■1
鏡の前にその未発達な体を確かめるようにしてマツカは立った。
膝上のスカートがぱさりと音を立てて足元に落ちる。
紺色のソックスからは小さな膝が顔を出し、その細くてすんなりとした脚がまだまだ子供のようで
友達のそれのような曲線と異なった様が悲しかった。
けれど異なる形はそれだけじゃない。
身につけた白い下着もどこか幼げではずかしかった。
みんなもっときれいな色やかわいらしいもの、それにもっと目にも華美な下着を身につけていて
マツカよりもひとつもふたつも大人の様子に見えていた。
まっすぐでぺたんこな下腹も丸みの少ない小さなヒップも、どれをとっても子供のようで。
これじゃ、相手にしてもらえるわけがない。
胸元を覆うようにして添えた下着をおろせば現れるのは肉付きの薄いかすかなふたつの膨らみだった。華奢な骨をうっすらと覆う薄い皮膚は色素の淡い桃色だ。
マツカは不満げにため息を漏らしたが、発達の遅い様子は柔らかく熟れる前のようなほのかに優しげな色はどこか危うい色を帯びていた。
あと少し、ほんの少しだけ綻ぶ季節を待ったなら、その肌はみずみずしくも果実のような感触を帯びるだろう。触れればその肌のやわらかな弾力と、吸いつくような質感に誰もが心奪われる。
熟れる前のひとつ前、そんな時期にマツカはあった。
慎ましく膨らんだ胸は確かに幼くもあったけれど、そのいたいけな様が華奢な姿には似つかわしくもあった。未成熟な時期特有の不自然なバランスはマツカ自身は不満げにため息を漏らすけれど、それがどんなにかあやうくもかわいらしく人の目に映るものなのかをマツカは知らないでいた。
ましてその胸のうちに秘めている思い人が、どんなにかマツカの幼さを大切に思っているのかを知ることはない。
「ちっちゃい…」
鏡に写した膨らみに乏しい胸はなんど見ても小ぶりなままだ。つん、と上を向いたままの桜色の乳首は貧弱で到底人の欲情を掻き立てるものには思えなかった。
ましてやマツカの思う相手はいくつも年の離れた人で、どの時間を切り取って思い起こしてみてもいつも清潔な様子しか思いつかないような、色めいた話を想像することじたい難しいような人だった。
「キース…」
その名を口にすれば胸の中にはどうしようもなく甘い気持ちが広がっていく。
なんどもなんどもその名を胸の内で繰り返し、そのたびにじわりとしびれるような感覚を自覚したのはいつのころからだっったのか、もうマツカにはわからない。思いだされるキースの記憶はどれもこれも優しくてそれでいて どこか切ない気持を伴うようで、ずっとそんな気持ちを秘めたままキースとふたり同じ屋根の下で暮らしてきた。
はぐれないようにと繋いで歩いた帰り道が嬉しかった。彼のまなざしがまっすぐに自分だけを写していることが嬉しかった。
手をつないださきにある優しいまなざしとの距離感が少しづつ近づいて、やっと目線の高さが交差する高さに距離感が縮めらたような気になっていた。重ねる視線に秘かに唇を重ねることを思い浮かべては淡い期待を抱いていたのに。
なのに、近づいていく視線をとがめるようにしていつの間にかつながれた指先はほどかれていた。
いつの間にか、手を繋ぐこともなくなってしまっていた。
なのに少し離れた場所から撫でるような視線はどこまでも優しくて。
手の届く距離を保ったまま、それ以上近づくこともけれど離れていくこともない距離感にマツカは想いを重ねていった。
静かに、静かに。音もなく水辺にひぅそりと雪が落ちるように、積もることも溶けることもないままにただひとつの思いを募らせていった。
キースが好き。
ずっとずっとキースが好き。
マツカはこどもの時にかわした約束を忘れない。それはふたりの最初の約束で大切なお守りだったから。
「おおきくなったら結婚しようね」
それはマツカのなによりも大切な約束だった。おおきくなったら、ていつ?ませた子供はその約束を消してしまわないようにマツカはキースに応えをせがむ。
そうしてまじめくさった顔をしてキースは言った。
「マツカが18歳になったら」
「18…」
「そしたら誰にもなにも言わせない」
そう言って重ねるだけのキスをした。唇の先が触れるだけの小鳥のようなキス。
けれどそれは大切な約束だった。
キースが忘れていませんように。絶対忘れていませんように。
早く、お誕生日がきてしまえばいいのに。
鏡に映る華奢な姿を隠すように、マツカは淡いシャツを身につけた。