こんばんは。
ミステリ案内人・稲葉の白兎です。
日本人の書いた、舞台がヨーロッパの本格長編推理小説「人狼城の恐怖」。
松本清張も「霧の会議」というヨーロッパが舞台のミステリを書いています。
登場人物も現地の外国人。
人狼城は、双子の城です。
見た目、色を除けばソックリです。
川を挟んで国境で対峙してます。
ドイツ側は銀の狼城、
フランス側は青の狼城と呼ばれ、持ち主もそれぞれ別々の人物です。
フランス編の人狼城に向かったのは、「アルザス独立サロン」の7人の代表会員。
お互いの意向が一致しての訪問及び歓迎となります。
主人公は、サロンの訪問メンバー、
ローラント・ゲルケン。
メンバー最年少の青年弁護士です。
この話はすべて、ローラントの目を通した日記形式で書かれています。
一方、青の狼城の主人・シユライヒヤー伯爵側は、
シユライヒヤー伯爵
伯爵夫人
子息ラインハルト‥仮面をかぶっている子供
伯爵夫人の弟アラン‥若い長身ハンサム
ファニー‥メイド
ゲルダ‥料理人の老女。
ローラントは、ニセ会員サロモン警部と共にメンバーに紛れ込んだ人狼を見破る使命がありました。
もう一つ、青の狼城付近で消息を絶った国税局職員の行方を捜す、
シユライヒヤー伯爵を内偵する、といった密命を帯びての参加です。
ところが、城側の住人も初日からいわくありげです。
肝心のシユライヒヤー伯爵が所用で会員の前に姿を見せず、
そして伯爵夫人が若くて、伯爵と不自然に歳が離れすぎていました。
そして一番目を引いたのがラインハルト少年。
皮膚病のため、肌を日光に晒せないとのことで
顔には仮面、手には手袋をし、一切肌を隠していました。
でも、仕草やセリフは、8歳の年相応の子供のようでした。
四階の窓を開けると、真向かいのドイツ側の銀の狼城が見えます。
ドイツ編を読むと、ドイツ側の観光団は、製薬会社の懸賞旅行に当たった人たちとツアーコンダクターを含め11人の編成です。
フランス編の使節団は、アルザス人のためのアルザス人のクラブです。
翌日はピクニック、夜は伯爵との顔合わせパーティーになります。
ピクニックの後のワイン蔵見学でローラントは何者かに襲われます。
サロモン警部はその場にいなかったランズマンが犯人だと言います。
3日目の朝、伯爵は突然使節団のリーダー・
モースを驚かせる事を言います。
「この中に身分を偽って参加してる者がいる。
身に覚えのある者は名乗り出たまえ」
ローラントはハッとします。
チラッとサロモンを見ます。
サロモンは汗をかいてます。
太っちょモースは怒ります。
「失礼じゃないですか! 僕たちはれっきとしたサロンの会員です。身元の確かな人ばかりです」
「証拠はある。
そっちが言わないのならこっちから言うぞ。
そいつは、この男だ!」
ローラントはこれまでと目を瞑ります。
しかし、ズバリと指した人差し指は、別の男の顔に向けられていました。
それはシヤリス夫人の恋人のレストラン経営者・クロード・ランズマンでした。
真っ赤になって怒るランズマンをサロモンは制します。
「クロード、反撃は後だ。まずは伯爵の言い分を聞こう」
「サロモンくん、こいつの本名は〇〇だ。
顔が奴に似てないか?」
サロモンは不意を突かれました。
しげしげとランズマンを見ます。
「本当だ。似ている。
お前は〇〇だったのか。どうりで今まで変だと思った」
ランズマンは指名手配中の元ゲシュタポでした。
2人のやり取りを聞いてモースやミューラーは怪訝に思います。伯爵は察します。
「実はもう1人、身分を偽っているものがいる。
それがサロモンくんだ。彼はナチスハンターなのだ。どうやらゲルケン弁護士だけは知っていたようだがね」
何もかもお見通しのようでした。
「そうです。ちょっとした潜入捜査です。
まさか、こんな大物に出会えるとは。
ランズマン、覚悟しろ」
ゲシュタポはサロモンにとって仇も同然です。
現に伯爵への矛先が見境いなくランズマンに変わります。
さすがのサロンのメンバーも、
ランズマンがゲシュタポと聞いて、かばう元気がなくなりました。
「伯爵、こいつは放置できない。どこかに閉じ込めてください。鍵は俺が持つことにする」
彼はほとぼりが冷めるまで、城の牢屋に入ることになりました。