1998年に和歌山で起きた毒物カレー事件、2009年4月21日、林眞須美被告に対し、最高裁は上告を棄却し、死刑が確定した。

この事件の特徴は、自白、動機、直接証拠が無いこと。状況証拠のみで、死刑が確定したということは、裁判が非常に恐ろしい状況になっていることを、あらためて認識させられた。

判決の要旨を読んでみても、全く説得力は無い。
にもかかわらず、「合理的な疑いを差し挟む余地のない程度に証明されている」と言い切ってしまっている。

判決では、以下のことを根拠として林眞須美被告を犯人としている。

①砒素の鑑定結果から、カレーに混入したものと、自宅から発見したものがその組成が同じ
②被告の頭髪からも砒素が検出され、被告が亜砒酸を取り扱っていたと推察できる
③事件当日カレー鍋に亜砒酸を密かにカレーの鍋に混入する機会があったのは被告のみ、
 被告が調理済みの鍋のふたを開けるなどの不審な行動をしていたことも目撃されている。

①については、科学的な鑑定結果に対して、盲目的、あるいは作為的な判断がみられる。
 鑑定結果はあくまでも、組成が近いと言っているだけで、全く同じとの証明はできない。
 しかも、裁判所が行った再鑑定で、一度は「同一とは言えない」という結果が出たにもかかわらず、裁判所があわてて、鑑定のやり直しを命令し、「同一の可能性がある」との結果が出た。この「可能性がある」という結果が、検察と裁判所によって「同一である」と表現を変えて証拠とされている。
 林被告の自宅にあったとされる亜砒酸は、中国産で愛知県の業者を通じて購入したものらしい。
 組成がほぼ同一の亜砒酸は他にも大量にあるはずで、決定的な証拠とはなり得ない。

②の理由については、話にならない。
 もともと林被告では、かつてシロアリ駆除業を営んでおり、
 さらに、亜砒酸を使用した保険金詐欺については事実として認めているのだから、林被告が亜砒酸を取り扱っていること自体は事実だが、このことをもって、カレーに混入したことにはならない。

③カレー鍋に混入する機会があったのは林被告のみというが、その根拠が十分示されていない。
 目撃証言というが、カレー鍋のふたを開けただけである。
 検察の筋書きである紙コップで亜砒酸を入れる瞬間を目撃したわけではない。
 火の入ったカレー鍋の見張りをしていたのだから、鍋のふたを開けることは“不審な行動”ではなく、ごく普通の行動ではないか。
 また、弁護側の主張からすると、事件当日着ていたTシャツの色から、この証言は林真須美被告ではなく、林被告の次女を目撃したものではないかという。次女は写真誌「フライデー」でも間違えられるほど、容姿が似ている。

この事件は、毒物カレー事件のほか、殺人未遂罪として3件、詐欺罪として4件の事件を認定している。
①砒素入りくず湯事件
 保険金目的で、夫に砒素を混入したくず湯を食べさせた。
②砒素入り牛丼事件
 保険金目的で、知人男性に砒素入り牛丼を食べさせた。さらに入院給付金をだまし取った(詐欺罪)
③砒素入りうどん事件
 保険金目的で、知人男性に砒素入りうどんを食べさせた。
④保険金詐欺3事件
 夫と共謀して、被告のやけど、夫の骨折の原因、障害の程度を偽り、高度障害保険金など1億6千万円を欺取した。

このうち夫と共謀して行った保険金詐欺については、被告は一部事実として認めている。
しかし、検察が主張した保険金詐欺事件は22件もあり、裁判所が認定した事件はこの一部である。
いずれにせよ、林真須美被告および夫の健治被告は、保険金詐欺については概ね認めているが、殺人未遂、つまり殺意があったことについて認めていない。
砒素の毒性とその取扱を熟知していた被告は、死なないように砒素を使用していたということだ。
逆に言えば、死なないようにして必要な程度に体調を悪くする方が高度なテクニックで、致死量を超えて殺すことは素人でもできる。

検察及び裁判所は、この殺さないようにしてやった保険金詐欺事件を、無理に殺人未遂事件に格上げし、毒物カレー事件の殺人・殺人未遂事件に結びつけている。

以上のように、この判決は不当と考える。
あるいは、真犯人ないし十分な証拠を突き止めることができなかった警察が、マスコミが騒ぎ立てる事件を迷宮入りさせるわけにいかないというプレッシャーからか、保険金詐欺といういかがわしい夫婦を、殺人という異質の事件の犯罪者に仕立て上げたのだろう。

なお、以下のサイトを参考させていただいた。

産経新聞「和歌山カレー事件 真須美被告の上告棄却 死刑確定」

甲南大学刑事訴訟法教室「和歌山毒入りカレー事件」

林眞須美さんを支援する会

古川利明「和歌山カレー事件「死刑判決&マスコミ報道」をブッタ斬る

つぶやきいわぢろう