検察審査会の2回目の議決。1回目の被疑事実にないにもかかわらず、2回目の犯罪事実に突然出てきた、小沢氏からの4億円借入の不記載。
 1回目にはない犯罪事実を含む2回目の起訴相当議決が有効なのかという問題は大きいが、マスコミの報道等ではこちらの問題の方が大きく取りあげられていた問題でもあり、この重要なテーマについても整理しておく必要があるだろう。

 ただ、マスコミの報道やネットからでは、正確な情報がなかなか把握できない。これだけ膨大な量の小沢バッシング報道がされたにも関わらず、不思議なくらい事実関係を正しく整理した報道やネット上の情報を見つけるのに、非常に苦労する。
 また、私は会計の専門的知識を持ち合わせていないこともあり、重要なテーマでありながら書くのが遅くなってしまった。

 そこでなによりも、政治資金収支報告書そのものを見なくてはならない。
 過去2年間については、報告書そのものが総務省のサイトに掲載されているが、それ以前のものとなると、官報に掲載されたもの概要版を同じく総務省のサイトで閲覧することができる。
 肝心の平成16年の陸山会の政治資金収支報告書もここで閲覧できる。

 マスコミやネット上では、今回の陸山会の収支報告書の問題を、さもわかったように語る人たちが多いが、どれほど収支報告書そのものをしっかり見た人がいるのだろうか?
 実は私もはじめはどこで閲覧できるのか、探すまで時間がかかり、さらに、実際に見てからも、マスコミ等で報道されたことと、収支報告書の記載内容との照合、さらに実際にお金の流れがどうだったのか、理解するのに苦労した。

 さらに、収支報告書には、時系列的にお金の流れが記載されているわけではない。年末時点での1年間の収入と支出と資産が記載されているだけなので、実際のお金の流れは、報道された内容等から推察するしかない。

 平成15年から19年における、陸山会の政治資金収支報告書の要約を表にまとめ、ここに掲載した。

■4億円不記載とは何か?


 2回目の議決には、犯罪事実として「陸山会が、平成16年10月初めころから同月27日ころまでの間に、被疑者から合計4億円の借入れをしたのに、平成16年分の収支報告書にこれらを収入として記載せず」とある。

 収支報告書には「借入金 小澤 一郎」とあるので、さらにこれとは別の4億円の借入があったという主張である。つまり、合計8億円を小沢氏個人から借り入れていたのに、このうち4億円しか記載しなかったとして、犯罪事実として書かれている。

 平成22年1月23日付けの小沢氏からの説明でも、個人の資産から貸した4億円と、定期預金を担保に小沢氏個人が借り入れ、陸山会へ転貸した4億円があると思われる。
 収支報告書を見ただけでは「借入金 小澤 一郎」としかないので、これがどちらなのかは判別できない。しかし、検察及び検察審査会の主張としては、個人の資産から貸した4億円の方が記載されておらず、だからこれは不正なお金を隠蔽しようとしたものだと主張している。

 小沢氏の説明では、「個人の資産の4億円を一時的に陸山会に貸し付けることとした」としているように、経理上どう処理するかは別にして、貸し付けたと説明している。
 一方、定期預金を担保に小沢氏個人が借入れ、陸山会に転貸したことについては、借入のための書類に署名したことは認めているが、具体的には「関与していない」と説明している。

 ここでややこしいのは、担保にした定期預金は陸山会名義であり、銀行からの借り入れは小澤氏個人がしている。普通はこの両者は同一でないとおかしいが、この形で銀行が貸し付けたということは、銀行としては、「陸山会」=「小澤一郎」であると同一視し、担保として有効と認めたから貸し付けたのである。
 さらに言えば、法人格を持たない陸山会という団体よりも、政治家小澤一郎個人に直接返済義務を負ってもらった方が、銀行としては安心できるということではないだろうか。

 銀行の立場はさておき、収支報告書上は小澤一郎氏個人と、陸山会を明確に分けないとならない。しかし実態としては、このあたりが曖昧になってしまっていたのであろう。

 小沢氏の説明では、2つの貸付のうち、個人の資産から貸し付けた方が、貸し付けた意識が強く、銀行からの転貸については、あまりはっきり認識していないように伺える。

 それもそのはずで、もともと陸山会等の資金管理団体の資金をもとに、陸山会名義の定期預金を組み、これを担保に陸山会の運転資金のために借り入れたお金なので、実質的には陸山会が借りたお金である。単に借入が陸山会の代表者である個人名義だったということであり、小澤氏個人の口座にこのお金があったのは、ほんの一瞬でしかないはず。お金の流れの順序としては、小沢氏個人からの貸し付けだとしても、小沢氏個人としてはそういう認識があまりないのも当然である。

 つまり、小沢氏の認識としては、実質的に貸し付けた金額は4億円なのであり、8億円ではないはずである。
 したがって、収支報告書に「借入金 小澤 一郎」と記載されているのであれば、この報告を受けたとしても、特におかしいとは思わない方が自然であろう。
 石川氏が小沢氏に報告し、了承を得たとしても、小沢氏までも虚偽記載の罪を被せることはあまりにも無理がある。

■1億8千万円の不記載
 
 小沢氏個人資金からの借入4億円以外にも、他の政治団体からの資金移動1億8千万円の不記載問題もある。これも報道されたが、何故か4億円の方ばかり強調され、省略されることが多く、2回目の検察審査会の議決にも、このことについては触れられていない。

 実際に土地代金を支払ったとされる平成16年10月29日、午前中に土地代金を支払い、同じ日の午後、他の政治団体から1億8千万円を陸山会に資金移動し、残っていた陸山会の資金と合わせて、4億円の定期預金を組んだとされる。

 小沢氏個人からの借入が、定期預金を担保にしている以上、借入を除いて資金が4億円以上なくてはならず、この1億8千万円がなくては資金が足らず、定期預金を組むことができない。

■説明の付かない不自然さ

 陸山会のお金の流れや経理処理には、不自然なところがいくつかある。検察審査会の議決のように、「偽装工作」だなどと言うのは不当だと思うが、これらの不自然さは否定できない。いろいろ考えたが、説明が付かないのである。
 この不自然さについては、次回以降に書きたいと思う。