公開3週目に入った映画
『特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』
上映されてる劇場が全国74館と少ないものの
私が観に行く映画館では現在でも比較的席が埋まっていてシリーズの根強い人気を感じさせてくれます
新宿ピカデリーではお盆期間中は満席近い回が何度もあったし
…ということがわかる程度には自分も連日のように通ってるってことですが(笑)
さて、そんなアンコン編ですが
単純に面白いシーンが多く
また劇中で登場人物のちょっとした成長が見られたりと
ユーフォシリーズを見たことのある人なら誰にでも楽しめる作品だと思います
とはいえ
見た目はサラッと比較的軽い感じでまとまっているような物語の中に
実はこの本編中には結構な情報量が詰まっていて
原作を知った上で観るのと原作未見で観るのとでは作品から受ける印象も違うだろうな
それは少しもったいないな、、
とも思うのです
もちろん原作など知らなくても、来年TV放送予定の3年生編を見ればわかることもあるのですが
今回のアンコン編の中で描かれている、原作を知らないと見えてこないいくつかのポイントをおさえておくだけでも、本作やユーフォという物語そのものへの印象がかなり変わってくるのではないかな、と
なので今回はアンコン編で
ここだけは押さえておいた方が3年生編も含めてより楽しめるのでは?
と私が思ういくつかのポイントをご紹介しておきたいと思います
そんなわけで
3年生編のネタバレには触れませんが、アンコン編は多少のネタバレはありますので
一切のネタパレをしてほしくないという方は、ここより下は見ずに記事を閉じてくださいませ
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〔新部長達 吹部の幹部人選〕
新部長が黄前久美子になったことは前作劇場版『誓いのフィナーレ』のラストで明かされました
一方、副部長とドラムメジャーの二人は、アニメではアンコン編で初めて明らかになったことです
北宇治高校の吹奏楽部の部長・副部長の人選は前年の部長・副部長が決定している
というのはアニメ二期で描かれていたことからもわかる通りで
今回の黄前久美子部長と塚本秀一副部長の人選も前年幹部の吉川優子部長と中川夏紀副部長の二人が決定したことだというのは、TVシリーズから見ていれば想像がつくと思います
で、その人選決定理由は原作でしか明らかにされていないのですが
優子によるさすがとしか言いようがない采配がアンコン編を見ていると感じられます
久美子を部長に指名したのは優子で
原作では優子が
「自分が部長を引き受けた時点で次の部長候補は久美子に決めていて、そのために二年生の久美子を「黄前相談所」として1年生の指導係に指名した」
という経緯を明かしています
大所帯をまとめていくには人間関係を回していけるやつがいい
という考えからの優子の人選で
今回のみぞれ語で言うと
「窓を開けるのが上手」
という久美子の持ち味を、優子は1年も前に見抜いていたということで
要するに優子は自分が部長に就任したときからすでに久美子が次期部長としてやっていけるための地固めをしてきた…ということになります
そしてその思惑通りに久美子が部長としてはまだ未熟ながらも、人を見る能力は早速発揮し始めている
という様子がアンコン編では描かれています
塚本秀一を副部長に指名した根拠は原作でも明かされてないですが
選んだ優子達に多少の悪戯心は、無いとも言い切れないかも知れませんねw
そうは言っても部長を支えるという点で実はこれ以上の人選はないということも確かだと感じます
そのことは3年生編を見ればわかってくると思います
(原作エピソードがカットされなければ)
で、ドラムメジャーの高坂麗奈です
ドラムメジャーという幹部職は前年までの北宇治には無かったので、
これも優子が部長として残していった大きなもののひとつで
原作では夏紀が麗奈を副部長候補として名を挙げたときに優子は即座にそれを否定し
「麗奈はどう考えても副部長タイプじゃない
人間関係で悩ますのは宝の持ち腐れで、麗奈は音楽に専念させるべき」
と語っていて
ドラムメジャーという幹部職を作ることについての直接的な言及は原作でも書かれてはいないものの
麗奈の音楽に対するストイックさを吹部の運営に活かそうという優子の戦略であることは明らかです
吹部全体の演奏技術面については滝先生という優秀な指導者がいるだけでも北宇治にとっての大きな優位性なのに
なぜ優子がそこまでして(ドラムメジャーという幹部職を作ってまで)演奏面で部をまとめていくポジションが必要と考えたのかといえば
それは自分が引っ張ってきた北宇治が関西大会で敗退したという反省からです
全国で金を取るために必死に頑張ってきたけど、自分のやり方では甘かった
だから久美子の世代ではもっと演奏技術面でも突き詰めなければ同じ轍を踏んでしまう
という優子なりの考えからの
高坂麗奈ドラムメジャーというわけです
そして優子が成し遂げられなかった全国金の悲願に向けてとったもうひとつの行動こそが
アンサンブルコンテストへのチャレンジなのです
〔そもそもなぜアンサンブルコンテスト?〕
今回のアンコン編の中ではいきなりアンサンブルコンテストをやるというところから始まっていますが
前年までの北宇治はアンサンブルコンテストには参加してませんでした
前年に関してだけは全国大会に出場したので、同じ時期にコンクールが重なるアンコンは視野に入れていなかったとも言えますが
そのような前例の無い中で
北宇治が今年のアンコンに参加することを決めたのもまた
吉川優子前部長です
前作劇場版『誓いのフィナーレ』で関西大会敗退した北宇治は「全国」という目標を失ってしまい失意の底にいました
モチベーションが下がってしまった今の北宇治のままでは来年のコンクールにまで影響してしまう
と強い危機感を感じた優子部長がその打開策として提案したのが、本作で繰り広げられたアンサンブルコンテストです
優子がアンコン参加を宣言した時の言葉を要約すると
「北宇治が吹奏楽で上に行くために足りないものは部員一人一人の実力
いまからの練習が来年のコンクールの結果に直結する」
というふうに部員達に発破を掛けています
本作アンコン編ではいつもの吹奏楽コンクールに向けた練習の時のような緊張感のある雰囲気とは違う比較的和気あいあいとした部活が描かれているので、アンコン参加決定の経緯を知らずに映画本編だけを見ていると楽しい部活の様子を描いた作品と受け取ってしまうかも知れないのですが
その背景を踏まえてアンコン編を観ると
すでに来年のコンクールに向けたシビアな戦いが始まっている
ということで印象も少し変わるかと思います
それは実際に今回のアンコンで得られた成果として本作の中でも描かれています
〔アンサンブルコンテストで得られたもの〕
来年の吹奏楽コンクールに向けて ということを踏まえて今回のアンコンを振り返ると、有形無形のいくつか確実に成果が得られたことが劇中に描かれていますよね
優子前部長が危惧していた部員のモチベーション低下は、それぞれがアンサンブルコンテストに向けて練習に励む姿を見れば明らかなように、すぐ目前のコンテストという時間的縛りもあって一気に士気は高まったのだろうし
そして何より、現在の北宇治の奏者各個人の実力が明らかになったことが、成果として一番大きかったのではないでしょうか
実は本編ではその演奏すら聴かせてもらえなかったですが
アンサンブルコンテストで部員投票結果1位で府大会に進み、さらに関西大会への選抜も果たしたことがラストで語られたチーム(敢えて何チームかはここでは書きません。見過ごしていたらもう一度見てねw)の実力は
原作では関西大会も勝ち進んで全国で銀を受賞したことが書かれていることからも
このチームは全国レベルの実力があることが全国コンテストの場で証明されてます
これなどはアンコンに参加しなければ見えなかった典型的な有形の成果ですし
そして今回のメインキャラクターである釜屋つばめのマリンバの隠れた才能にフィーチャーされたことももちろん、アンコンの成果として特筆されることの一つです
久美子の観察眼と指摘の的確さがあったからこそではあるものの、これまでのような合奏形態ではなくアンサンブルの小編成で組んだからこその才能の発掘だったように劇中では描かれていますし
これら今回のアンコンによって奏者個人レベルの実力がこれまで以上に明らかになったことは全国を目指す北宇治にとってとても大きなプラスで
アニメ3期が原作通りに展開するのであれば、という前提ではあるのですが
このことは来年のコンクールにも大きな影響を及ぼします
劇中で奏が話していた
「こういう少人数の演奏って、意外な人が上手かったりして面白いですよね
滝先生も部員の実力を見極めて自由曲も決めやすくなったでしょうし」
という言葉は、
実は来年のコンクールを語るうえで大きな伏線になるかも知れません
そういう視点で映画ラストのアンコン投票結果発表を眺めておくと、久美子3年生編でいくつかのピースがはまっていく快感が感じられるかも?と私は思っています
アンコン編の全体の流れの中で大きなところは、私が感じた範囲では大体以上のようなことですが
物語の本流には直接は影響ないものの、本編では説明が省略されていて原作を読んでいないと気が付きにくい部分も少しあるので
ここからはそのような本編で説明が省略されている部分の補足にも少し触れておきたいと思います
〔川島緑輝のコントラバスチーム〕
映画の冒頭で麗奈がアンコンの出場規定を説明していた中で
「1編成の人数は3人以上8人以下」
と言っていたのに、
緑輝は求と2人でのコントラバスチームとしてエントリーしたことに疑問を感じなかったでしょうか?
これは府大会への出場権を放棄するならそういうルールから外れる編成でも問題無いという理由からです
原作ではそのことをあの全体ミーティングの場で説明しています
つまり緑輝は久美子部長にチームを申請したときから、府大会への出場権は放棄する代わりに求と二人でコントラバスチームとして参加することを宣言していた、ということです
府大会出場をかけた部員投票結果に緑輝チームが入っていなかったのは、単純にルール外の編成なので選外だった ということでもあります
一方の一般投票はそういった大会ルールとは関係無しに来客の投票によるものだったので、緑輝チームは3位に選ばれていた ということです
〔みぞれの「誘ってくれて嬉しかった」の意味〕
吹部を卒業した優子と希美がアンコンに協力してくれることが決まって、その足で久美子がみぞれの元にアンコン参加の意思を確認しにいったシーンがあります
そのときみぞれは
自分はアンコンには参加しないこと
そして誘ってくれたことが嬉しかった と言っていて
さらに
「希美にもお礼言っておいて、ありがとうって」
と言ってますが
劇中ではその前段の話がカットされているので、
特になぜ「希美にお礼」となるのか意味がわからないと思います
実は久美子がみぞれの元に意向を確認しに行く前段で、原作ではあの劇中にも出てきた音楽準備室での優子と希美の話の続きのやり取りがあって、
そこでのやり取りはこれまでの希美とみぞれの確執を思い起こす興味深いものとなっているのです
音楽準備室で優子と希美がアンコンに協力することを決める際に、原作では希美がみぞれも誘ってみることを提案していて
そのときのやり取りを要約すると
「みぞれは音大受験を控えているから参加させたくないし、もし希美が誘ってしまうと自分を犠牲にしてでも断らないはずだから声を掛けるのには反対」
と主張する優子に対して
「受験の邪魔になると思えば今のみぞれなら自分で断る」
と、希美なりのみぞれに対する考え方を主張していたのです
その折衷案として優子や希美達ではなく久美子が直接みぞれにお伺いに行ったのが劇中で出てきたシーンで
それに対するみぞれの反応は上にも書いた通り
「わたしは出ない
誘ってくれて嬉しかった
希美にもお礼言っておいて、ありがとうって」
と、希美が考えていた通りの返答をしてきた という流れです
つまりみぞれは自分のことを仲間外れにすることなく声を掛けることを希美が提案してくれたことに
「お礼を言っておいて」
と言っていたわけで
その前段を知らずに本編だけを見れば何気ないやり取りに感じてしまうかも知れないですが
前段の話を踏まえてこのときのみぞれの言葉と反応をアニメ二期、そして『リズと青い鳥』を経て、希美とみぞれの関係性の決着という視点で見れば
この何気ないシーンはのぞみぞの二人の物語の起承転結の「結」とも言えるくらいの大事なシーンであることがわかります
最後に「窓、閉めますか?」と聞いた久美子に対して
「ううん、いい」と笑顔で返したみぞれの姿も、
のぞみぞ二人の物語のフィナーレに花を添えているように私は感じます
この「窓、閉めますか?」「ううん、いい」のくだりは原作には無いアニオリなのですが、
『リズと青い鳥』を踏まえた見事な暗喩で、私個人的にはとても心に染みるシーンです
〔ところで本編最初のカットの意味は?〕
最後は原作からの話ではなく
あくまで私個人の疑問のシーンについてなのですが
本編の一番最初に出てきた、久美子が一人でユーフォの音出しをしているシーン
あのシーンの意味って、なんか気になりませんでしたか?
久美子が一人で教室の窓際でユーフォの音出しをして
そして「うーん、いい感じ」と悦に入ってるシーン
そこからOPが始まって
OPが終わった次のシーンでは緑輝と葉月から早くミーティングに来るようせかされているので、
単純に考えればそのシーンにつなぐための、ミーティングの時間を忘れて一人でのんびりとユーフォを吹いていたちょっと間抜けな久美子の描写、
ととれなくもないですが
そんなことのために大事なファーストカットに尺を使うだろうか?
と疑問に感じたのです
なにか別の意味を持たせるとしたら
もしかしたらこの最初のカットは本編一番最後のシーン、ラスボス登場のシーンにつなげているのではないか? と私は考えていて
同じような演出はアニメ二期の1話最初のシーンを最終話ラストにつなげていた ということをユーフォシリーズではやった実績もあるし
そう考えて冒頭の久美子のシーンを見れば
自分の吹くユーフォの音にまんざらでもない久美子を最初に出しておいて
ラストで新たな強敵の吹くユーフォの音に慌てる久美子を登場させることで
その対比から波乱のアニメ3期を暗に予告している…
とは考えすぎでしょうかね?w
「もし来年私より上手い子が入ってきたら、麗奈はどうするんだろ」
(久美子の独り言)
というほどに
アニメ3期 久美子3年生編がますます楽しみなことだけは本当です