「松本清張の犯罪広告」
これって何だと思いますか?

松本清張が犯罪広告を作った?

「松本清張の砂の器」だったらわかりますか?
松本清張の「砂の器」という作品ですよね。

これは、今からの30年以上も前の、「土曜ワイド劇場」という番組でやった予告です。
テレビ朝日か、同番組の「開局〇〇周年記念」と銘打たれております。
「開局〇〇スペシャル松本清張の犯罪広告!」
このナレーションの野太い声が今でも耳に響いてきます。

「犯罪広告」というタイトルがとにかく奇妙すぎるというのが、子供の時に感じた印象です。

松本清張の長編のタイトルなら、巻末の作品紹介で、だいたいわかりますが、犯罪広告なるタイトルは聞いた事がないので、よほどの最新作か、短編だと思いました。
  記念番組に選ばれたほどの作品なのだから、よっぽど傑作に違いなのだろうと。

で、ストーリーですが、

   主人公は、いかにも善良そうな2人の若い兄妹。

ある田舎村の村民のポストに、
「犯罪広告でーす」
と言ってかわら版が投げ込まれます。
  ほぼ全戸に、この「犯罪広告」というタイトルのかわら版が配られるのです。中身は実名を使った告発文書でした。作者も実名をさらしています。書いた人は、その善良そうな兄妹でした。
内容を大まかに言うと、
「私たち兄妹は、苦労したが、ようやく生活が軌道に乗った。
  ただ、気がかりが一つだけある。それは〇〇年前に突如として姿をくらました母だ。
いなくなった日、養父に母の事を聞くと『家を出て行った』とのこと。
  嘘だ。きっと養父が殺して床に埋めたのだ。
養父とは色々確執もあったが、今はどうでもいい。母の死体を床から掘り起こしてちゃんとしたお墓に入れてあげたいのだ。
僕たちが養父に頼んでもおそらく無理だから、こうして犯罪広告を出すことにした。
養父の罪は問わないから、母のなきがらを返してほしい」
    
これでタイトルの謎は解けたものの、すごい事しますよね。
  村人たちは大騒ぎです。養父は村の有力者です。
こんなコトしていいんでしょうか?

その犯罪広告の記事には、兄妹の生い立ちと養父や母との関係の他に、死体が埋められているとされる、床下の位置、そこだと確信できる根拠などが、詳しく、ある意味誠実に書かれ、胸を打たずに置かないものがありました。
  とにかく、床下を掘れ、の一点張りなのです。

この犯罪広告は、狂気の沙汰なんでしょうか?
莫大な印刷費用をかけ、文章も練り上げ、堂々と実名で告発しているのです。おそらく、仮に掘り起こして死体らしきものが出なければ、村にいられなくなるでしょう。
兄妹のうちの妹役は、当時の正統なお嬢様俳優の檀ふみさん。とにかく、誠実を絵に描いたような兄妹でした。

 映像化されなければ、この作品は、読んだだけでは、他の中短編の作品群に埋もれたかもしれません。絶対忘れられないシーンが、クライマックスに登場し、原作を通じて、この作品のキモとなっております。
  衝撃映像とはこのこと。学校で同級生とこのシーンを「すごかったね」と共有したくらいです。