こんばんは。

ミステリ案内・稲葉の白兎です。

面白い推理小説とは何か?

結果も大事だけど、
経過も大事です。

松本清張氏の作品は、
敢えて欠点を言うと、
途中が退屈なものがあります。

「Dの複合」は、
羽衣伝説とか民間伝説の部分が退屈です。
考古学的なものに興味がなかった当時の白兎めは、
苦痛というか、この先の展開が読めないのが
気になりました。
殺人事件は出てきますが、
進行してる物語と、並走してるだけなんです。
結びつくのに時間がかかりました。

同じような短編に「陸行水行」があります。

邪馬台国はどこにあったか?
畿内か九州か?
その根拠は?

こういったモノを延々と、
主人公に、旅先で会ったナゾの通行人が
延々と説明するんです。

一種の地獄でした。(笑)

後で地獄から天国に変わりましたが。

マジメに一歩手前で読むのをやめるところでした。

若かつたら、そうしてたでしょう。

ある程度、
「来るぞ〜」
という予感や期待が大事なんですよね。

その点は、江戸川乱歩が
抜群にうまかった。

13日の金曜日よろしく、
斧を持った殺人鬼が来るぞ〜
と期待させるわけです。

それには、登場人物のキャラ設定が
ハッキリしっかりしてると
安心です。

被害者にも魅力が必要なんです。

個性的な被害者。

「三角館の恐怖」には、
双子の老人が出てきます。

この老人は、二人とも殺されてしまうのですが、
2人のキャラ設定がすごいのです。

ホンモノの双子なのに、
全く似てないどころか
顔も性格も正反対。

間違い殺人が起きようがありません。

一人は用心深く、
何事も慎重、
石橋を叩いてわたるタイプ。
その性格ゆえ、
結婚もせず、養子を迎えてます。
倹約家。
体格は、痩せ型。
酒もタバコもやりません。

一人は、その逆です。
冒険家、情熱家。
スポーツマン。
大雑把。無計画。
人に対して甘いところがあるので、
2人の息子はニートです。
酒もタバコもやりました。
体格はガッチリ筋肉質

若い時から、このように
ハッキリ分かれ、

同い年なのに、
いまや健康面で大きな差があるのです。

後者、兄のほうなのですが、
心臓を悪くして、明日をも知れない命。
若い時のお酒とタバコが原因。
医者からは、持って二ヶ月だか、
余命宣告されています。

弟は
健康オタク。

髪の毛は黒々。

心臓病の兄は白髪。


歴然とした差がつくのも無理からぬこと。

さあ、問題は遺産相続。
長生きした方が財産を独り占めできるという、
奇妙な先代からの遺言があります。

それが原因で、この双子の老人は、

一つ屋根に住みながら、
一種の二世帯住宅なんですが、

めちゃくちゃ仲が悪い!

何年も口をきかぬ仲。

どちらが長く生き残るかで
勝てば官軍、
負けたら無一文。

当然、二人を取り巻くそれぞれの家族も、
対抗意識を持っています。

片方の老人が死ねば、
死んだ側の遺族は、
ハイ、それまでよ〜。

ジ・エンド。

何しろ、兄側の2人の息子はニート。
無一文で放り出されたら、
飢え死にしてしまいます。

兄はついに根負けして、
大嫌いな弟に、
お願いにあがります。

ちなみにこの話の主人公は、
双子の兄側に雇われた弁護士です。

「今までの事は水に流してほしい。
ワシが死んでも、せがれたちに財産を半分やってほしい」

要約すると、こういう相談です。

逆の場合は?
言いませんでした。

というのも、
兄側の命は風前の灯で、
100%、勝つ事はあり得ないからです。

「弁護士を呼んだのもそのためだよ。
ワシ達は長いこと仲が良くなかったが、
半分はその先代のおかしな遺言のせいだ。
あれを法的に書き直そうではないか」

涙を流さんばかりに頼む、
というよりは、
弟に頭を下げます。

土下座でもしかねない勢い。

そして、頭を下げに行った事は、
弁護士はもちろん、家族にもバレています。

なにしろ、この家の主人の動向は、
切実な問題なので、
あっち側の家に出かけただけで、

「ハハーン」とわかってしまいます。

何を話しに行ったのか、それを兄側はもちろん、
あちら側も薄々わかります。

弟の答は
「考えさせてくれ」
「先代からの意思は大事にしたい。」
「まるで今すぐ死ぬみたいな言い方だな」

弟らしく、
即答は避けました。
かと言って、賛成はしそうにないです。

不機嫌な顔して戻ってきた兄老人に、
義理の妹は言います。

「頼みに行ったんですね。
あのケチンボ爺さんが、首を縦に振るわけがありませんよ」

「元はと言えば、お前があの子らを甘やかすから働かなくなったんだ。ちゃんと働ければ、こんなに心配するものか!」

「私のせいだとおっしゃるの?
向こうの〇〇だって似たようなものじゃないの!」

ニートは、兄側ばかりではないようです。

「お父さん、僕たちはどうなるんですか?
叔父さんに頭を下げて乞食のマネをするのはイヤですからね!」

とんでもない家族たちですが、
このキャラ立ちが、物語に緊迫感を与えます。