こんなに時間が無くなるとは。君への手紙すらろくに書けないまま気がつけば一年が経ってしまった。
人には寿命があるということは当たり前なのに、受け入れるのはやはり難しい。君が向こうへ行ってから11年。もう11年。まだ11年。どちらともいえる11年。
仕事仲間がこの3月に亡くなった。私より若かった。君が逝ってしまったという連絡を受けた時に入っていた現場も、その仲間が所属していた会社の仕事だった。
この11年の間でその会社の仕事はあまりやらなくなっていたから彼とも疎遠にはなっていたんだけどね。
数年前、逆にこちらの会社の仕事の現場にしばらく来てもらう事があった。真夏の屋上の仕事を一緒にやった。そういうときに思い出すのは「ショーシャンクの空に」の一場面で、たぶんそんな話もしたと思う。もちろんビールの差し入れなんて無かったけどね。
真夏の屋上といったらもう灼熱の世界だからね。それでも彼は空調服をなかなか着なかったな。使いつけないと億劫なのはわかるけれど。そのかわり、半袖半ズボンで露出するところを薄手のアームカバーとレッグカバー、ヘルメットには遮熱グッズ、冷感グッズも装着してアクティブな装いでスピーディに動いていた。彼の所属する会社での仕事は町場の内装がメインだったからあまり空調服を着ることはなかったんだと思う。あ、いや熱中症で命を落としたわけじゃないよ。肺がんを患っていたらしい。
それが最後になった。その後も電話やLINEでは何回かやりとりしたけれど、会うことはなかった。そういえば彼の電話の待ち受けは“Hard to Say I'm Sorry"だった。普段聴かないシカゴをお通夜の翌日だけはずっと聴いていたよ。
そして3月に彼との共通の知人から久しぶりにもらった電話で知らされたんだ。驚いたよ。思わず叫んだ。仕事が車の時、帰りにタイミングが合うと娘を乗せることがあるんだけど、駅のロータリーで娘を乗せた直後の電話だったから娘もただならぬ気配を感じてたよ。
今はようやく落ち着きはじめたからこうして少しは振り返っていられるんだけど、その時期から現場が怒涛の状況になってね。ひょっとしたら私もそっちの世界へ行くんじゃないかって思ってしまうくらいだった。いや冗談でなく。まだ予断は許されないくらいで、今も余波が続いている。
そんな流れのせいなのか、寄る年波のせいなのか、ちょっとしたことで涙ぐむような、何につけてもその都度都度に応じた感慨のようなものに襲われる。
世界的にもあまり良いとは言えない状態が続いてる。君が逝ってしまった頃に就任したトランプ大統領擁するアメリカはアメリカで私たちが想像することも出来ない危機感のもとに動いてはいるのだろうけれども、それが及ぼす個々の生活への余波がどれぐらいになっているかを想像することもまた彼らには不可能だ。
そうした連なりは幾つものクラスターとなって幾重にも層となっている。気が遠くなるよね。その層間の関係性は地層にも準えられらるかもしれない。層と層の間の様々な力から成される軋轢が数多くの現象を生み出す。それは命にかかわる事柄も少なくない。いや、むしろ命に関わりない事の方が少なそうだ。
信じられないかもしれないけれど、ウクライナとロシアの戦争は続いている。そればかりか中東の戦火も続いているし、アメリカとイランまで始めている。そうした世界に比べたら何だかんだで日本の日常生活において命がかかっているなんて言ったところで軽々しく響いてしまいそうだ。でも、性質が違うだけでやはり命懸けなのには変わりないと思う。もちろんそうした国際情勢によって生活が逼迫してきているという分かりやすい関係もある。アメリカとイランの関係悪化によって油が高騰し、物価が上がり流通が悪化すればダイレクトに生活に影響が出る。みんなが当たり前のように糊口は凌げるなんて思ってはいられない。いつでもどこでも落とし穴が待っている。常に考え抜かなければならない。それを戦場と呼ばないで何と呼ぶ?
君の娘や息子、私の娘ももうあと少しでそんな戦場に出ていくことになる。私たちは逆に迷惑をかけないように退場する準備を進めなければならない。ただ出ていくだけではなく、出来る限りのことをしておかなければならない。
来年はどんな状況になっているだろうか。
そうだよね。明るい話もしておかなければね。なんせ1年に一回の手紙なんだし。何があるだろう。もうすぐサッカーのW杯がはじまるよ。開催地?言ってなかったっけ?北中米、アメリカとカナダとメキシコ。始めて3カ国地開催だよ。政治的な問題を孕みながら開催されるのもW杯の歴史だけど、本当に無事に開催されるのかも心配だね。
あ、いやそういう話ではなかった。日本の代表チームのクオリティの上がり方には凄まじいものがあるよ。たまに触れてきたけど、ほんとに想像を絶するよ。君が見た代表の最後はザッケローニの頃だったよね。その後のロシア、カタール大会の年には思わず熱く書いてしまったね。
ただ、今回ベストの人選になったかというとまた別問題だし、同じように他の国のクオリティも上がっているし、大会のレギュレーションの変化もあるし、錯綜する複合的な要素から鑑みるとどうだろうね。楽しみではあるけれど、優勝は目指すべきだけど、ちょっと厳しいかもしれない。もちろん応援しているけれどね。
社会人のクラブチーム?シュワーボ東京のことだね。よく覚えていたね。すごいとしか言いようがないよ。今年は東京1部に昇格して新シーズンを戦っている。進化の仕方が今年もとんでもないよ。ひょっとしたらW杯と同じくらい熱いかもしれない。
わずかな希望だよ。わずかだけど希望があるのは大きいけどね。本当に君にも観てもらいたかったな。間違いなく活力を得られたはず。
亡くなった彼?彼はもっばら野球だったな。息子さんが所属しているチームのコーチとかもやっていた。ああ、でもそうした経験もありながらシュワーボを観たら心を動かされたかもしれない。あ、でも話したことあったかも知れない。すぐに野球の話になっちゃったんだっけな。私もかつてやっていたのは野球だったし、たしか君もそうだったね。野球は野球で面白いし、大谷みたいなのがでてくるなんてそれこそ想像を絶するよね。そうか、君に大谷の話はしてなかったね。メジャーの優勝チームで投手と打者を務めていて、MVPも獲っていてさ‥漫画の話?違うよ、現実の話!