 

ブック:逆だった…

 

オクト:なにが?

 

ブック:カード。

 

チャック:えー!!

 

オクト:そ、そんな!ぶ、ぶっく、大丈夫かい?!

 

ブック:まあ、こんなもん、ただの占いだし大丈夫だろ

 

オクト:えええ、でもすんごいんでしょ?どうしたらいいんだろう…

 

チャック:大変なの?

 

オクト:だって逆さまだったらすんごい悪い事が起こるんだよ?

 

ブック:いや、占いだから決まった訳では…

 

チャック:うーん、良く分からないけど…、じゃあ僕がこうしてあげる!!ほいっ!

 

ブック:……あ、

 

オクト:ひっくり、かえしたぁ!

 

チャック:へへへ!まっすぐにしたからきっとすんごい良い事いっぱいだね!

 

 

 

 

(おしまい)