こんにちは、舘ぴろしきです。

今回は、最近読んだ小説について紹介しようと思います。それがコチラ!↓



(横になっちゃった……)

すべての見えない光

作者はアンソニー・ドーアさん。

和訳は藤井光さん。

発行元は、信頼と実績の新潮クレスト・ブックスさんからです。(文庫版はハヤカワepi文庫さんから)


コチラ学校図書館の新着図書コーナーで見かけ、素敵な表紙と装丁に惹かれ手に取りました(ちなみに表紙写真はかのロバート・キャパさんの作品だそう!)。毎度思うんですが私の通ってる学校の図書室は司書さんの選書センスが抜群にいいんですよ。この本だってここの図書室で見かけてなかったら読まなかったかもわからん。ちなみに他に入荷しているものだと『プロジェクト・ヘイルメアリー』『with you   ウィズ・ユー』などがあり。

アァ読みたい本ばかりが溜まっていく……

……え?おまえ受験生だろ本ばっかり読んでないで勉強しろよ、って?

イヤまぁそりゃそうなんですけどね……そりゃわかってはいるんですけどね……みんなが休み時間に単語帳捲ってるあいだ余裕の表情で文庫本読んでますからね私は。模試の第一志望E判定にも関わらずね。アハハ。

…………

………………ゴホン。気を取り直して。

まずは簡単な概要から紹介していきましょうか。

【あらすじ】

舞台は第二次世界大戦下のフランス。盲目の少女、マリー=ロール・ルブランは、パリの自然史博物館で錠前主任を務める父とふたりで、アパルトマンに暮らしていた。好奇心旺盛で本が大好きなマリーは、点字で綴られた小説を読んだり、博物館に勤める貝類学者と交流したりして日々を過ごしている。優しい父が作った精巧な街の模型をもとに、外を出歩けるようになるなど、不自由な生活ながらも毎日が喜びと発見に満ちあふれていた。そんななか、戦争の足音が近づき、ドイツ軍がパリを占領する事態に。マリー=ロールは父とともに、海辺の町サン=マロに疎開する。そこで出会ったのは、第一次世界大戦で兄を喪い心を病んでしまった大叔父エティエンヌや、彼の家に住み込みで働く、明るく強かな家政婦のマネック夫人など、個性豊かな街の人々。最初のうちは慣れない環境に戸惑っていたマリー=ロールだったが、次第に周囲の人々と打ち解けはじめ、ふたたび笑顔を取り戻していく。しかし、戦争の暗い影はサン=マロにも近づいてきていた。ある日、父親が政治犯として捕らえられる。悲しみに暮れるマリー=ロール。だが、さらなる試練が彼女を待ち受けていた。

一方、同年代のドイツ。ナチス政権下の孤児院に生まれ育ったヴェルナー・ペニヒは、真面目で誠実な妹のユッタや、優しく子供想いなエレナ先生といった孤児院の面々と共に毎日を過ごしていた。彼の父親は炭鉱夫として働いていたが、あるとき炭鉱へ行ったきり戻ってこなかった。ヴェルナーも十五歳になればその炭鉱で働くことが決まっている。そんなある日、たまたま炭鉱の近くで拾ったラジオから、ヴェルナーはとある放送を聴く。それは、子供向けの科学番組だった。ユッタと共に、番組に夢中になるヴェルナー。ラジオに興味を持った彼は、ラジオ修理の技術を磨き、科学者を夢見るようになる。そんななか、街に赴任してきたナチス将校のラジオを修理したことを機に、技術者としての腕を買われたヴェルナーは、ヒトラー・ユーゲントへ加入する機会を得る。孤児院を離れ、国家政治教育学校に入学するヴェルナー。そこで、鳥が大好きで内気な少年フレデリックや、巨体で畏れられているが実は心の優しい上級生フォルクハイマーと出会い、親交を深める。しかし、戦争という逃れようのない運命が、彼らの育んだ友情を引き裂く。そしてヴェルナーは、通信兵としてレジスタンスの放送を傍受するべく、占領下のフランスへ送られることに……。

盲目のフランス人少女と、天才的な頭脳を持つドイツ人少年兵。時代という荒波のなか、様々な困難にさらされるふたり。

そして1944年8月。ドイツ占領下のサン=マロへの大空襲をきっかけに、本来出会うはずのなかったふたりの少年少女の運命が奇跡のように交差する───。


ということでですね。

本作品、ピューリッツァー賞やカーネギー賞を受賞したり、バラク・オバマ前大統領の読書リストに入ったり、ニューヨーク・タイムズのベストセラーリストに二百週にも渡ってランクインしたりと、とにかく凄まじい絶賛を受けた作品らしいのですよ。

そこまで凄い作品なの……?ほんとに……?

と半信半疑で読みにかかった私ですが、断言します。

この作品、凄いです。ホントに。

「凄いって具体的にどう凄いんだよ」とお思いの方も居られるかもしれないですが。

私なんぞの語彙力では、安易に感想を発することすら躊躇われるような凄まじさなんですよ。

緻密にして大胆な構成、美しく詩情にあふれた文体、個性豊かで鮮烈な印象を残すキャラクター。そして、哀しくも温かい、残酷ながらも優しい、完成され尽くした物語。どこをどう切り取っても傑作の要素しかねェ……!

本作はおよそ600ページ程に及ぶかなりの長編なんですが、最初から最後まで一貫してこのクオリティが続くんですよ。もうね、感服ですよ。ええ。同じ人間の脳みそからこうも素晴らしい物語が生み出されたということがちょっと信じられないレベル。ほんとに。

本作の大きな特徴として、6〜10ページの短いエピソードを複数の視点で描きつらねることで物語が進行していく、いわゆる断章形式が挙げられるでしょう。そのため、時間や場所が飛び飛びで、最初のうちは時系列や舞台を把握するのに時間がかかるかもしれません。

が、読み進めるほどにどんどん物語の世界に惹き込まれていきます。私は文庫版で読んだので、700ページ以上のボリュームがあったのですが、2週間足らずで読み上げてしまいました。普段から読書スピードはそんな速くないほうなんですが、スルスル読み進めることができました。

本作は戦争をテーマにしているだけあって中々に辛い展開も多く、読み進めるのが苦しくなるような描写もあったのですが、それでもページを捲る手は止まらない。著者の筆力の高さゆえでしょう。

本作の美点を挙げるとキリがないのですが、大まかに観点を絞ってお話すると、まず文章がいい。

テンポが良く、簡易な表現で、それでいて詩的で繊細な文章。たとえば、ヴェルナーが通信兵としてウクライナに赴き、仲間の運転するトラックでひまわり畑を突っ切るシーン。


周囲には、数平方キロにわたり、木ほども高く伸びて枯れかけたヒマワリ畑が広がっている。茎は乾いて固くなり、花は祈る人々の頭のようにうなだれ(中略)大きく乾いた花は運転台の屋根や荷台の側面を低い音で叩く。


どうです?脳裏に鮮やかに映像が浮かびますよね。著者の情景描写の巧さもさることながら、訳者である藤井光さんのセンスが光りまくってます。眩しいぜ。

もともと、ドーア作品の翻訳を手掛けていた岩本正恵さんという方がいらっしゃったそうはのですが(不勉強ながら存じ上げませんでした)、残念なことにこの作品の日本での出版を待たずしてご逝去なさったらしく。

そのために藤井さんに今作の翻訳が引き継がれたのだそう。名訳者のあとを継ぐのなんてプレッシャーすごそうだけど、この完成度の高さですからね、ほんとに私なんかに想像もできないような努力や読み込みがあって初めてこの作品が日本語で読めるんだよなあとしみじみいたしました。

さてさて、この作品はご紹介のとおり、ふたりの少年少女とその周囲の人物にまつわる、およそ80年ほどにも渡る壮大な大河小説なわけなんですが。

たくさんの登場人物たちが出てくる、群像劇チックなところもあるんですけども、キャラクター造形がすごく奥深いんですよね。

主人公ふたりはもちろん、たとえばサン=マロの街の人々。心を病んだ金持ちの大叔父や、彼に仕える家政婦の女性、彼女と仲の良いパン屋の奥さんや、怪しげな香辛料店の店主、マリー=ロールに海の存在を教えるホームレスの男性。あるいは、ヴェルナーが学校で出会う鳥好きの少年や仲間思いの大男、通信技術を教える博士。さらに、自然史博物館に勤めるマリー=ロールの父や貝類学者の老人、そこで展示されている宝石についての謎を追うドイツ人下士官……。

誰もが人間臭く、愛おしい。彼らの幸せを願わずにはいられないんですよ。主人公たちを窮地に追い詰める、いわゆる悪役たちでさえ、憎めない。それはきっと、もし戦争がなければ悪い人じゃなかったことが分かるから。誰でもそうなんです。

もし舞台が戦時中でなければ、この人はもっと幸せになれたのに。能力を活かせたのに。そういう人たちばっかりなんです。だからこそ、著者の反戦に対する意志の強さが行間から滲み出てくる。戦争という大きな波に、人々の人生が犠牲になってはならないという強い信念が感じられる。

長い間それぞれ別々の物語を歩んでいたマリー=ロールとヴェルナーが果たす一瞬の邂逅の、あまりの尊さ、美しさ。数十年にも及ぶ長い長い物語の中、ふたりが出会い、そして別れるのはたったの一日だけ。

でも、その短い時間の中に、あまりにも多くの感情が、感動が詰まってる。

だからこそ、彼らに待ち受けるやるせなく残酷な結末が、胸を打つんですよ。

とても悲しい物語ではあるんです。間違いなくハッピーエンドではないし、登場人物たちが経験した苦しい運命や酷い仕打ちが報われることはない。

それでも、救いがないわけではないんです。

絶望や諦観の向こうに見える、微かな、でも確かな光。

それがこの物語が真に描きたかったことなのだと思います。

ネタバレを避ける為に詳細は省きますが、私この本を読んで三回くらい泣いちゃったんですよね。

ふたりの邂逅、そしてその結末。終戦後の人々の生き様。で、エピローグの2014年。

壮大な物語の果てにあったのは、あまりにも哀しい結末。それでも、ひたすらに生きていく人々。それを筆者は、優しく温かなまなざしで掬い上げる。

ほんとにね、本を閉じたときは大号泣でした。電車とか学校とかで読んでなくてほんとによかったよ。たぶん他人から見たらひいちゃうくらいには泣いてましたからね。マジで。

そのくらいこの作品の持つエネルギーは凄まじい。傑作も傑作、大傑作ですわよ

このブログを読んだ方にも、是非手にとっていただきたいです。

長々と失礼しました。以上、舘ぴろしきでした。

ではまたね!