7時半、ロッヂで起床。
ニュースでは温家宝首相が、
「春が来た。氷も雪も溶けた」
とコメントを残して日本を後にしたと伝えているが、
ここには、まだ、たんまり雪が残っている。

朝から青空が広がり、春スキー日和。
だが、馴れない初めてのゲレンデ。
マップが頭に入っておらず、
ロープウェーやリフトの場所など、
所在もわからず右往左往。
そんな時に、
マイミク・柴尾英令さん(BAOHさん)からメール。
「今、新幹線で越後湯沢に向かっています」と。

昨晩、一声かけていたわけだが、
スキー狂で、このゲレンデの経験も豊富なBAOHさん登場は、
我々には、まるでハンソロが援軍に来てくれた様。

身支度に時間がかかり、 9時チェックアウト。
『みつまたロッヂ』で板とブーツをレンタルする。
その間、急に雨が強く振り出し、
一瞬、絶望的な気分になるが、
結局、降雨は、このときのみであった。

外に出て初めて気が付いたが、
『みつまたロッヂ』の目の前が、
このみつまたエリアの入り口、 ロープウエー乗場であった。
昨晩にはわからなかったが、
どれだけ、アクセスの良い宿泊場所か。

01

ロープウエー乗り場でBAOHさんと合流。
BAOHさん、道先案内人となり、
山頂へ向けて、ロープウェー、リフト、ゴンドラ、
を次々と乗り継いでいく。

大型ロープウエイに乗り高速で山を駆け上がると、
そこは春なのに銀景色が広がり、
非日常の世界が訪れる。
なんともたまらない高揚感だ。

斜面を見下ろしながら、此処を滑るのかと思うと、
他に変えがたい快感の予感が押し寄せる。

それにしても、BAOHさん、夜、電話を受けて、
早朝、新幹線に乗り込み、単身、雪山にやってくる、
というのは、なんと軽いフットワークだろう。
BAOHさんが、最もスキーに嵌っていた7~8年前は、
月曜になると、毎週、シーズンで17~8本も、
たった一人で、毎度、新幹線に乗って、
ゲレンデで一日中、ガンガンと滑って日帰りで帰っていたらしい。

"たった一人で"というところが、
実にスキーの悦楽を伝えている。

121人乗りの、全長823メートル
『みつまたロープウエー』到着後、
全長1059メートルの『みつまた第1高速リフト』に乗る。

02

今度は、全長3132メートルの
『かぐらゴンドラ』に乗り換える。

しかし、こんなに長い距離のゴンドラに、
乗ったのは初めてだ。

03

スキーヤーには常識だろうが、
俺たちが、登った神楽=かぐら(みつまた・田代)は、
かの西武王国が築いたMt.Naebaエリア中にあり、
無数のロープウエー、ゴンドラ、リフトが相互に連結しており、
超巨大な迷路の如き、ゲレンデになっている。
今日が、Mt.Naebaエリア・デビューの俺は、
この広大さには打ちのめされた。

04

きっと俺たち3人では迷子になっていただろう。

さらに、リフトとリフトの連絡コース間の移動に、
いくつか、かなり、きつい傾斜もある。

BAOHさんと共に、タケシを抱えて滑ったり、
手を引いたりだが、なかなか要領が掴めない。

おまけにバインディングとの相性が悪く、
何度も板が外れた。

こんな筈じゃないのにと思いつつ、
春スキー独特の重い雪質に馴れないのと、
あばら骨を折ったトラウマがあるせいか、
恐怖感も先立ち、
初めてスキー板をはずして歩いて降りた。

05

1時間かけて、山の中腹にありながら、
その名も「山頂駅」と呼ばれる中継地点に辿り着く。
しかし、ここから、まだまだ上があるのだ。

一度、レストハウスで休憩をとるが、全身汗びっしょり。
BAOHさんと、お茶を飲みながら、四方山話。
ボネガット死去の話やら、
『1976年のアントニオ猪木』の話やら、
最相葉月の『星新一・1001話を作った人』などなど。
本職はゲーム作家だが、
同じ歳でサブカルを精通、守備範囲の広い趣味人、
博覧強記な方なので、
話し込んでいても、あっと言う間の時間が経つ。

流石に、ここまで高所に来れば、
周囲に幼児はいない。
見渡せば、タケシが最年少のようだ。

ここでスズキ秘書とタケシは居残り雪だるま作り。
俺とBAOHさんは、
ゴンドラ下の3キロのロングコース一を滑る。
確かに平坦な緩斜面が多いので、
ここなら、タケシもスズキ秘書も大丈夫そうだ。

再び、ゴンドラで登りつつ、
BAOHさんと、「ニュージーランド」「ラスベガス」「株」話など。

その後、本物の「頂上」を見せてやりたいから、
と、さらに上の頂のポイントを目指すことにする。
帰りもリフトに乗れば良いだろう。
念の為、タケシの安全を考えて、
俺とスズキ秘書はスキーを断念、
ブーツを脱いで長靴に履き替え、
雪道をタケシの両手をとって歩く。
しかし、「かぐら第一高速リフト」の乗り場まで、
傾斜の強い難所が続く。

ようやくリフト前へ着いたのだが、係員から無常にも、
「スキー板を履いてないと、リフトには乗れません」
と断わられる。
スキーを履いていたBAOHさんだけ、さらに上へ登り、
ジャイアントコースに挑戦したが、
我々3人は、そのまま、引き返す。
"八甲田山"の如く、雪に埋もれながら、
子供を抱えて雪道の坂を登るのに、再びヘトヘト。

もはや、これ以上は登れないことを確認後、
再び、ゴンドラコース3キロを下ることに。

安全策ではリフトで降りることも出来たが、
ここまで来たのだ。
折角なので、思い切って、
スキーを履いてゲレンデを下ることに。

さっき、コースは確認していたのだが、
それでも3歳児連れには、とても難しい、
幾つか、スロープのきつい難所がある。

そのたびに、
タケシのスキー板を脱がせたり、
BAOHさんがタケシを抱っこしたり、
BAOHさんが疲れると、
俺がタケシを抱っこをしたり、
スズキ秘書がスキー板を脱いで、
タケシと手を繋いで走ったり、
タケシもスキー板を脱いでブーツで歩いたり、
臨機応変に作戦を変える。

そのたびに、板やストックを、
預けたり、預かったり、入れたり出したり、
一時、スズキ秘書はバツゲームの如く、
背中のリュックにはブーツが、
さらにストックやら板を差し込まれていて、
エヴァンゲリオンの使徒のようないでたちに笑う。

とにかく、4人の共同作業で手を変え品を変え、
作戦を練り、隊列を変え、装備を変え、
ボス(斜面)をクリアーしていかねばならない。
この作業を繰り返しているうちに、
俺たち4人組のパーティは、
経験値を増やし、スキルを上げた。
それは、まるで、ゲームでは体験出来ない、
ロール・プレイング・ゲームそのものであった。

1キロ地点にある、『かぐらラーメン』で
一度、休憩を入れるが、
タケシ以外、全員がグロッキー。
ラーメン、カレー、餃子などでエネルギー補填。
俺とBAOHさんは一杯だけビールを飲んだが、染みたぁ。

そして、また、此処から、2キロ続く長距離のアタックが続いた。
傾斜が緩いところでは、
板をつけたタケシの両手をBAOHさんと握り、
二人で挟んだ"捕まった宇宙人"状態のまま、
スピードが出ない様、ひたすらボーゲンで進む。

06

ずっと引っ張られていただけだったが、
流石にタケシも最後には自分の重心で滑っていた。

難所(スロープ)では、 俺がタケシを抱えて滑る。

3歳の子供の重量を前傾姿勢で抱えながら、
ストックを持たず、ボーゲンで滑るのは、
「転んではならない」と一瞬も気が抜けない。

周囲のスキーヤー、ボーダーに巻き込まれぬよう、
細心の注意も怠れない。

途中、タケシがくじけそうになると、
しばしの時間が停止する。

これは事前に予想した以上に大変な作業、
まるで、山岳救助隊の如きパーティーであり、
とにかく、その距離は果てしなく長かった。

最後のロープウェイ乗場に"無事"辿り着いた時は、
安堵で涙が出そうになった。

平静を装ってはいたが、
もしやと思うと、 ずっと緊張で心臓はバクバクしていた。

いやはや、これは生涯忘れ得ぬ"大冒険"であった。

(いや、これで、もし不慮の事態があれば、
 大人の快楽、親のエゴを子供に付き合わせている、
 「バカ親」の典型的行為であり、
 勿論、俺の、軽率、大人の思慮と判断が無かったと、
 「二度と、こんな無茶はしない」と十分反省もしているのだが……)

ド素人の我々を案内してくださり、
自分のスキーは、ほとんど、やらず、
最後までずっと付き添ってくださった、
BAOHさんには心から大感謝だ。
いつか、この冒険と苦労を分かち合っていただいたのだから、
タケシが滑れるようになったところお見せしたい。

帰還した『みつまたロッヂ』で板を返し、着替え。
オーナーの関さんにご挨拶。

07

お宮の松の紹介であったが、
今回、いろいろ親切にして頂いた。

帰途、温泉、『街道の湯』へ。
緊張を解き放ち、4人で汗を流す。
湯船でも休憩所でも、
一際、テンションが高かったタケシ、
BAOHさんのお腹を指して、
「あけぼのみたい!」は申し訳なかった(笑)

風呂上りに、車に乗り込むと、
流石にタケシがスコンと寝入った。

雪山で一度もスキーブーツを脱がず、
縦横無尽に、あれほど駆け巡ったのだ。
幼児には、考えられない運動量だと思う。

新幹線で帰京のBAOHさんを越後湯沢まで送り、
生鮮市場の土産物屋で刺身と乾物を大量に購入。

まだ陽のある関越自動車道は、
ドライブ気分で快適。
スズキ秘書と今日一日を振り返りながら、
感慨ひとしおの気分。

19時、帰宅。

家飯。
土産のトロ、鯛、えんがわ、ホタルイカの刺身。
アサリの酒蒸し。

今日の冒険を思い返しては、
改めて、"無事"であることが、いとおしくなり、
タケシと抱き合って寝かしつけ。

『夢を見ない男 松坂大輔』(吉井妙子著 新潮社)
を読み始める。

HDDチェック。
『ブロードキャスター』(開票時間短縮競争の話が面白い)

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