土地取り引きの流れとして、土地代金を支払った平成16年10月の段階では仮登記であり、平成17年1月7日付けで本登記し、同日登記名義の「小澤一郎」と陸山会代表の「小沢一郎」との間で、実質的な土地所有者を陸山会とする「確認書」を取り交わしている。
 このことをもって、17年政治資金収支報告書に土地取引を記載することは、妥当性があると考えられる。したがって、「期ずれ」の問題は、政治資金収支報告書の記載方法として100%正解かどうかは別にして、全くの虚偽とは言えず、悪質性も認められないため、違法ではないと判断すべきである。

 しかし、スッキリとはいかない疑問も残る。
 そもそも平成16年10月の段階で、なぜ本登記せずに、仮登記したのだろうか? 仮登記とはすなわち「売買予約契約」で、正式に売買が成立して所有権移転登記(本登記)することを予約することである。
 これをするのは、売買代金の全額を用意できず、その一部を支払った場合や、農地転用許可が必要な農地で、その時点で転用許可が下りるまで相当の期間を要すると考えられるときである。
 
 しかし本件の場合、平成16年10月の段階で土地購入資金は用意できていたし、報道等を総合しても、平成16年10月下旬には、全額を支払ったようだ。
 また、この土地の地目は当時農地であったが、市街化区域であるため、農地転用許可は不要である。農地転用届出が必要だとしても、これは通常2週間以内に受理通知が交付され、これを添付することで、地目が農地であっても所有権移転登記をすることができる。

 したがって、土地代金を全額支払ったにもかかわらず、その時点では仮登記にとどめ、2ヶ月後に所有権移転登記をしたという登記の流れは、確かに不自然であり、だからこそ、検察に疑惑として捉えられたのだろう。
 でも、繰り返すが、不自然だからといって、このこと自体違法ではないし、何か悪質な動機や証拠が無いかぎり、これを犯罪扱いするべきではない。

 ここで少し、農地転用届出について、もう少し詳しく述べたいと思う。というのは、以下のような一部サイトで、農地だから、「すぐに売買できない」とか、「農地転用の手続きに時間がかかって、本登記が遅れた」という内容の記述が散見される。これらの影響を受けてか、このことを鵜呑みにしたかのようなウェブ上の書き込みも少なくないようなので、あえて詳しく書いておく。 

http://ameblo.jp/aratakyo/entry-10664176032.html
http://www.tsuiq.info/OzawaWhite.pdf
http://amesei.exblog.jp/12027300/

 上記のサイトでは、市街化区域内農地の「転用届」と市街化調整区域等での「農地転用許可」を混同している。「許可」と「届出」とでは大違いなのである。
 市街化調整区域や農業振興地域の農用地区域等では農地転用許可が必要で、通常農地転用が許可されるまで相当の時間がかかるし、時間をかけても許可されない場合も多い。これはそもそも、農地を保全することが優先される地域で、農地転用許可基準というものにもとづき、優良な農地ほど転用許可について厳しく運用される。

 一方の市街化区域は、市街化を促進する区域であり、農地を保全すべき理由が特にない(生産緑地地区を除く)。したがって、農地転用届出の手続きは、単なる事務的な手続きに過ぎず、速やかに受理通知を出さなければならないとされている。期間を要するケースは、書類に不備があった場合や、権利関係にトラブルがある場合など、希である。
 でも実際にどのくらいの期間を要するかは、多少市町村によって運用が異なるので、念のため世田谷区の都市農業課に電話で問い合わせてみた。すると、
「届出があってから、2週間以内に受理通知書を交付しなければならない決まりになっていますが、通常は1週間程度で出ます。」との回答であった。

 さらに具体的に確かめるために、登記簿を確認してみた。登記簿については「登記情報提供サービス」
http://www1.touki.or.jp/gateway.html
がインターネット上で利用することができ、誰でも手軽に登記情報を入手することができる。

 ちなみに該当の土地の地番は、東京都世田谷区深沢八丁目28番5及び28番19の2筆である。登記簿を見ると以下のことがわかる。
 
 この土地はもともと農地を所有していた個人(農家あるいは元農家)から、不動産会社の「東洋アレックス株式会社」が、平成16年に取得した土地であり、その所有権移転登記は、仮登記を経ずに平成16年3月31日に行われている。この時点では地積1,001㎡の一筆の土地で、地目は畑であった。これを東洋アレックスは、平成16年5月6日に、7筆に分筆し、その後小澤一郎氏を含め、6者に売却している。

 つまり、地目が畑である土地について、東洋アレックスが所有権移転登記をしたということは、宅地分譲目的ですでに農地転用届出の受理通知を受けているはずである。
 さらにこの分譲地は、小澤一郎氏が取得した2筆を除き、5筆全てが仮登記を経ずに、平成16年中に所有権移転登記がなされている。
 こうして、元は1筆の畑であった土地で現在は7筆に分かれる土地の所有権の流れを登記簿で辿ってみても、この間に、仮登記をしたのは小澤一郎氏ただ一人である。
 この事実からも、一旦仮登記をして、2ヶ月後に本登記をしたことの必然性は見あたらず、疑問が残ってしまう。