こんばんは。

森村誠一の山岳ものは、短編はもとより、
長編も、とにかくたくさんあります。

「密閉山脈」「南アルプス殺人事件」「分水嶺」「黒い墜落機ファントム」「恐怖の骨格」‥

こと、山岳に限れば、松本清張の前を行っています。山岳部だったのですから、当然ですが。

山のコースや特徴をうまく使ったトリックで、
いくつも書いてます。

「醜い高峰」は、山トリックと言うより、その心理ドラマに重点が置かれています。

冬山のロープウエイが故障し、たまたま乗っていた5人が、生存を賭けて、エゴ剥き出しの珍プレー好プレーを繰り広げるお話というのは、
前回述べたとおりです。

山男のAとB。実業家。神主。職業不明の若い男

予定通り、初登頂めざして、イチ抜けのA

本当はBも行かなくてはならないのですが、実業家に買収されます。

自分だけはとにかく助かりたい実業家。
そのためにBの技術と装備、食糧を買い、
Bが他の2人の面倒を見たり、モノを与えるのを許さない、極端な言動を取ります。

神主と謎の男は、Bに見捨てられた者同士。

自然と、B &実業家  🆚  神主&謎男
という派閥が出来上がります。

我々の視点は、おそらく神主と一緒です。

下界では、常識人として、通っています。

神主としては、不気味だけど、謎男とタッグを組むしか選択肢はないのです。

謎の若い男は身元不明ですが、
1人出て行くAを見送る時、Bに、できるだけAさんに装備を持たせてあげて、と発言。

5人中、どうやら一番落ち着いているようです。

再開見込みのないロープウエイの中にいても、
死のリスクが高まるばかりと判断し、下山することにします。

派閥は一層、露骨になります。

そんな中、4人は、墜落機に出会い、瀕死の女性を発見。
実業家チームは見向きもしません。
置き去り、モンクある?

謎男だけ、女性の救出を積極的に試みました。

神主はそれを手伝いました。
成り行き上、謎男に賭けるしかありません。

荷物を背負ったことで、当然、神主グループの危険リスクは高まります。

私たち読者としては、実業家グループが遭難してひどい目にあえばいいと思いますが、
そこは、ブラック文学ですから、水戸黄門みたいなわけにはいかないのがつらいところ。

私が登場人物中、もっともイヤだな、と思ったのが、実は神主でした。
悪いのはもちろん、実業家たちです。

君子豹変するわけですよ。
元々君子でもない、平凡なオジさんです。
豹変というか、本音が露出しただけです。
なんか、見たくないものを見た感じです。

謎男の女性に対する必死の献身を、
最後はバカにするのです。

「あんた、バカですか?(嘘)」

巻き添えを食いたくないと思ったんでしょうね。

で、Bたちの跡を追います。
当然ですが、彼らは神主など、眼中になし。

「来たかったら、来ればぁ(嘘)」


謎男のヒューマニズムは雪と共にかき消され、

数ある山岳短編の中でも、ホント、ヤな話として印象に残ってます。
でも、テンポよく読めます。

「母さん、Aさんは初登頂できたのですか?」