こんばんは。

ミステリ案内人・稲葉の白兎です。

松本清張のファンですが、
高校生くらいまでは江戸川乱歩をよく読んでました。

乱歩の本格作品は好きです。

どちらかと言うと、長編のほうが好き。
本格の短編は少ないですのでね。

短編で好きなのは
「心理試験」と「ペテン師と空気男」。

乱歩ファンというと、
陰獣、屋根裏の散歩者、芋虫、押絵と旅する男、
黒蜥蜴、鏡地獄、パノラマ島奇談などの印象が強いようですが、

それらエロ、グロ、
怪奇性、マニアック性の強い作品は好きではないです。
これらはどちらかいうと、
文学的な作品すぎます。

推理小説はフーダニット、
誰が殺したのか?

という本格モノに尽きます。

それを開眼させてくれたのがポプラ社の
「呪いの指紋」。

でも例外的に
「大暗室」と「影男」の冒険物は、
大好きです。

ストーリーのメリハリ、
ベタ感、
スピード感がいいです。

2つの作品に共通するアイテムが
「殺人事務所」と「地下エンターテイメント」。

そして、2つとも悪い男が主人公。
アンダーグラウンドですね。

大暗室は、若くて美貌の大悪人・
大曽根竜次が主人公。

有明友之助という正義の美青年ライバルが登場しますが、
彼は脇役でしかありません。

どうしても大曽根竜次のアクの強さに勝てないのです。

本当のライバルはむしろ、
使用人の久留須左門です。

なにしろ、竜次の父親・大曽根五郎に同じボートの上でピストルで撃たれて、
海中に投げ出され、
日本に戻ってくるのに2年もかかりました。

そして旧有明邸で京子夫人の夫となった大曽根に昔のことは水に流すから屋敷を出て行くように迫ると、夫人と共に屋敷に閉じ込められ、焼殺を図られました。
炎をかいくぐって、奇跡的に脱出。
そのかわり、全身はもちろん
顔は骸骨が見えるくらいの大火傷を負い、仮面生活を余儀なくさせられました。

五郎には、憎いという言葉ではとても足りないくらい深い恨みを負わされています。

有明男爵の孤児となった友之助を育てあげます。

因縁は続きます。

大曽根五郎は京子夫人との間に竜次を設けてました。
有明邸に火を放った彼は竜次と共に姿をくらましました。
彼は友之助の弟に当たります。

成人した友之助と竜次は、お台場の飛行場でパイロットとして、競争します。
競技終了後、お互いの技術を褒めたたえ合いました。

この時はまだ血を分けた兄弟だと知らずにいます。
しかも世間を欺くために2人とも、有村、大野木といったニセの名前で生活を送ってきました。
 
2人はお互い夢を語り合います。
友之助は正義の騎士となること、
竜次は悪魔の化身となることです。

しばらくして、
友之助の恋人の星野真弓の父の従兄弟にあたる辻堂老人に化けたニセものが、
現れました。

父の財産目当てに悪巧みをしてるようです。
友之助は星野に化けて、
ニセ辻堂に騙されたフリをして山に出かけました。

ニセモノ同士、お互い正体を現して決闘します。
戦闘では友之助が勝ったのですが、
最終勝利は竜次でした。

養父の久留須が、そのニセ辻堂老人・大曽根竜次こそ、宿敵・大曽根五郎の息子だと指摘します。
大曽根五郎は友之助にとっても父の仇で、
自分を池に投げ込んだ男でもあります。

竜次のことは同じハンモックで遊んだ幼い弟としての記憶がありました。

その後、また別の凶悪事件を竜次が引き起こし、
クルスは待ち伏せします。

そして、ついに竜次捕獲に成功。
積年の恩讐を述べます。

仮面を床に叩きつけ、
骸骨顔を、竜次に見せるのです。

「この顔を見ろ、貴様の親父に焼かれたこの顔を!  」

さすがの悪人も顔をそむけます。

この辺りがピークですね。

結局、この時もうまく逃げてしまいます。

竜次は、オウム真理教みたいな反社会的な施設を、東京のどことも知れぬ地下に築きます。

星野が持つ伊賀屋の莫大な埋蔵金を手に入れたからこそできたことです。

ハッキリ言えば、
このわけのわからない竜次のユートピアはどうでもいいです。
どうせ、成功するわけはないので先が見えています。

それよりも、2人の異父兄弟による因縁の対決のほうが面白いです。

八つ裂きにしても飽き足りないと、友之助サイドは述べてますが、
大曽根の悪が巨大になり過ぎて、個人感情で動くことが許されなくなりました。

結局、なんだかんだ友之助は血を分けた弟を
殺すことはできなかったと思います。

それは向こうにとっても同じで、

用済みになった辻堂老人、星野清五郎、真弓の命を
奪うようなことはしませんでした。

私個人として気になったのが、
片腕クラスのポン引き男のその後の活躍が見れなかったこと、
大曽根五郎は、竜次が成人した時にはもう死んでたこと、ですね。

大曽根の死因は不明で、
説明が一切ありません。
有明邸を去って以来、消息が語られることはありませんでした。

竜次のセリフ「地下に眠るお父さん、喜んでください。
僕は偉大なる夢をついに手に入れました」

だけです。

彼は息子にどのような教育を施したのでしょう。

読者も大曽根五郎の再登場を期待したのに残念でした。

本当に謎めいた悪人でした。