こんばんは。

稲葉の白兎です。

江戸川乱歩の数ある作品中でも
珍品・名品の部類「大暗室」。

少年シリーズにも登場し、
なぜか怪人二十面相=大曽根五郎
となってたり。

少年シリーズ版はめちゃくちゃなストーリーになっているので無視した方が身のためです。
そもそも、この極悪非道な悪人物語を少年シリーズに組み込んだ事に無理があります。

普通の「大暗室」は、悪人ユートピアの長編。

主人公・大曽根五郎は親友を射殺し、
その後親友の奥さんと結婚し、
都合が悪くなって奥さんを焼き殺しました。

義理の息子を池に投げ込みました。

親友の忠実な使用人・久留須を2度にわたる射殺未遂と焼殺未遂。

その後、大曽根五郎とその息子はどうなったか?

いきなり場面は変わります。


夜道をトボトボ歩く白髪の小柄な老人。

老人は高利貸しで、さっき何百万かのお金を回収してきたばかり。

そこへ男が話しかけてきます。

「もしもし、辻堂の旦那」

ギョッとして振り返る辻堂老人。
見たこともない若い背の低い男。

「何だね、君は。いきなり馴れ馴れしい」
「旦那にいい話があるんです」
「そういう話は間に合ってるから」
「旦那なら興味を持ちますよ。あっしは殺人事務所の勧誘員なんです」

((((;゚Д゚)))))))

一瞬、歩みを止める辻堂老人。

「ほら、心が動いたでしょう?」
「いやいや、いきなり殺人とか言うから驚くじゃないか。」
「まあね。でも嘘じゃない。この東京のどこかに殺人事務所はある。
あんたは高利貸しの辻堂さんだろう?
有名だよ。善人からお金をむしり取って稼いでるそうだね」
「こら、人聞きの悪いこと言うな。失礼な。
そっちこそ名乗らないか」
「名乗るほどのもんじゃございやせん。
ただ、旦那ならウチの事務所に興味を持つと思ってね」


「話は聞かないでもないが。
所長はどんな人?人殺しをするくらいだから怖い人なんだろうね」
「所長はとても頭のいい人で、あっしは長年大将に仕えてるけど、大将より頭のいい人間を知りません。これぞ、と見込んだ人以外には持ちかけないんです。でも仕事は確実です」

「お前を交番に突き出したらどうする?」
「そんときゃ、旦那がつまらない顔してたから面白い話を聞かせてやったと言います。
お巡りだってこんな話は真に受けませんぜ」

だんだん、男の話に乗ってくる辻堂老人。

「定めし、利用者も多いんだろうね」
「ところがそんな度胸のある人は少なくてね。
最初のうちはまるで依頼人がなかったって言います。
でも最近はウチのやり口がわかってきたと見えてボチボチ依頼人も増えてきました」
「料金はさぞかし高いんだろうね」
「仕事が仕事だからね。さすがに100万や200万ってわけにはいかないよ。
だがそれもケースバイケースだね。
そして規定の料金以外は一切請求しなのがうちの大将の方針なんです」
「ふうん」
「どうですか、今夜さっそく社長に会ってみませんか」

「いやいや、ちょっと面白いそうだなと思っただけだ」

「照れ隠しはおよしなさい。顔に頼みたいと書いてありますぜ」
「え、いや、ワシはその‥」
「善は急げと言うじゃありませんか。いるんでしょ、殺したい人が」

男が合図するとどこからか車がサッとやってきます。
こうして、辻堂老人は男の言うなりになって夜の冒険へと繰り出します。

私的には、この二人の掛け合いが非常に面白かったです。ポン引き男がいい味を出してるのです。

殺人事務所は、別作品「影男」にも出てきました。

所長の須原正はカミソリのようにキレる男でした。影男をメンバーに加えました。
運営方法はだいたい須原のところと同じですが、
気になるのが、所長です。

なにやらカリスマ性を感じます。

辻堂老人は車に乗るとき、ルールということで目隠しをされます。
事務所の場所は絶対に秘密だそうです。

そしてあっちをグルグルこっちをグルグルと、
人気のない街道をあちこち回ります。

一抹の不安をおぼえる辻堂老人。
いささか後悔も感じています。

辻堂老人は所長にどんな依頼をするのでしょうか?
また、所長とはどんな人物なのでしょうか?