こんばんは。
ミステリ案内の稲葉の白兎です。
「人狼城の恐怖」ドイツ編は
ドイツ人のドイツ国内観光団が
全ての観光を消化した後
最後の宿泊地として訪れた人狼城という、
伝説のお城。
その人狼城で滞在中に不可解な連続殺人の幕が切って落とされます。
本文は、
テオドール・レーゼによる若い音楽家の手記で構成されています。
つまり、テオドールが見たこと、感じたこと、が中心です。
キッカケは製薬会社の懸賞旅行に応募したこと、
まさかの当選。
しかし、結果を言えば、
当たらないほうがよかった。
当たらなければ恐ろしい人狼城に行かずに済んだので。
他の人も当選を果たして参加したわけですが
2人ほど、
無理やり担当にねじ込んで
参加できた者もいました。
1人は警察官で、潜入捜査のため。
というのは、
旅行団の中にドイツの森で起きた凶悪事件の容疑者が参加したからです。
駆け込み参加ですね。
もう1人は研究論文の発表のため。
この人物は、
人狼城に対しても
ただならぬ興味と知識がありました。
さて、人狼城は双子の城。
外観がそっくりのその城は、
国境沿いの川を挟んで建っています。
フランス編はその、
片方の双子の片割れの城があるもう一方なのです。
フランス・アルザス地方の、
あるサロンのメンバーによる人狼城訪問です。
「アルザス独立サロン」という
文字通り、アルザス人のフランスからの独立を
目的とした高級会員制のクラブです。
アルザス地方は、
フランスとドイツの国境付近に位置しており、
いまだに、その国境問題は放置されています。
領土問題ですね。
アルザスは、国語の教科書に出てくる
「最後の授業」という話が有名です。
ドイツ軍に占領され、
明日からはドイツ語を無理やり使わなければならなくなります。
戦後、フランスからはドイツの手先みたいな、
偏見の目で見られ、
フランスからもドイツからも爪弾きになります。
だったら、いっそ、
「アルザス」はフランスから独立し、
アルザス人のアルザス人による国家を作ろうではないか!
理想はそうでも、
独立するには莫大な費用がかかります。
その問題に理解を示してくれるスポンサーが、
フランス側の人狼城・青の狼城の持ち主のシユライヒヤー伯爵です。
サロンの理事長は、伯爵の城への訪問を画策し、メンバーを編成します。
フランス編は若き弁護士、ローラント・ゲルケンの日記で構成されています。
ドイツ編は懸賞旅行にたまたま当たった10組が
単純にドイツ観光を楽しむだけですが、
(偶然でない人もいましたが)
フランス編は、
政治的な問題を始め、
関係各人のさまざまな思惑から、
人狼城の表敬訪問が成り立っており、
事情がやや複雑です。
フランス編は、メンバーは旧知の間柄。
急遽、訪問メンバーに加わったガスパール・サロモンは、
ニセ会員です。
彼は警察官で、しかも元ドイツ人。
ナチスの負の遺産・人狼を追跡している腕利きのナチスハンターです。
彼の追跡で、人狼が訪問メンバーの誰かの体を乗
人狼が乗っ取つたことが判明します。
いきなり、何の話だよ!
と思うかもしれません。
人狼って⁈
ローラントもそうでした。
サロモン警部はそこの所を信じてもらおうと、
人狼開発に携わったリケ博士に
そもそも人狼とはなんぞや?
というところから説明を始めます。
ローラントは半信半疑でしたが
人狼の始末に、
親友の検事補が積極的にサロモン警部をアシストしていることで、協力しない訳にはいかなくなりました。
その検事補は、ある脱税疑惑事件を捜査しており、
その疑惑の人物こそ、人狼城の現城主の
シユライヒヤー伯爵なのです。
検事補が人狼城へ向かいたいのですが、
あいにく彼はパリ出身のフランス人で、
アルザス人ではありません。
サロンの会員になるにはアルザス人でないとダメなのです。
それだけ審査の厳しいサロンだということ。
人狼は、表敬訪問を口実に
ドイツ側に逃げようとしている!!
「人狼」とは、ナチスが開発した星気体兵士、
アストラル兵士とも言います。
気体でできているのです。
肉体がないのです。
人間の肉体を乗っ取り、つまりその人物にパラサイトするわけです。
詳しい事情は面倒なので省きますが
サロモン警部は、この人狼の始末に
全てをかけて参加しています。
彼の正体を知っているのはローラントだけ。
警部もアルザス人ではないので、
テルセ検事補は、
国家権力を使って、理事長を動かし、
サロモン警部を表敬訪問のメンバーに加えました。
いざ、城に到着してみると、
シユライヒヤー伯爵は留守でした。
城に着くやいなや、
ローラントの身に不可解な出来事が
次々起こります。
ある朝、城門に外側から鍵がかけられ、
全員が閉じ込められます。
そして身の毛の世立つ殺人事件の幕が切って落とされます。
以上が事件編です。
作者いわく、
ドイツ、フランス編はどちらを先に読んでも構わないと。
そして3冊目が
探偵登場編です。
舞台はなぜか日本(笑)。
まあ、作者も探偵も日本人ですから。
探偵は若い女。
遠い異国の失踪事件を聞き、
調査に乗り出します。
ドイツの大手製薬会社が主催した懸賞旅行の観光団が
予定の日を過ぎても戻らないと、
家族から訴えがありました。
戻ってきた参加者は皆無でした。
正確には一人だけ、生還しましたが。
一方、フランスのある宗教団体の老幹部が
極秘にこの女探偵と接触します。
女探偵に、
いきなり脈絡もなくフランスに行けと命じます。
行けばわかる、とかなり強引な
一方的な指示です。
かつてこの宗教団体の事件を彼女が
解決したという腐れ縁を持っていました。
フランスに飛ぶ女探偵。
フランスを観光中、
とある日記を
その婚約者と名乗る女性から渡されます。
日記の記録者はローラント・ゲルケン。
彼が人狼城へ訪れるまでのサロモン警部とのやり取りなどの紆余曲折と、
人狼城での阿鼻叫喚な出来事が克明に記されていました。
この2人の青年の手記に共通しているのは、
どちらも
双子の城を訪れていること、
つまり、場所的には
ほぼ同位置、
なぜならドイツの銀の狼城と
フランスの青の狼城は、
川を挟んで、崖の上で向かい合って建っているからです。
外観もわずかな色の違いを除けばほぼ一緒。
失踪時期もほぼ同時期にあたっていました。
そんなバカなことってあるでしょうか?
違う城で、
似たような事件が起きるなんて!!
しかし、
断じて両事件の類似性は偶然ではないし、
密接に関係しているはず。
女探偵は、
やる気満々です。