こんばんは。
ミステリ案内人・稲葉の白兎です。
ゴールデンウィークの最終日、
いかがお過ごしでしたか?
神奈川県の近代文学館で松本清張展でのご紹介
パート3です。
博物館、記念館、〇〇館にはよくあるコーナー、
ドキュメント映像!
終日、流しっぱなしの見放題。
清張センセのは2種類あって、
「戦後の昭和・黒い霧シリーズ」
と
「火の路」。
火の路は、長編「火の路」を書くに至ったきっかけを解説。
火の路は、殺人は出てきません。
古代史、歴史モノに近いです。
ゾロアスター教では、古来、
火が崇められてきました。
奈良の正倉院には
人の顔をかたどった不思議な石のオブジェがあります。
それが、日本人でも西洋人でもなく、
中国人でも
アフリカ人でもなく、
どうも、ペルシャ人によく似ているのです。
清張センセは、ゾロアスター教のお祭りを見て、
ペルシャ人の顔が奈良の石にソックリだと発見します。
なぜ似ている??
もしかしてゾロアスター教は日本人とも関係あるのでは?
ということでイランに旅立つ清張センセの映像。
そうそう、
もう一つのドキュメント映像「黒い霧」。
戦後まもなくGHQ占領下で起きた事件のナゾ。
松本清張氏のライフワークとでもいうべき黒い霧シリーズ。
きっかけは帝銀事件の犯人として、
一介の絵描きが逮捕され、
死刑判決を受けたこと。
ホントに画家・平沢貞通の仕業なのか?
納得がいかない清張氏。
帝銀事件とは?
昭和最大の凶悪事件です。
私は横溝正史のテレビドラマ「悪魔が来たりて笛を吹く」の
冒頭シーンが忘れられません。
閉店間際の銀座の宝石店「天銀堂」に
東京の保健所の職員として一人の男が飛び込んできます。
「近くで赤痢が発生したので、予防薬を飲んでもらいます」
男は沈着冷静に、飲み方をレクチャー。
「はじめにこのA液を飲んでから、B液を飲んでください」
実演してお手本を示します。
店員たちは、男の言われた通りに、男がスポイトで出して作った液体の湯呑みを飲み干します。
ここまでは私も特に何とも思わず見てました。
そんなに大事な場面と思ってないので。
驚愕のシーンはここから。
言われた通りに湯呑みを飲んだ10人もの店員たちが、次々と喉を押さえ苦しみ出し、
その場で絶命しました。
あっという間でした。
男は何食わぬ顔で、
ガラスケースにあった貴金属を袋に詰めて帰りました。
わずかに死にきれてない人物が、
「だ、誰か‥」と床で助けを求めてました。
この衝撃シーンこそ、世間を震撼させた帝銀事件でした。
「悪魔が来たりて笛を吹く」は、わざと正史が
帝銀事件の模倣をやりました。
むろん現場は宝石店ではなく、
帝国銀行・椎名町支店です。
後に、テレビ朝日の土曜ワイドの時間帯に
「小説・帝銀事件」が放送されました。
原作は松本清張です。
争点となるのは
どうやって毒物を手に入れたのか?
行員たちは第2薬を嚥下後、
すぐに苦しみ出していますが、
青酸カリではないようです。
なぜなら1分ほどかかっているからです。
青酸カリなら数秒で効果が現れます。
全員に確実に飲ませるためには、
遅効性のあるものが望ましい。
すぐに死ぬと、
飲むのをやめてしまう人が出るから青酸カリではまずいわけです。
青酸化合物、
遅効性のある青酸ニトリールである可能性が高いと言われました。
青酸ニトリールの出所は、
登戸にある旧陸軍の研究室ではないか、と。
警察は旧731部隊の関係者の関与を疑い、
捜査し始めました。
ところがGHQから横槍が入ります。
要は、人体実験の戦犯に問わない代わりに、
その実験資料をアメリカによこすという協定が
なされていたのです。
GHQは731部隊の連中をかばわなくてはならなかったのです。
それで旧陸軍への矛先が全部
平沢貞通1人に向かいました。
運の悪いことが重なり、
平沢貞通を犯人にしたい空気と言うんですか、
真犯人に仕立てられてしまいました。
当時、自白の証拠率が高く、
今ではあり得ないですけど、
自白だけで、裁判官は有罪にしてしまいました。
平沢自身も、決して品行方正な人間ではなく、
逮捕当時、詐欺で大金を稼いでいたことが、
致命傷になりました。
椎名町支店に現れた人物は、
物腰がしっかりとしていて、
薬品の扱いも手馴れていて、
しかも実演までして見せてました。
冷酷非道、冷静沈着、準備万端‥
日常動作や証言から平沢は、
ちゃらんぽらんそうなキャラに見えます。
犯人像とまるで真逆。
いずれにせよ、
この実行犯は、医療従事者といったプロの匂いがします。
少なくとも、人に対して毒殺経験がある者でないと、あのような手慣れたマネはできないと思います。
これは、清張センセの考えですが。
米軍に逆らえないために、
国家の犠牲となった平沢貞通。
死刑判決から四年後に「小説帝銀事件」は生まれました。
これをきっかけに、清張氏は次々と
不可解な事件を、
「日本の黒い霧」と称してドキュメントを発表。
なんか、清張氏というより、
戦後の日本を勉強した感じでした。
