見た日 : 2024.7.23.
見た場所 : 東京 TOHOシネマズ日本橋
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 「晩鐘」を書き上げて断筆宣言をした小説家・佐藤愛子。何もする気がせず、2階に住む娘に誘われても外出すらおっくうで、無気力に日々を送っている。
 一方、昔気質の編集者・吉川(きっかわ)は自分では普通にしているつもりの大声や物言いがパワハラ、セクハラと問題にされて閑職に追いやられる。そこの編集長をしている後輩に「何もするな」とまで言われる始末だ。
 そこで若手が諦めかけた案件に吉川が待ったをかける。自分がやると。佐藤にエッセイの連載を頼む仕事だ。
 小洒落た土産は受け取るも依頼は断る佐藤を諦めてあっさり別の人に頼もうとした若手と違い、吉川は昔ながらの和菓子持参で泥臭く頼み込む。断られる。何度足を運んでも首を縦に振らない佐藤に、吉川は一計を案じてOKをもぎ取る。
 初めは何を書けばいいのかと筆が進まなかった佐藤だったが、目の前に転がる日々の不満を歯に衣着せずに綴ったエッセイは大きな評判を呼び…。
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 冒頭で「~歳記念」みたいなテロップが出るのでてっきり佐藤愛子の年齢の話かと思ってよくよく見たら、主演の草笛光子の九十歳記念だと。1933年生まれだ(10月で91歳)。SKD(松竹歌劇団)仕込みか背筋がピンと伸びて現役バリバリ、品があって、全く素晴らしい。
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 エンディングで本物の佐藤愛子の写真が出てくる。部屋の様子が本編にソックリ! 逆か。映画のセットが本物にソックリだった。
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 佐藤愛子の小説は1作も読んだことがない。
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 何十年も前、母が読んでいた雑誌に佐藤愛子がエッセイを連載していた。娘との海外旅行の話だ。その文体はユーモアをたたえて私の語感に合い、ほどよい(?)悪口も楽しく読めたのを覚えている。
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 自分で隠居を決めてもそのせいで気力を失い、仕事を再開することで再び生き生きとしてくる。このパターンは結構世間にあるんじゃなかろうか。若いモンは何かやりたいことを見つけろとか簡単に言うが、新しい趣味がハマって1人で集中できる人ばかりではない。“世間に必要とされている”感、世間からの評価、社会と繋がることが必要な人もいる。様々だ。
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 書籍「九十歳。何がめでたい」は2016年に発刊されたもので、佐藤愛子はその後も著書が出版されている。昨2023年に100歳になったそうだ。実に素晴らしい。