生まれてからずっと身動きもできないくらい狭い暗い場所にいました。
叫び声をあげると叩かれて痛くて悲鳴をあげるとまた叩かれます。
痛くても苦しくても声をあげることを我慢しました。
寒くて寒くてお腹がすいて喉がカラカラで心が痛い毎日
暑くて暑くてお腹が空いて喉がカラカラで心が苦しい毎日
ある時なんだか身体がおかしなと思っていたら赤ちゃんが産まれました。
嬉しくて暖かい気持ちになって大切にしようとしましたが、私の赤ちゃんはすぐにどこかに連れていかれ二度と会えませんでした。
それからも赤ちゃんを産んでは奪われる繰り返し
寒くて寒くてお腹がすいて喉がカラカラで心を閉ざす毎日
暑くて暑くてお腹が空いて喉がカラカラで心をなくした毎日
いつ頃か眼の周りが白くぼやぁとして痛みが走り私の世界は暗闇になりました。
私のいた小屋にはたくさんのNAKAMAが悲鳴をあげていましたがその声も遠く微かにしか聞こえなくなりました。
怖いものは見えなくなりニンゲンの嫌な声も聞こえなくなりました。
どれくらいだか分からない気が遠くなるくらいの長い年月をすごしました。
ある日いつもと違うニンゲンが現れました。
また嫌なことをされるのかと私の身体は強張りましたが、そのニンゲンは私の身体を撫ぜてくれました。
そのニンゲンは私に「これからはジユウだよ」と言いました。
ジユウってなんだろう
クレートに入れられてどこかに運ばれました。
ついた場所にもたくさんの犬や猫がいましたが
今までのような悲鳴をあげる子はいません。
みんな楽しそうにしています。
生まれて初めてお腹いっぱいにご飯を食べました。綺麗で新鮮なお水もたくさんたくさん飲みました。
自分の身体を覆っていたドロドロを暖かいお湯で洗い流してもらいまるで自分の身体ではないくらい軽い気持ちになりました。
柔らかなフワフワの上で「今夜からゆっくりお休み」とまた身体を撫ぜてもらいました。
そのニンゲンは千夏さんと呼ばれていました。
その家にはたくさんのニンゲンがやってきます。
誰も痛いことをしません。
「ぷーばぁさんよく頑張ったね」
みんな私をぷーばぁさんと呼びました。
時々ジョウトカイに連れていかれサークルの中にいる私達をたくさんのニンゲンが見にきました。
痛いことをするニンゲンはいませんが、なんだかよく分からなくていつもサークルの隅でじっと我慢しました。
その日もサークルの隅でじっとしていたら一人の女の人が私を抱っこしました。
男の人も「もう何も心配ないからな」と抱っこしてくれました。
少しだけ暖かい気持ちになったけどよく分からなくて早く千夏さんのお家に帰りたいなぁとぼんやり考えていましたが、
その女の人は私を抱っこしたまま千夏さんと何か話して千夏さんの車ではない車に乗せられました。
どこに行くんだろう。
怖くなりいつもより小さく小さくなってじっとしていました。
新しい場所について「ここがふじこのお家だよ」
その人が言いました。
私にお家ができたのです。
ふじこって名前もつけてくれました。
でも一番嬉しかったのは私に私のお母さんができたことです。
一緒にいたキャバリアの男の子が「あんね俺ラモ兄ちゃんだかんね」とあいさつしてくれました。
ちびっこチワワが「あたししめとだよ。あたしの方がちょびっと先輩だからね」と言いました。
いつも朝4時に起きるとお母さんが
「ふっちゃんまだ早いからもっと寝なさい」と抱っこでまた布団に入れられます。
もう朝なのになぁ、と思いながら暖かい布団の中でまた眠ってしまいます。
このお家に来てから東京とか京都とか神戸とか大阪とか山梨とか栃木とか静岡とか岐阜とかたくさんお出かけました。
何も見えなくてもたくさんの人が可愛くなったね、と言って優しくしてくれるから嬉しくなります。
ある日お母さんが別のお部屋にいるから寂しくてワンって声を出してしまい、
しまったと思いましたが、ふっちゃん声がでるんだ、と喜んでくれました。
鳴いても怒られなかったので
今はたくさんたくさんおしゃべりします。
お母さんはいっつも私をギュッと抱っこして
ふっちゃんは世界で一番可愛いよ。
世界一大好きだよ、って言ってくれます。
でも、しめとちゃんにも世界一可愛いよ。って言っているのも知っています。
私が千夏さんからジユウを貰ってから1年になります。
ジユウって優しくて暖かくて素敵な素晴らしいことだと知りました。
でも時々思います。
一緒にいたNAKAMAはどうしているのかな
わたしの赤ちゃんはどこにいるのかな
みんなジユウなのかな