今までの自分なら敢えて映画館に観に行こうとは考えなかったジャンルの作品。
2015年公開の日本映画 「野火」
塚本晋也監督/脚本/主演の第二次大戦をテーマにした映画です。
このようなジャンルの作品を観てみようと気持ちが変化したのは
言うまでも無く「この世界の片隅に」の影響です。
野火を観に行く前には「プライベート・ライアン」を自宅で鑑賞しました。
個人的にトム・ハンクスは大好きな俳優で、プライベート・ライアンに関してはこれまで何度か観ています。
プライベート・ライアンと野火、
どちらも戦争の惨たらしさを描いているという点では共通した作品。
野火に関しては2年前の作品ですが、この8月には複数の劇場で再上映していて、
それはなぜか「この世界の片隅に」の上映館で目に付きました。
映画館側が、「この世界の片隅に」と「野火」は是非セットで観てほしい と言わんばかりです。
それならば と、今週「この世界の片隅に」 片渕監督のトークショーが行われた川越スカラ座で、トークショーの翌日16日に観てきました。
川越スカラ座はスクリーンがひとつしか無く、
今週は「野火」「この世界の片隅に」、そして何故か「ラ・ラ・ランド」
の3本を上映していたんです。
さて、野火について
まずこの映画は第二次世界大戦の末期、つまりはもう日本には勝ち目など全く無い(と私は敢えて断言します)時期のフィリピン戦線で、結核を患ったために部隊から放り出された「田村一等兵」ひとりの物語です。
待ち受けているのは敵との戦争ではなく、飢餓と孤独との戦い。
レイテ島の密林の中をさまよい歩き、途中 かつての仲間の日本兵と遭遇して行動を共にしたりしながら、毎日命をつなぐためだけにもうろうとした意識の中で密林を徘徊する。
そういう展開。
したがってよくある戦争映画のような激しい戦闘シーンなどはありません。
敵と遭遇しても一方的に日本兵が撃ち殺されていくだけで、それは戦闘とは言えないので。。。
この作品の中ではあくまでも飢えと孤独が、田村一等兵にとっての敵。
そのため最後には人肉を喰らうに至ります。
映画ではひたすら実際のレイテ島で起きていた事実を元に、その凄惨さが描かれ続けます。
敵機の機銃掃射によって目の前で頭を砕かれる兵士。
機関銃の待ち伏せ一斉攻撃を受けて、
自分のもげた腕を拾おうとする兵士、
肩から先がもげて倒れ込む兵士
足を吹き飛ばされる兵士
そしてウジ虫が湧いている死体があったかと思ったら、実はその人間はまだ生きていて話し掛けてきたり、とか。
これでもか、というくらいに残酷で凄惨な描写が続きます。
まるで「これが事実だ。目をそらすな」と言わんばかりに。
この作品は、これこそがフィリピン レイテ島で起きていた現実だということを、田村一等兵という主人公を通してひたすら訴え続けます。
逆に言うと、それ以外のことはまったく語りません。
この場所がどのあたりかなんて説明は無いし、まして日本軍の兵力がどうで戦局がどう なんてことも一切語りません。
戦争でこういう戦闘をして、などということではなく、その裏側の現実を観客に伝えるという作品。
戦争とはこういうことなんだ、ということを後世に伝えていくための作品、
きれいにまとめるとそういう映画です。
で、ここからは個人的な、
あくまでも私の個人的感想です。
個人的な感想ですので、ここから書くことに一切の反論などは受け付けません。
反論したくなる方はここから下は読まないでください。
****************************************
まず、
二度と観たいとは思いません。
一度観れば十分です。
感動は?
ありませんでした。まったく。
涙が出る気配もまったく無し。
あまりにグロテスクな映像の連続で、これはオカルト映画か?と思いました。
いや、オカルトというか、サムライ映画ではよく首や腕を切り落とす血生臭い映像がでてくるけど、あの感覚ですね。日本映画独特の。
例えば、なぜプライベート・ライアンの話しを最初に持ち出したのかというと、
プライベート・ライアンも相当に残虐で凄惨な場面が、いきなり映画冒頭からたくさん出てきます。
野火と同じように腕をもがれたり足を吹き飛ばされたり頭を砕かれたり、
凄惨な場面の連続です。
しかしプライベート・ライアンでは、そのような人体解剖的な場面は長回しはしてません。
一瞬だけ見せれば、それでも観客には十分伝わるからです。
プライベート・ライアンにおいては人が残酷な殺され方をする事実を伝えながらも、そのことを主題とはしていないことは明白です。
もっと俯瞰して戦争の悲劇を観客に考えさせる作品だと感じます。
そのため私個人的には、プライベート・ライアンでは映画を観終わってから作品のメッセージに共感を覚えることが出来ます。(あくまで私の個人的主観です)
それに対して野火では徹底的に人体の四肢がもがれた断面(要するに血肉)を長回しで見せようとします。
まるでそれを見せることがテーマであるがごとく。
結果、観終わってからイヤな気持ちしか残りませんでした。
私には不向きな作品、ということです。
それから細かなことかも知れませんが、
映画に出てくるどの日本兵、もちろん主役の田村一等兵も含めて、
死線をさまよい人肉を喰らうところまで飢えている割には、
皆 頬がこけたり痩せてガリガリだったりしていない。
迫真の演技はされているけど、風貌がちっとも飢餓っぽくないんです。
どの役者さんもふくよかなお顔をされていて、、、
これでは感情移入も出来ません。
私のような想像力欠乏人間には。
そして日本映画にありがちな、セリフがモゴモゴしてよく聞き取れない問題。
方言とかそういうことではなく、発声が悪いのか音の拾い方が悪いのか、
何を言ってるのか聞き取れないシーンが結構ありました。
などなど、
私的には何かとっても後味の悪い作品でした。
幸いこの日は次の上映が「この世界の片隅に」で、完全にリセットされたので良かった。
私にとってはやはり、「この世界の片隅に」のほうが戦争に対する意識を変えさせるインパクトが遥かに大きい作品だと感じました。