「霧の旗」再読しました。
昨日の予告!では、新たな発見はないだろうと、つれない予告をしましたが、「発見」ありましたよ。大ありです。
私の先入観を先に申しますと、田舎娘の柳田桐子が、殺人事件の容疑者にされた兄のために、高名な弁護士に見さかいなく依頼に来て、断わられ、兄は獄死し、断わった弁護士を破滅させる、ちょっと短絡的だよね〜、というのが大体の感想。
その復讐法も動機も、なんかゾッとするものがありました。
で、読んでみると‥柳田桐子のキャラが立ってると、いきなり引き込まれました。心理描写はまったくないにもかかわらずです。
あと意外なのが、前半の殺人事件の供述調書、公判調書など、調書関係の記録が多かったことです。現場の見取図まであって、この話のキモはそこじゃないのに、伏線にしてもメンドくさい。
そうそう、登場人物にしても、こんなに出てきたっけ? 弁護士の愛人・河野径子は、かなり重要な人物なのに、まるで記憶になかったです。意外と話が長い。最終的に「砂漠の塩」と半々に近い長さでした。短編じゃなく、中編に近い。
さて、桐子の復讐はやり過ぎか?
やり過ぎじゃない!
大塚欽三は、人物的に悪い人ではない。
これは、大塚個人に当てた復讐ではないと見た。
例えるなら、赤穂浪士の討ち入りに近い。社会的弱者が取り得る世間に対する最後の手段。
そのやり方のエゲツなさが、むしろ完璧で良い。
桐子はこうやって自己完結するしかなかったのね。
大塚弁護士、悪い人ではない。だからと言って、落ち度がないかというと、あるんですよ。
最初の依頼の断り方は、この時代となっては、思いやりなさ過ぎなんですよね。部下の対応に引きずられている。
初期対応を誤ったのですわ(笑)。
九州から出てきたひた向きな少女に対して配慮なさ過ぎでしょ。せめて、地元の弁護士に紹介状を書くとか、宿泊先を手配するとか。このなにげない対応の不味さが、潜在的にも大塚氏を苦しめる元凶になったのでは。寝ざめの悪さってやつですね。
まぁ、後半、あまりの偶然や、桐子の運の良さが、トリックとしてどうよ、というフシがなくもない。
昔、山口百恵と三浦友和で映画になりました。友和さんは復讐相手ではないですよ。映画のオーラ強すぎて、タイトルに対して、うっかりしてしまいましたが、霧の旗🚩、めっちゃカッコいいです。ミステリーっぽいし、内容と一致してます。
タイトルだけで、暗い話だってわかりますよね。
結論‥赤穂浪士の1人討ち入り
結果‥再読してよかった
前半は桐子に同情し、後半は欽三に同情するといった単純なものではありませんでした。
桐子は大石蔵之介、兄は浅野内匠頭、弁護士は吉良上野介。喧嘩両成敗が原則なのに、判定が一方的で、浅野側の言い分はまったく通らず、即日切腹。その後もお家断絶。幕府に対して何もできない。じゃあ、ノウノウととがも受けずに暮らしてる吉良さん、憎らしくないですか?
で、討ち入り。、吉良さん、憐れ。
吉良さんも弁護士も標的にされたスケープゴート。社会に問う正義の自己完結。
桐子は残酷でも、魔性でもありません。
言うならば、残酷はあくまでも手段として必要な残酷さだった。
径子は桐子の兄と同じ運命を辿るのでしょうか?