霧の旗と砂漠の塩は、同じ一冊の本に収められています。
先ごろって言っていいのか、山口百恵の「霧の旗」以降、また何度か映像化され、桐子さんが活躍したようです。
広末涼子。堀北真希。
どっちの相手役かは忘れたけど、大塚弁護士を、あの市川海老蔵が演じたとか聞きました。原作では50代なんですがね。
若い時に読んだ時は、この復讐って、どうなのかな。コワすぎくないか?  
立場の逆転が、見ている人にはスカッとくるのかな‥映像的にもヒロインの変貌ぶりが面白いのかな、とややアンチ的に桐子を解釈していて、このブログを書くにあたり、もう一度初心に戻って読むことになったのです。
  そしたら、桐子のキャラのブレのなさに感心しました。
  よっ、1人大石内蔵助!  1人ジャンヌダルク!

  ところが、この後の作品の泰子ちゃんときたら‥

  おそらく20代後半と思われる人妻、野木泰子が主人公。この人は、最初に「死の匂い」を漂わせて登場します。
桐子と真逆。
桐子ら兄妹は、貧乏でバカ正直で、それゆえ兄は強盗殺人の汚名を着たまま、獄死したのに対し、泰子は初めから何もかも持っているのです。
   仲のよさそうな別世帯の母親がいて、真面目な夫がいて、それもおそらく中流以上の家庭と思われます。
  だってひとり67万円の豪華旅行にヘーキで出かけるんですからね。当時の物価を考えると、気軽に参加できる海外ツアーではないはずです。
   なんか、この人、経済観念乏しそう。半径3メートル以内のことしか興味なさそう。とにかく、人生の辛酸とか苦労とかに境遇してなさそうで、なのに変に頑固、こだわりがあって‥
‥こだわり。この豪華パック旅行計画も含め、なぜそれなの?  ほかにやり方はないのか?
パック旅行、ほぼ参加していないじゃん。
そもそも何がしたいわけ?
  
読まれたかたなら、泰子への評価はほぼ皆さんと一致していると思うので、敢えて、言いませんが‥「ありえへん人」

で、ツアーに参加早々、パリで会いたい人がいるからと途中下車ならぬ途中下空します。
どうでもいいけど、勿体ないの連続です。
親切すぎる添乗員が、残金をバックしたり、アテネかカイロでまたツアーに合流しようとの提案にも眼中になし。エールフランス🇫🇷に乗っていることも、このヒトにはどうでもよくて、ああ勿体ない(笑)。
最初から「不毛」「絶望」「あきらめ」のヒトなのです。
途中、エジプトのカイロでアラビア語を学んでいる日本人留学生ガイドが泰子らにコーヒー占いの話をし、やってみせます。底のコーヒーのドロドロした沈澱カスをひっくり返して、その模様で占うというのです。法則はなく、各自のルールがあり、生活に希望がないため、それで慰めているとか。
「農民の生活は諦めを宗教にしないと1日も生きられない。
占いが凶と出ても、インシャー・アッラー、神の思召しと諦める。」
カイロは貧富の差が激しく中間がないと言いました。
このガイドがした話が泰子の人生そのもののようです。
   彼女は「生きている幽霊」なのです。
柳田桐子は、最大限、自分がやれることをやってました。立場は弱いけど、強い人なんでしようね。
   泰子は、育ちが良く、恵まれているのに、ないもの、実体のない過去など、ひたすら、ないものだけに目を向けて いるのです。
   まったく真逆のヒロインです。