「西郷札」でデビューした松本清張、やっぱり出世作は、「点と線」だと思うのです。

アリバイ作りのための、下り「あさかぜ」13番線のホームのトリックも画期的かもしれませんが、この小説のキモは、やはり社会派らしい動機と背景ですね。

中年になってから読むと、すんなりくるのです。
肉太の作品だとわかる。
子供の時は、犯人ぽい人、最初から出て来て、というか、わかって、感じ悪ッ!
howよりwhoのほうが面白いのに。
でも、そのリスクは、社会派には関係ない。
まだまだ剥がすべき皮は残っていたのです。

最後にゾッとする仕掛けも、用意されていて、この底意地の悪さこそ、清張文学の真骨頂だと言えます。
古典の本格物の犯人だと、バレると最後は自殺して、メデタシメデタシ‥ではないけど、死ぬのが普通になってました。社会派は捕まらない、巨悪は後ろで嘲笑っている。

何年か前テレビ化され、ビートたけしが主人公の刑事役になった「点と線」のDVD見ました。📀

なんと、チョイ役で、あの市原悦子も出てました。家政婦ではありませんが。
心中と見せかけるためだけに利用された女給のお時の母か養母の役でした。彼女は鳥飼刑事であるビートたけしに言います。かわいそうなお時の無念を晴らしてくれと。
汚職隠蔽の役人に柳葉敏郎。

ビートたけしさん、演技が上手いのか下手なのか、この役ではわかりません。ずいぶんモサモサしてるなあ、という感じ。前に松本清張の「黒い福音」でも刑事の役をやりましたが、何を言っているのか、聴き取りにくかったです。

鳥飼刑事は、博多の海岸で打ち上げられた二人の男女の死体の様子に不自然なものを感じて、柳葉敏郎を追求します。

こういう昔ふうの刑事さんは、もういないんですよね。
「刑事のカン」なんて言ってたら出世できない。
チャチャっと「心中だね、こりゃ」で終了すれば楽チンです。はい、一件落着。
この鳥飼刑事がいたら、部下がメイワク、上司がメイワク、奥さんもメイワク‥
確か、刑事の娘が出てきたなぁ。そんな熱血漢のお父さんを尊敬してたような‥。

死んだお時の無念が、市原悦子の叫びがこだまして、彼の刑事の魂を呼び覚ますのです。

清張さんて、私と同じく空想旅行が好きなんだなぁ、と共感できます。でなかったら、あんなに沢山、全国の様々なスポットが出てくるわけがないと思うのです。

清張さんは、若い時、ビンボーで青春の楽しみがなかったとか。こういう人は、机上旅行する可能性大(笑)。