騙す奴が悪いのか、騙される人が悪いのか、
清張さんは、そう我々に問いかける作品を
数多く手がけて遺しております。

こないだ紹介した「黒い画集」中、最初に収められている「遭難」
の被害者は、犯人の黒い意思のもと、故意に遭難させられて、命を落としました。

テレビでやることは少ないので、あまり知られていませんが、清張氏は、歴史小説、時代小説の名手であります。
目の付けどころが、非常に面白いです。
視点が面白い。
特に歴史上の人物の人物評価ですね。

日本史上、空前の会議と言えば、織田信長亡き後の後継者を決める清洲会議がありますが、三谷幸喜が去年か一昨年か、その清洲会議の映画を作りました。
で、三谷幸喜と松本清張の二人が、共通して、好き、気になる戦国武将がいます。
三谷幸喜氏はこの人物が好きで、「清洲会議」という映画でもお気に入りの俳優、小日向文世をその武将の配役に抜擢しています。
かたや、松本清張氏もその武将が気になると、別の歴史短編で述べています。
そして、この人物は、あの魔王・織田信長にも気に入られていたフシがあるのです。
それは、自軍の武将を紹介するこの狂歌から推察できます。

もめん 藤吉
米五郎ざ
かかれ柴田に
退き 佐久間

藤吉は木下藤吉郎、のちの豊臣秀吉のこと。
五郎左(ごろざ)は丹羽長秀。
柴田は柴田勝家。勇猛な武将でした。
佐久間は佐久間信盛のこと。
退き(のき)はつまり、しんがりをやらせると上手だったということ。

さて、問題は「米」。
コメに例えられた丹羽長秀。
米というのは欠かせない大事なモノという以外に
何にでも合う、濃くない、といった意味もあります。これはある意味、最大の褒め言葉とも言えます。

秀吉は、出世をして、木下藤吉郎から羽柴秀吉に名前を変えました。
羽柴の羽の字は丹羽長秀から、柴の字は柴田勝家からそれぞれもらいました。
柴田と丹羽は、織田軍団の当時の二大宿将でした。
ヒトたらしの秀吉は、この2人に、媚びへつらうために名前から1字ずつ取ったと言われてます。
いかにも秀吉らしいエピソードです。
秀吉が出世するに従い、柴田勝家はあからさまに嫌い出してきます。

では長秀はどうだったのか?
秀吉の事をどう見ていたのか?
その視点を元に「腹中の敵」という短編が書かれました。
主人公は丹羽長秀。
目立たない長秀に目を向けるとは、清張センセはタダモノではございませんʕ⁎̯͡⁎ʔ༄

清洲会議で一気に織田家中トップに躍り出た秀吉でしたが、それは丹羽長秀のアシストが大いに効いたからなのです。