こんばんは。

ミステリ本の案内人・稲葉の白兎です。

昨日、
元ホテルマンの社会派推理作家・森村誠一氏の
「静かなる発狂」という短編作品を、
紹介しました。

サラリーマン時代の恨みを、小説を書くという作業で、昇華させた同氏。

御三家のホテルマンなら、悪くないと思いますが、とにかく、自分の性格に、
まるで合ってなかったそう。

てな事をブログに書いたら、
大河ドラマ「西郷どん」と
リンクしてることに気がつきました。

森村氏が勤めていたのは、赤坂にある
ホテルニューオオタニ。

一方、西郷隆盛の盟友・大久保利通が暗殺された場所は、
赤坂の紀尾井町。
ホテルニューオオタニの立地している場所ですね。
しかも、先週のサブタイトルである
「江戸のヒー様」は、
徳川御三卿の水戸の一ツ橋慶喜のこと。
後の最後の将軍になる人です。

赤坂の紀尾井町の語源の
紀は、徳川御三家の紀伊の紀、
尾は尾張、
井は伊井

彦根藩の大老・井伊直弼のいた伊井家は、
御三家に匹敵する家柄でした。

「江戸のヒー様」の回は、
一ツ橋慶喜と、井伊直弼が初登場。

その紀尾井町にあるニューオオタニのホテルマンを10年勤めた森村氏。

作家として初の作品は、
「サラリーマン悪徳セミナー」。

他に
不良社員群
愛社精神殺人事件
企業特訓殺人事件
出向エリート自殺事件
社奴、社鬼‥

どんだけ会社時代を恨んでるですか、的な作品タイトルのラインナップ。

それでは昨日紹介した
「静かなる発狂」の後半をどうぞ。

主人公Aには、
優秀でありながら小中高大学時代と
絶対に勝つことができなかったライバル、Bがいて、
2人はとうとう同じ一流会社の入社試験を受けますが、

Aは筆記試験をパスしたのに、
Bは落ちるという不思議な結果になりました。


そのままC会社に入社したA。
ショックで自殺したBのことは気になりましたが
あいつは運がなかったんだと解釈します。

Aは、計算センターという部署に配属されます。
そこにいた上司D。

ある日の昼休み、同僚の女の子との会話が弾みすぎて、
戻る時間が遅くなってしまいました。
しまったと思ったが後の祭り。

それをキッカケにDにネチネチといじめられ
ます。
そして、ついにDに、「員数外社員」と言われてしまいます。

「お前は員数外だ。お前は本来なら我がC社に入ることはできなかったのだ。
コンピュータが誤作動して、
トップ成績のBというお前と同じ大学の男がはじき出されてしまったのだ。
20人定員の合格者の穴埋めが貴様なんだよ。
本来21番目だったんだ。つまり員数外」

可哀想なB。実はトップで合格してたのです。
早まって自殺さえしなければ‥。
Aの方こそ不合格で、Bの代わりの
繰り上げ入社だったのです。

「員数外社員」と罵られたAはその後、
生きる屍と化します。
コンピュータ室にこもるようになります。
そして、ある日、
信じられないことがコンピュータの画面に起こります。
ほどなくしてDは失脚します。

陰で不気味に笑うAの姿がありました。

異色の「社畜もの」として、すごく印象に残った作品でした。

「静かなる発狂」というタイトルが内容とマッチしてよかったです。
ホラー濃度の高い作品。

他に「空洞の怨恨」も、
ネチネチ感ハンパない中編。
子供時代の支配関係が、会社に入っても続くという‥
ちょっとエグいですわ。

何で、こんな発想になるのか、
この人の作品はいつも。(笑)

よっぽど、根深いんですね。
そんなに嫌なら辞めればよかったのに。
でもそれだと、大御所梶山秀之氏と知り合えなかった?