こんばんは。

ミステリ案内の稲葉の白兎です。

昨日、田村正和氏の追悼番組として
松本清張の『疑惑』が放送されました。

私も何回か
この『疑惑』については語っております。

『疑惑』は原作は
なんてことない短編です。

映画の『疑惑』が先だったので
桃井かおりと岩下志麻主演の白熱の演技に
期待満々で原作を読んだら
「えっ?」という感じで拍子抜けしたのを覚えています。

何を期待したかと言うと、
悪女・鬼塚球磨子と国選弁護人との
ぶつかり合いです。

まさに女の闘いでした。

球磨子は女弁護士に助けてもらう立場なのに悪態をつき、
挙句、無罪にしてもらった、 
裁判で勝ったのに、ワインを女弁護士の白いスーツにかけて罵倒するのです。

しかし!
原作は、そもそも男の弁護士でした。

限りなくクロに近い状況で
弁護士が性悪女の無実を証明します。

殺人ではなく、
死んだ夫が仕組んだ無理心中だったわけです。

ドラマに近い内容を期待したら、
かなり物足りなかったです。

逆に、よくぞあの原作をあそこまでドラマチックにしたな、と。

田村正和の追悼番組なのに、
どうしても目線は悪女「球磨子」に惹きつけられてしまいます。

今回は美人の誉高き沢口靖子嬢とあって、
その意表外のキャスティングに驚くしかありませんでした。

おそらく、桃井かおりと同じ悪女路線でいったら、往年の映画と比べられて苦戦したと思われますが、

悪女ではなく
悪女のイメージをマスコミから植え付けられた悲劇の哀れな女でありました。

田村正和も、どうにかこの女を救おうと一生懸命。
拘置所で厳しい生活を送る球磨子のために、ポケットマネーでセーターを買うという演出は、
全く嫌味がなく、
それにより、突っ張ってた球磨子が素直になっていくという、
ちょっとしたヒューマン仕立てになりました。

沢口靖子の演技から目が離せなかったです。

怖いのは、彼女に執着した夫のほうですね。

奇しくも『紀州のドンファン』の実際の変死事件と重なって、
夫婦というか、男女のドロドロが
臨場感を伴いました。

歳の離れた美人妻と金持ちの実業家。

想像力をかき立てられます。


それにしても、この『疑惑』

今まで何度も製作され、
その度に、
球磨子と弁護士の組み合わせにより、
微妙に内容が変わるのが興味深いです。

この球磨子を演じる女優は幸せですね。

元はと言えば、
最初の桃井かおりが
とんでもない悪女・球磨子を徹底的に演じ切ったことにあると思います。

実際には、こんな人には関わりたくないです。
弁護士はエライですね。

『黒革の手帳』もそうですが
どうして清張センセの作品は
女優がこうも輝くのでしょうか。

故・市原悦子さんの当たり役
『家政婦は見た』も
原作は松本清張の『熱い空気』ですからね。

特に一番最初はシリアスに演じてましたね。
凄みがありました。

いつのまにか、シリーズ化し、
秋子も、コミカルになりました。

秋子も一種の悪女です。

でも、清張作品の悪女には
応援したくなる何かがあります。