「ねー。鏡姉。これの続き持ってない?」

 中学1年生の走羽(はしりば)桜羽(るう)は高校2年生の高杉(たかすぎ)鏡花(きょうか)に言った。

「最新刊まだ買ってないからないよ」

 鏡花はスマホを触っている。

「ちぇー」

 桜羽は拗ねて漫画を本棚に戻し、ふわっとした白い絨毯に寝転んだ。

 桜羽は最近、鏡花があまり構ってくれなくなったことを気にしていた。お互いに兄弟のいない2人は、隣同士に住んでいることもあって、小学生のころからよく遊ぶことが多かった。今だって、鏡花の家に来ている。

 ただ最近、どうも鏡花の様子がおかしかった。

 あまり会話もしてくれないし、何かを隠しているような気がする。

 なんとなく違和感を感じつつも、一旦帰ろうかと考えた桜羽は1階へと降りて行った。

 と、そこでさっきまで読んでいた恋愛漫画を思い出した。

 学校でこっそり恋愛する男女の話だ。

 

 もしかして鏡姉、彼氏ができたのか?

 そう考えた瞬間、桜羽は胸が締め付けられるような感じがした。

 別に鏡花に対して恋愛感情を意識したことはない。だが、それでも何か、もやっとした。

 桜羽が部屋に戻ると、鏡花は相変わらずスマホを触っていた。

「ねえ、鏡姉」

「なーに?」

「なんか隠してることない?」

「へ⁉」

 鏡花は変に高い声を出し、動きを止めた。

「い、いや、何にも隠してなんてないよ?」

「絶対なんかあるじゃん!」

「な、ないったら」

「……」

 桜羽は鏡花を疑いの目で見つめたが、鏡花は話そうとしない。

「……もういい。今日は帰る」

 桜羽はもやもやした気持ちがなくならず、部屋から出ていった。

「……」

 鏡花は桜羽に声を掛けることはしなかった。

 

 

 

 桜羽は公園で一人、ボールを追いかけていた。

小さいころは、鏡花と2人でよくサッカーをやっていた。夜まで2人で走り回ることも多かった。

ただ、時がたつに連れて外で遊ぶ時間は少なくなり、鏡花はバレーボールを始めた。

その時にはもう、桜羽はクラブに入っていたし、変わらず家に行くことはあったから、寂しいと思うことは少なかった。

 とは言っても、今日の様子はやはりおかしかった。

 やっぱり、彼氏ができたんだろうか。

 もし、鏡姉が結婚したら、会える時間もずっと減るんだろうか。

 桜羽はしばらく練習したあと、空が暗くなり始めてから、自分の家に戻ることにした。

 

 桜羽は玄関の前まで来て、何か、家の中が騒がしいような気がした。

 疑問に思いながらも扉を開けると。

「あ、帰ってきた!」

 鏡花が出迎えに来た。

「な、なんだよ」

「はやくはやく!」

 鏡花に連れられてリビングに上がると。

「「「お誕生日おめでとう!」」」

 両親と、鏡花の歓迎が桜羽を出迎えた。

「え?」

「お祝いだよ! 早くこっちに座って!」

 テーブルの上にはろうそくを指してある、大きなショートケーキが置いてあった。

「……うん!」

 桜羽は嬉しさと共に、椅子に座った。

「えっと……これ、プレゼント!」

 鏡花が箱を差し出してきた。

「これって……」

「ごめんね。秘密にしときたくてさ」

「良かった……」

「何が?」

「何でもないよっ」

「さ、ろうそくつけましょ」

 その夜、桜羽の家では、祝いの歌が流れ、楽し気な声が響き渡っていた。