こんにちは。

松本清張と真逆の江戸川乱歩の世界へようこそ。

乱歩の作品世界は、公約数が多いです。

その1つが、昨日から言っている「美青年」。

他にも、「変装」「浮浪者」「書生」「麻布の洋館」「暗号」「見世物小屋」‥‥‥

美青年はよく登場します。
理由は?
物語の内容に直結、つまり、ある程度必要だから。
例えば、同性愛が出てくるとか。

で、「影男」という長編小説は、主人公が影男で、自分でそう名乗っています。
それは、影男が、ゆすりをメインに活動している犯罪者だからです。

影男は美青年か?

見た目の描写が、彼の客観的描写が少なくて、
美青年かどうかは不明。

私の勝手な推定では、年齢30くらい。
顔の偏差値は中の上。
背格好は、中肉中背。
むしろ、やや小男の可能性あり。
なぜなら、長身の人物だと、彼が得意とする変装に不利になるから。
低いぶんには、特殊な靴でいくらでも伸ばせますが、高いものを低くはできません。また、女性に化けられません。
影男はある仕事で、女性の会員になりすまし、秘密クラブに潜り込んでいます。

影男の生業はゆすり。
誰かの秘密を独自のアイディアで嗅ぎつけ、スマートに金品を要求。
冒頭で、地位も名誉も有している、ある社長がSMクラブに通ってる秘密を嗅ぎつけ、証拠を提示し、脅しにかかります。
それは、偶然見つけた秘密ではなく、アタマを使い、網を張って、辛抱強く、確実に、手に入れたのです。

そのために、いくつもの肩書き、名前を有しています。

ですが、影男は、ただの銭ゲバではありません。
不幸な少女を助けたり、義賊めいた部分も持っています。
ちゃんと美人の恋人もいます。
同性愛者ではなく、人間的にはノーマルな、ビジネスマンです。

器用で痛快な人物です。
なにしろ、自分の犯罪を「佐川春泥」というペンネームで小説にして、作家として活動もしているのです。
もちろん、犯罪は架空の話にしています。

すごいでしょう、影男。

この小説の前半は、影男の面目躍如。

ところが、ところが


影男の器用貧乏が災いしたのか(笑)、
中盤と後半に、強烈なキャラクターの持ち主が
2人も現れて、影男の存在が薄くなる、つまり、食われてしまうのですね。

むろん、最後まで主役は主役なのですが、
途中から現われた、犯罪者の強烈な個性の前に、
影男は、ちょっと頭がいい程度の凡人になってしまった感があります。

人気少女マンガ「エロイカより愛をこめて」の主役が、伯爵から、強烈な個性のNATOの軍人に奪われた、というたとえは、わかりますか?(笑)

あるいは、
「悪貨は良貨を駆逐する」

影男は、犯罪者としては、優しすぎました。

なにしろ、影男の前に現われた好敵手は、
「殺人事務所」を経営している社長なのです。
名前は、須原 正。
推定年齢‥40代

殺人と恐喝では、犯罪の規模が違います。