こんばんは。
稲葉の白兎です。
珍妙なブログタイトルが続いております。
82の中の88
もちろん高木彬光の傑作、
「能面殺人事件」の続きです。
この暗号みたいな文章は、
本作の後半の目次タイトルです。
これは、実は、ダイイングメッセージです。
「亀田はどうしてますか?」が
松本清張の代表作「砂の器」の被害者と加害者を結びつける唯一の手がかりとなった、
有名過ぎるダイイングメッセージと同じように、
「82の中の88」は、重要登場人物の文字通りの
ダイイングメッセージ。
息を引き取る間際、病院でこうつぶやいて死にます。
「82の中の88、82の中の88。ポーシャ‥」
最初に目次を見た時、88の中の82の間違いでは?
と思いました。
算数の約数がまず浮かんだのです。
82の中に88は、どう考えても含まれない。
何かのとんちクイズか?
「ポーシャ」は、シェイクスピアのベニスの商人に出てくるヒロインの名前です。
このヒントで一気に何だか当てられる人は、
相当にカンがいいですね。
ポーシャは、無視して構いません。
「ベニスの商人」の第2部、ポーシャの花婿選びを知っている人は、少ないので。
とにかく、これは、「Yの悲劇」によく似ています。
舞台は、三浦海岸に立地するC家の別荘。
典型的なお屋敷モノです。
しかも旧家で資産家で、当主が化学者というところまで一致しています。
しかも、その化学者は、物語が始まる時点で、
すでに死亡しているというところまで同じです。
屋敷には、書生がいて、
実験室を使ってズルチンやサッカリンを製造して、それが家賃がわりみたいな。
化学者→実験室→化学薬品
この3つはセットですね。
そして、お約束の、ろくでもない人間の集まり。
身体障害者の代わりに、精神障害者が出てくる、
家族のカルテを持った主治医が出てくる
中学生くらいの子供が家族に含まれている。
最後は、容疑者が毒殺されて一件落着。
他殺だから、一件落着ではないけど、
公式ピリオドは打たれます。
これらがYの悲劇の共通点。
よう似とるワイ。
派手な小道具満載。
とにかく、全てが派手。
こういうの、好きです。
清張の「Dの複合」「砂の器」が退屈に映るのも道理 (笑)。
葬儀屋にかかってきたC家からの電話。
3つの棺の注文。
こんなタチの悪いイタズラ電話をするのは、
犯人以外考えられません。
死体のそばには、
「第一の犠牲者」と書かれた紙、
般若のお面、ジャスミンの香り。
ちなみに死体には外傷がない、死因不明。
2番目の殺人は、
「第2の犠牲者」と書かれた紙、紅葉の一枝🍁。
ジャスミンの香り。
これも外傷なしの死因不明。
3番目の殺人は、
翌朝、発見されます。
「第3の犠牲者」と書かれた紙、
鱗模様の打ち掛けが布団の上に置かれ、
またもやジャスミンの香り、
心臓麻痺ということしかわからない死亡。
そう、3つの殺人は
どれも外傷なし。
そして、死体から立ちのぼるジャスミンの香気。
カッパノベルスの表紙は、
一番上が虹🌈
虹の中にジャスミン(英字)の文字
その下が大きな般若の能面。
虹もジャスミンも小さ過ぎて、
能面しか当時はわかりませんでした。
さて、虹です。
これは単なるデザインではありません。
だって、普通、表紙絵に
「JASMINE」なんて描きますか?
ということは、虹にも意味が‥。
虹‥これは、この作品を語る上で欠かせない伏線。
虹は自然現象で、故意には起こせませんが、
C家で、ある晩、般若の面を被った人物が窓から顔を出した事件がありました。
その事件のあった日の昼間に夕立があり、
二重の虹が出ました。
多分、それで表紙に虹のデザイン🌈があるのです。
般若の面に怯えた現当主が、
主人公の書生に
「嫌な予感がする。誰か私立探偵の知り合いはいないかね?」と依頼します。
タイトルは「幻の虹」でもよかったですね。
能面は小道具に過ぎませんが、
二重の虹は、本編の骨幹を成す象徴なのです。