「遭難」はすごい!

短編集「黒い画集」のトップバッター、「遭難」がすごいんです。

そうなんですか?

そうなんですよ。いや〜、黒い画集には映画になった「天城越え」(石川さゆりじゃないですよ)
を始め、わりとわかりやすい話が収録されているので、初心者にオススメです。なにしろ短編集ですからね。

で、「遭難」がね〜、もう傑作なんですね。
何回読み直したかわかりません。
最初の清張経験が、この遭難。
インパクト強過ぎて、他のつづきの作品を読まなくてもいいや、と思ったくらいです。

昨日、話題にした森村誠一、この人、硬派の山岳部出身で、当然、初期の作品に山岳ミステリーが沢山あり、こっちの方がその点に関しては大家なんですが、松本清張の「遭難」はどこでどう取材したかわかりませんが、彼の山岳ミステリーに十分匹敵する出来映え。
むしろ、「遭難」のせいで森村の山岳ミステリーに慧眼したくらい。

どこまでネタバレしたらよいのやら、「遭難」はエライ作品です。舞台を考えると、映像化はされてないでしょうし、今後もされなさそう。
そんなことはどうでもよくて、この話のいいところは、登山が出てくるところ。
当たり前でしょ。
舞台は鹿島槍。山に登る人は同じ会社のメンバー3人。
Aさんは山のベテランで上司。Bさんは中級者で部下。Cさんは一番若く、山も初級者。
で、Aさんのリーダーシップの元、3人は山登りに出かけ、遭難し、なぜかBさんだけが死体となって帰ってきます。
死んだのはCさんでなくてBさん。そこがミソ。
中級者なのに。初級者のCさんは無事。
Aさんは、Cさんに合わせ、無理のない登山計画を立てます。寝台車の指定切符まで用意して、登山以外の事で体力を消耗しないよう、気を使っているのです。
Bさんは、始終、疲れたを連発して、A氏は気遣って、休憩もよく取ります。なのにますますBさんの様子は疲れを増し、A氏の引き返そうという提案にも頑固に反対し、運悪く3人は道に迷って遭難して、Bは一歩も歩けなくなってるという疲労ぶり。そしてA氏が救援を呼びに行ってる間、Bだけが発狂して服を脱いで凍死するのです。
奇跡的に無事だったCさんは、それを手記にして山岳雑誌に発表。
そのCの手記で前半が構成されています。
問題は、Bの異様な疲れ方。新人のCより疲れているのです。
どうです?  面白いと思いませんか?

Bさんは死ぬべくして死んだのです。
私は去年、100キロウォークなるものに参加し、色々と学んだのでありますが、登山と非常に似ています。マラソンとは似ていません。
なるほどな、と思いました。
それは休憩の取り方。
登山のコツと長距離ウォーキングのコツは似ているんです。