私は一応、元高校球児なんだけど、今年の夏の甲子園はあまりテレビ観戦することがなく、気がついたらもう決勝だった。
という感じであまり印象に残ったものがない。
そんな中で唯一釈然としないものが残った。
花巻東の千葉君のカット打法についてだ。
試合後も議論が続いているようだ。

問題は、審判が試合において、ルールに基づいてカット打法をバントと見なし、スリーバント失敗とジャッジしたのではなく、
準決勝前に、審判団が「次やったら、アウトにしますよ。」と事実上圧力をかけてカット打法を封印させたこと。
しかも、審判団が通告した動機が、ルールにあるカットの動作が問題だからと言うよりは、ルールにはない、あまりにもたくさんカットするからというのが本当の理由だと思われるからだ。

高校野球特別規則「バントの定義」には、
「バントとは、バットをスイングしないで、内野をゆるく転がるように意識的にミートした打球である。自分の好む投球を待つために、打者が意識的にファウルにするような、いわゆる“カット打法”は、そのときの打者の動作(バットをスイングしたか否か)により、審判員がバントと判断する場合もある。」
と、ある。
つまり、判定の根拠は「打者の動作(バットをスィングしたか否か)」であり、たくさんカットしかた否かではない。

しかし、大会本部が花巻東に通告した動機は、千葉君の動作がスィングしていないとみなしたからではなく、あまりにもたくさんカットするからだと思われる。

一つ一つの動作だけを見れば、千葉君のカットは、スィングしていると見なすのが常識的だ。
スィングかバントかの基準がルール上明確に定義されていないと言っても、多くのプレイヤーがどういう動作がスィングで、またはそうではないかは、概ね共通認識のうえで野球が行われている。
そうでなければ打者は2ストライク以降どうしたらいいかわからないし、野球そのものが成立しない。
そういった多くの野球関係者の共通認識からして、千葉君のカットはスィングしているとみなされるはずだ。
実際にこのことが話題になった後の、プロ野球選手等のコメントでも、「スイングしている」というコメントか、「判定は審判がする」というコメントのみで、「スィングしていない」とするコメントはみあたらない。

もっと言うと、2ストライク以降、スィングしていない動作で打球がファールになっても、スリーバント失敗が宣告されることはまずない。

例えば、打者は最初はストライクだと思って打ちに行って、途中でボールだと思い、バットを止めたが、ボールが当たってしまい、ファールになるということがよくある。
わざとではないが、審判は打者の意図がどちらかを判断することはできない。

さらに、例えばストライクからボールになる変化球に対応する場合、打者はまともなスィングはできず、当てるだけで精一杯といった動作になる。

高校野球規則特別規則のバントの定義を根拠に、打者の動作がスイングしたか否かを判断基準として、花巻東の千葉君にスリーバント失敗のジャッジをするとなると、
公平にルール適用をするならば、上記のようなプレーもスリーバント失敗とジャッジしなくてはならなくなる。

さらには、他の選手によるたった1球のカットでも、その動作が千葉君のカットと同じ程度のスィングでしかなかったならば、同様にバントと判定しなくては公平ではない。

甲子園の準決勝で、急にそんなことを始めれば、千葉君だけの問題ではなく、全選手にとって、これまで普通に行われていたプレーが突然スリーバント失敗でバタバタとアウトになり、大混乱となる。
だから、審判は試合で千葉君のカットをスリーバント失敗とジャッジすることなんてしたくないし、出来なかった。
だから、審判団にとって最も穏便な方法は、千葉君にカット打法をやめてもらうことだったはずだ。

だって、そもそも大会本部は、千葉君のカットがバントくさいから問題だと思ったのではなく、あまりにもたくさんカットするから問題だと思ったのだから。
しかし、繰り返し言うが、たくさんカットしてはいけないというルールは無い。

さらに、スリーバント失敗はアウトで、スィングによるカットはセーフだというルールは、バントでカットすることは比較的容易だが、スィングしてカットすることは難しく、そう何球も続けてカットし続けることは出来ない、という認識のもとにルールがある。

おそらく野球未経験者だろうが、カットは簡単だとか、卑怯な戦術だとか、みんながカット打法ばかり使ったらどうするんだ、とかといった書き込みが見られる。
千葉君のカット打法は、まねしようとしたって、そうそうできるもんじゃない。
カットを何球か続けるうちに、大抵フェアゾーンに入ってボテボテの内野ゴロになってしまうか、ファールフライになってしまったりするもの。
千葉君が修得したカット打法の技術は、相当高いレベルにあることは確かだ。
野球経験者であれば、千葉君のカット打法がどれだけ高度な技術かがわかるはずだ。

体格に恵まれない千葉君が、
普通にやっていたら、おそらく強豪校でレギュラーになることは出来なかっただろう。
カット打法を修得し、驚異的な出塁率を稼ぎ、レギュラーを掴んだ。
その磨いてきたカット打法の動作が、ルール違反だとジャッジされたのではなく、
あまりにもカットが上手くて、たくさんカットしすぎるから、大会本部から封印させられた。
それも甲子園の準決勝まで来て。
今後の千葉君の進路はわからないが、もしかしたら、本格的な野球の最後の試合になってしまうかも知れない。
その無念を思うと、胸が苦しくなる。