こんばんは。

稲葉の白兎です。

昨日のブログに、乱歩の少年版本格シリーズのタイトルを紹介しました。

魔術師
一寸法師
暗黒星
地獄の仮面
緑衣の鬼
死の十字路
‥等。

さて、「大暗室」という、
なんとも中途半端なタイトルの作品があります。
同じ三文字の「暗黒星」と間違えそうですが、

中身は全然違います。

というか、なぜか「大暗室」は
二十面相シリーズになってます。

それは明らかな間違いです。

なぜなら、大人版「大暗室」には二十面相は出てこないし、
冒頭に殺人が出てくるからです。

二十面相シリーズは、基本、殺人は出てきません。

なのに、大暗室の悪者はなぜか二十面相にさせられています。
とんだ濡れ衣です。

私は大暗室が妙に好きです。

実は一番好き?かもです。

知名度はかなり低いし、
評価も低いです。

本格推理小説というより、
冒険物という、非常に中途半端なジャンルです。

だからこそ二十面相のほうに組み込まれてしまったし、世間の評価も高くありません。

ですが、いくつかのエピソードと、キャラ立ちの点から、稲葉の白兎の隠れお気に入りなのです。


まず、その異様なプロローグを紹介しましょう。

見渡す限り一面の海。

そこに3人の男性を乗せたボートが漂流しています。

彼ら3人は海の上で遭難し、
一週間もの間、飲まず食わず。

どうですか、この異常なシチュエーション。

3人の内訳は、有明男爵。
その親友大曽根。
男爵の召使い久留須(くるす)

3人とも歳の頃は三十歳ほど。

冒険家・有明男爵は、外国へ船で出かけ、
船が難破し、
かろうじてボートに乗ることができました。

炎天下の海上。
来る日も来る日も海ばかり。

着の身着のままにしがみついたボートですから、食べ物も飲み物もなし。

3人は確実にバテてきました。
有明男爵は死を覚悟します。

大曽根「毎日毎日、海ばーっかり」
有明男爵「今日で何日目だ?」

執事「旦那様、もうちょっとの辛抱です」

男爵「苦しいー。僕はもうダメだ。多分死ぬ。
大曽根くん、君がもし生きて帰ったら、
わが妻と結婚してくれ」

大曽根「バカな事言うな。まだ君は死なん」

男爵「僕が死んだら妻は一人ぼっち。とても死に切れないから、この場で約束してくれ。君が妻を好きなことは知ってる、隠さなくてもいい」

大曽根「昔の話だ。でも、それが君の気休めになるなら承知したよ」

男爵はこの場で紙に結婚、財産うんぬんの証書を書く。

そして、一晩経つ。

朝早く、執事は望遠鏡を見て叫ぶ。

「島だーーーっ」🌴

大曽根は双眼鏡を奪って確かめる。
陸地が見えてます。

大曽根「助かったー」

ここから大曽根五郎のモノローグが始まります。

( 待てよ。助かるということは、全員助かるということ。あいつの病気も持ち直したようだ。
すると、例の遺言状はフイになる。奥さんと財産は手に入らない。これはマズイ)


大曽根五郎は小型のピストルを取り出します。
ニヤニヤします。

執事「あれ?  また魚を撃つんですか?」

嫌な予感の執事。

大曽根は、拳銃を執事に照準を合わせます。
発砲します。
執事はボートからボチャンと落ちてしまいます。

男爵「大曽根くん、気でも狂ったのか⁈」

大曽根「いやあ、この通り正気だよ。貴様が生きて帰っては都合が悪いのだ。
大丈夫、君の奥さんは僕がちゃーんと面倒みるからね。安心して死ぬがいい」

男爵「悪人、悪人」

大曽根「俺が女を取られて平気でいると思ったら大間違いだ。悔しくて毎晩眠れなかったよ」

どうやら、彼らは昔、三角関係だったようで、
男爵の奥さんは最終的に有明男爵を選んだのです。
それをいまだ根に持ってたようです。

有明男爵の胸には時ならぬ真紅の花が咲きました。

いかがですか?

こうして、大暗室のストーリーは幕を開けるのです。

私は、この悪人・大曽根五郎に妙に惹かれてしまいました。

実に松本清張的な匂いがしませんか?(笑)

緊急事態とはいえ、
遺言を書いた有明男爵も不用意過ぎたかなと。

嫉妬の炎を燃やしてる親友の心情を
正しく理解していなかったようです。

島に上陸し、九死に一生を経て東京に帰った大曽根は、遺言をたてにやりたい放題。

この海の遭難、
海上の殺人という驚きのプロローグに
私めはノックダウンであります。

面白すぎ。

大曽根の変身、潔さは、
不快ではありませんでした

この続きも決して退屈ではありません。

更なる驚きが用意されてました。