アパートの部屋で一人、
ひと息つく、平穏。
・・・例えば楽しみにしていた旅行、
その前日に、仕事で嫌なことがあると、
それを引きずって、旅行が台無しになる。
自分はそんな人だった。
旅行を楽しめるかどうかは、
周囲の他人しだいなんだ。
嫌な目に遭えば、台無し。
機嫌良く工作をして遊んでいたら、
母親が乱入してきて作りかけていたのを取り上げ、
壊し、
外へ出て他の子みたいに走り回って遊べと、
私を追い立てた。
部屋で工作なんかしている陰気な子より、
外で日に焼け、どろんこになって、
たくさんの友だちと走り回っている子が、
母の理想だった。
子ども時代の平穏は、
母親の機嫌しだいで、
いつでもぶち壊されて、
自分ではコントロールできなかった。
いつでも気持ちをくじかれる。
無力だ。
いまでも。
・・・
禿鷹のようにあなたのいのちを食い荒らす
憂悶の相手をするのはおやめなさい。
・・・
いかがです、弁舌巧みに
快楽と行為を勧めるじゃありませんか。
心身ともに腐らせる
孤独の境涯を去って
広い世界へお出でなさいと、
奴らはお勧め申しているのです。
『ファウスト』 第一部 書斎より』
そんな悪魔の歌には、
自分は、背を向ける。
孤立するのは、仕方がない。
平穏はいつでも他者にぶち壊されるけど、
今しばし平穏なら、
今の平穏をしっかり目覚めて生きておく。
波風が立って荒れても
風が止めばすぐ平穏に戻るよう、
心の深さを、深く、
掘り下げていきたい。