こんばんは。

ミステリ案内人・稲葉の白兎です。

世の中には、いろんなバトルがあります。

スポーツ、恋愛、料理、カラオケ(笑)


本格推理小説「三角館の恐怖」では、
ある富豪が双子の養子に
とんでもない遺言を残しました。

どちらか、
生き残ったほうに
全財産を譲る

ミッション「長生き競争」。

この先代は意地悪じゃありません。
純粋に、子供たちに長生きをしてもらいたいという親心です。
先代は今日の財産を築くために並々ならぬ努力をしましたが、
それと引き換えに健康を害してしまいました。

人間、健康が全て

命あっての物種

というわけです。

残された双子の男の子たちのほうも、

「おい、長生き競争だぞ」
と、無邪気にやり過ごしてきました。

歳を重ね、
所帯を持ったり
家族を持ったりしますと、
そっちのほうが大事になり、
少しでも身内に財産を継がせてやりたい
と、思うようです。


双子は他人の始まり。


若いうちは仲の良かった蛭峰家の双子も、
年月を経るに、遺言の重みがのしかかってきます。

2人は1つ屋根の広大な屋敷に住み、
土地代、銀行利息、証券だけで
働かずともウハウハと暮らせています。

兄・健作は結婚して2人の男の子を設けました。

弟・康造は、結婚せず2人の養子をもらいました。
男の子と女の子の2人の兄妹です。


この頃から、性格の違いがハッキリ現れます。

兄は全てに積極的で、スポーツもお酒やタバコもガンガンやります。

弟は用心深い。神経質で思慮深く、
遊びの類や不健康な嗜好品は一切やらず。
結婚もせず。

弟は
長生き競争を意識して、全財産を手中に収めるつもりだったのでしょう。
その証拠が養子縁組。
孤児の兄妹を養子にします。
女の子が成人すると、自分に似た堅物で実業家の婿を養子に入れます。

単純で大雑把な兄・健作も、
弟のこうした用心深さを見せられては、
複雑な心持ちになります。

奥さんが死んだ後は、その妹が
息子たちの母親代わりになります。

2人はついに、
屋敷に
ベルリンの壁を造ります。

ザ・二世帯住宅。

斜めの壁を造って仕切り、
二等辺三角形が2つ。

これが三角館。




長生き競争に勝つため、
相手にこちらの状況を知られないようにするわけです。

しかし、子供たち同士は意外と仲良くやっていたようです。

双子が70歳になった時、
結果は残酷なまでに差が開きました。

若い時、何でもやった兄は
健康を害して心臓が極端に弱りました。車椅子を頼む始末。

健康に気を使い、
酒もタバコもスポーツも一切やらずに
全てに控えめに過ごしてきた康造老人は、

逆に黒髪がフサフサ
肌ツヤもよく
痩せてはいるが、機敏に動けます。

車椅子を頼んだ兄は、
もうアカン、
と覚悟を決めます。

弟・康造に頭を下げる決心をしました。

というのも、2人の息子はニートで、
こんな事を言ったからです。
「お父さん、何が何でも隣のおじさんより、
長生きしてください!
お父さんが死んだら僕たちは乞食になってしまいます!」
「健作さん、私からもお願いです」
義理の妹が言います。
2人の息子がニートなのも
元々、この女性が甘やかして育てたからです。

健作は弁護士を呼びます。
そして、憎き弟に
「先代の遺言は馬鹿げている。
生き残ったほうは、独り占めせずに半分、家族に分けてほしい。まさか先代だって、自分たちが仲が悪くなるために造った訳ではあるまい。
この通りだ。
どうか、今までのことは水に流してほしい。」

果たして康造は、
兄の申し出をムシがいいと判断しました。


今更、何を、という思いがよぎります。
答えは保留にします。

ですが、腹は決まってます。


ホンネは婿に言います。

「健作の奴、相当弱ってるな。
長く持って二週間。
別にこっちはお金が欲しいわけじゃない。
しかし、もし財産があちらに行ったら、奴の息子は、あっという間に財産を食いつぶすぞ。
火を見るより明らかだ。
それだけは我慢できない。
先代の汗水垂らして築き上げた大事な財産だ。
そもそも働かない息子に育てたのが悪い。
返事は保留にしたけど、ハッキリ断ったほうがいいだろうね」

兄側の長男・健一はこんな事を言います。

「どうせあのケチな叔父さんは承知しなかったでしょう。こうなったら奇跡を待つばかりですね。
おじさんが先に死ぬという奇跡に」

暗いムードの健作一家。

奇跡は起きました。

話し合いのあったその晩、
康造は、何者かにピストルで撃たれて死にました。

長生きのために、
ストイックに暮らしてた康造は、

元を全く取らずに死にました。

理不尽であります。(笑)