いちごを助けてくれる人は
誰もいませんでした。

…というか。

いちご。

みんなそうやって
生きているんだ、って
ずっと思っていました。

だって、他の世界を知らないから。

いちごのおかあさん。
自分の気に入らない事があると
いちごを叩きます。

でもおかあさんは言ってました。

叩かれたこと、言う方が
恥ずかしいんだからね。
だって、いちごが悪いことしてるって事でしょ?
それがみんなにわかってしまうから、外では言ったらダメだからね。

って。

悪い事をしている事が
みんなに知られてしまうのは
とっても恥ずかしいから
いちごはいつも内緒にしていました。

いちごのおかあさんは
いつも教えてくれます。

「このアザは、公園で転んだんだよ」
「このやけどは、お料理のお手伝いしてたんだよ」

って。

いちごが小学生になった頃からは
ぐーんとケガが多くなりました。

物で叩かれて
みみず腫れになる事はもちろん。

急に左手で髪の毛を掴まれて
右手で顔を殴られたり、

思わぬタイミングで叩かれて
骨が折れちゃったり、
引っ張られて脱臼したり、

反応が薄いから(何されても微笑むから…)
「これでもそんな顔出来るのか!」

と、やかんや鍋に押し当てられたり
沸きたてのお湯を背中にかけられたり
油の中に指を入れられたり。

でも。

いちごがこうやってされなきゃ
ちっちゃなお兄ちゃんが
同じ事をされちゃう、って思うと
それは嫌でした。

だって。

ちっちゃなお兄ちゃんは
とっても優しいから。

いちごがケガをしたら
ちっちゃなお兄ちゃんは
ごめんね。って言って
薬を塗ってくれたりしたんです。

ごめんね、って。
なんで言うんだろ?って
思ってたけど、
その時は特に何も考えず
ちっちゃなお兄ちゃんが
優しくていい人、に見えました。

でも、いちごのおかあさん。
いちごがケガをしたら
「大丈夫?ごめんね。すぐに病院に行こうね」
って言って
病院に行きます。

その時に病院で先生に
「こうやっててこうなりました」
という説明をおかあさんがします。

それをいちごが聞いていて

そうか。
このケガはこうやってなったんだな!
とインプットされます。

どれもこれも
いちごが悪い子だから
悪い事をしてこうなった。
でも、そうやって言えば
みんなに【悪い子】って
バレなくてすむんだな!

だからおかあさん、
今ここで先生に
こうやって話をしてくれてるんだ!

って。
当時のいちご、真剣に
そう思っていました。

今思えば
何もかも、母親の思惑通り…ですね。

毎日じゃないです。

こんな事は1ヶ月に数回。

何も無くて無事に1日終われる日もあったし、こんな事もあったり。

何年も何年もこうやって
過ごしました。


そして。


ある日突然。

いちごは養子に行きました。

「いちご。よく聞いて。
いちご。ここに居たら殺されちゃう。
だから。別の場所で暮らそう」

って。

ドナドナド~ナ~ド~ナ~

つづく。