陸山会の収支報告書の問題は、事実と異なる記載や不記載があったとしても、刑事犯罪と言えるようなものではない。虚偽記載は、その裏にある裏献金や贈収賄といった悪質なものを隠すものであったことが証明されない限り、単なるミスであり、毎年百の単位で行われる訂正と何ら変わらない。

 このことを前提としつつも、陸山会の収支報告書を眺めると、説明の付かない不自然な箇所がいくつかある。(陸山会政治資金収支報告書の要約

■借入4億円が4億円の定期預金に

 陸山会の収支報告書を素直に見てみると、どう見えるか?
 平成16年では、小澤一郎氏個人からの借入4億円によって収入が大きく増え、同時に4億円の定期預金が組まれて資産が増えている。
 土地購入というまとまった資金が必要なため、小澤氏個人から4億円を借り入れ、一旦これを定期預金にしておき、翌年1月の土地代金支払いに備えた。
 平成17年1月には、繰越金と定期預金を一部解約したものを合わせて、土地代金約3億4千万円を支払った。小澤氏個人には、平成17年と平成18年の2か年にかけて借入金を返済した。と、解釈するのが自然だろう。

 しかし、実際には、土地代金は小澤氏個人の資産を原資とする資金から平成16年10月の時点で全額支払い済みだった。
 さらに、陸山会及びその他の小沢氏関連の政治団体から集めたお金をもとに、4億円の定期預金を組み、これを担保に同額の融資を小澤一郎氏個人が受けて、これを陸山会に転貸したという。
 この収支報告書から単純に想像されることと、実際のお金の流れの食い違いが、検察から疑惑の目で見られることとなった。

■新たに定期預金を組み、これを担保に借り入れする動機は何なのか?

 元秘書の石川氏は、平成16年10月に、わざわざ新たに定期預金を組み、これを担保に同額を借入している。
 こうすれば、定期預金による受取金利を上回る支払い金利を負担しなければならないので、損をしてしまう。
 もともと定期預金があり、一時的な借入をするのならばわかる。定期預金を解約すると受取金利が減るし、一時的で借入期間が短ければ支払い金利は少なくてすむ。しかし、報道等から判断する限り、陸山会のとった行動は、そうではないようだ。
 
 小沢氏は、「当時陸山会の経理を担当していた秘書から各政治団体の資金をかき集めればなんとかなるが、そうすると各政治団体の活動費がほとんどなくなってしまうので、私に何とか資金調達できないかと言ってきました。」と説明している。
 つまり、運転資金が足りなくなるかも知れないから、小沢氏の個人資産から陸山会に貸し付けたと言っている。にもかかわらず、陸山会に集めた現金や普通預金をもとに新たに定期預金を組み、これを担保に借り入れるという行為は、運転資金として使える金額はプラスマイナスゼロであり、定期預金の受取金利より多い借入の支払い金利を負担するという、あえて損をする行為なのである。

 つまり、普通に考えれば、かき集めたお金をそのまま運転資金として使えばいいはずだ。
 あるいは、定期預金を組むにしても、借入は必要な分だけ最小限の金額を借り入れれば支払い金利は最小限で済むはずだ。定期預金を担保に借り入れる場合、銀行は全くリスクが無いので、すぐに借入ができる。

 この記事を書く際にも参考にさせていただいた、細野氏のレポートでも、この借入について「運転資金確保のために利息を払っても借入をするというのは、きわめてまともな事業の常識」と言っている。しかしこの常識は、例えば土地を担保に借入するなど、使える運転資金を増やすことができる場合である。陸山会の場合は、陸山会にもともとあった資金から新たに定期預金を組み、これを担保に借り入れているのだから、使える運転資金は全く変わらない。常識的な資金繰りとは言えない。

■運転資金として、なぜ4億円も借り入れたのか?

 平成16年に小澤氏個人から借り入れた金額は、実質的に4億円である。陸山会名義の定期預金を担保にした借入4億円は運転資金として使えるお金はプラスマイナスゼロなので、運転資金としてはカウントできない。
 小沢氏の説明では、土地購入代金は、各政治団体の資金をかき集めて何とか足りるが、運転資金が足りなくなるから、4億円を一時的に貸し付けたとある。
 しかし、小澤氏個人からの借入を記載していない収支報告書で、資金繰りは十分回っている。ただ、平成16年中に土地代金を支払ったとすると、確かに一時的に足りなくなる。しかし、平成17年に「小沢一郎政経研究会」から陸山会に1億5千万円資金移動(寄付)することで、足りている。

 一時的に運転資金が足りなくなるとしても、4億円も借りる必要がない。
 平成17年の陸山会の支出から、土地購入代金や、小澤氏への借入金返済を除くと、1億4千万円程度である。通常の年間支出額の3倍にもあたる4億円を、運転資金として借り入れたという説明には無理がある。

■小沢氏の個人資産からの借入は、立替なのか?

 郷原氏や細野氏の解説にあるように、小沢氏の個人資産から陸山会への貸付を、土地代金支払いのための立替だと見れば、借受金であり、収支報告書にも記載する必要がない。
 したがって、収支報告書の誤りは、検察審査会の議決にある「4億円の借入れをしたのに、平成16年分の収支報告書にこれらを収入として記載せず」ではなく、「4億円の定期預金は小澤氏個人のものであるのに、陸山会の資産として記載した」こととなる。
 もし定期預金4億円を、平成16年収支報告書の資産に計上しなければ、この4億円は仮受金として処理されたのであり、収支報告書としても適正で何の問題もない。

 しかし、小沢氏の説明では、陸山会が土地代金を払ってしまうと運転資金が足りなくなるから、個人の資産から貸し付けたとされている。であれば、土地代金を支払ったあと、しばらくは運転資金として陸山会に置いておくお金が必要ということである。
 さらに、4億円の定期預金の原資には、小澤氏個人からの借入4億円うち、土地購入代金を除いた約5千万円のうちの一部を使わないと、資金が足りないはずである。

 例えば、何かまとまった入金予定が土地代金支払いの直後にあったというのならばわかるが、そうでなければ、小澤氏の個人資産からの貸し付けは、短期的な貸付ではあったと思うが、いわゆる立替とみるのはかなり苦しいように思う。
 少なくとも、土地代金を実際に支払った平成16年10月29日の時点で、定期預金を組むことで、小沢氏に立て替えてもらった4億円を返済したことにはならないはずである。
 実際の資金繰りとしては、平成17年になって、「小沢一郎政経研究会」等の政治団体からの資金移動をもって、運転資金が充足している。収支報告書に記載されていないので、実際にいつこのお金が返済されたかわからないが、年度を超える立替は認められないだろう。

■「不自然」=「偽装工作」とは言うべきではない

 これまで述べたように、陸山会の資金の流れには不自然なところがいくつかある。しかしだからと言って、検察審査会の議決にある「偽装工作」と言えるのだろうか?
 議決では、「小沢氏は本件土地購入の原資を偽装するために、銀行から陸山会の定期預金4億円を担保に小沢氏個人が4億円を借り入れる」としている。
 偽装が目的ならば、定期預金を簿外にして、収支報告書に記載しなければ、収支報告書上矛盾が無かったし、あるいは、銀行からの借り入れを直接陸山会が借りれば、これもまた矛盾がない。にも関わらずそうしていないのは、作為的な偽装工作になり得ていない、つまり単なるミスと見るべきである。

 ここであらためて私のスタンスを説明するが、私は何も小沢一郎氏をなんとしても擁護しようとする立場ではない。検察やマスコミの不当性を批判することに主眼がある。
 もともと東京地検特捜部は、小沢一郎氏を狙っていた。収支報告書にこのような不自然な点があり、疑われたから、強制捜査が行われた。その結果、確たる証拠が出てこず、不起訴になった。
 そうしたら、これで終わりにしなくてはならない。強制捜査されたことをもって、「離党しろ」、「議員辞職しろ」、「証人喚問だ」と、さらには検察審査会が、「強制起訴して裁判で決着つけろ」として、小沢一郎氏の政治生命を奪おうとすることは不当である。