ライトニング

 

 

 

 

 

サンプル版動画製作の監督さんは、トロントの映画祭の「ショートフィルム部門」で受賞したという30歳前後の若い青年でした。

 

 

 

ぼくとジョンさんは4日間トロントのホテルに滞在。

 

 

 

監督とジョンさんの指示に従い、撮影は滞りなく進み

 

その手際の良さはまさに圧巻であり

 

エンターテイメントの本場の実力を思い知ったのです。

 

 

 

ぼくを乗らせるためのお世辞なのか、監督さんは

 

初めてカメラの前に立つにしては良くできている、とぼくのことを褒めたのです。

 

 

 

 

 

初めて経験するテレビ番組の撮影。

 

 

メイクや台詞

 

マイク、照明

 

 

全ての体験が新鮮で、ぼく自身とても楽しくやらせていただくことができました。

 

 

 

 

 

この企画は、ぼく自身が長年追い求めてきた 成功の形 であることは間違いなく

 

この撮影の雰囲気と手際は

 

すでにそのレールに乗っていることを実感させられました。

 

 

 

ぼくはやっと、やっとたどり着いたのだ、という高揚感をもちました。

 

 

ところが

 

 

 

意外なことに、撮影が進むにつれ、ぼくは妙な違和感を感じ始めていたのです。

 

 

 

 

それは

 

 

「状況に対する不満」というものではなく

 

 

いやむしろその逆で

 

 

満たされた条件の中で感じる、自分自身への違和感だったのです。

 

 

 

今まで経験したことのない状況で、経験したことがない考えが噴出したのです。

 

 

 

 

それは

 

ゴール直前で走ることの意味を見失なったマラソンランナーのような感覚だったのです。

 

 

 

 

 

(なにか・・・おかしい・・・これが・・・?)

 

 

と言う感覚を残し、一日の撮影が終わりました。

 

 

 

 

撮影がひと段落した深夜のホテル。

 

一人で窓際に座り、トロントの美しい夜景を見ている時でした。

 

 

 

 

 

 

突然、雷に打たれたように、物凄い「閃き」がぼくを襲ったのです。

 

 

 

「まさか!?・・・そうか・・」

 

 

 

 

とここで、ぼくは

 

 

とんでもないこと に気付いてしまったのです。

 

 

 

ぼくは心の中で叫んでいました。

 

 

 

(ち、ちくしょう・・ちくしょう!!)

 

 

(結局、何も変わらない・・・・何も変わらないじゃないか!!・・・)

 

 

 

 

それは

 

たとえどんな財宝を手に入れたとしても

 

夢を叶えたとしても

 

 

 

最終的な目的はその先にある

 

 

「心の状態」であって

 

 

 

いくら「モノや状況」を追い求めても

 

それは無常であり

 

 

 

「心の状態」がなければ永久にたどり着くことはない

 

という、あまりにも単純な真実が

 

雷のようにぼくの心身を貫いたのです。

 

 

 

 

そして

 

 

 

もしその「心の状態」さえ手に入れてしまえば環境や条件は関係なくなるではないか。

 

 

 

 

 

ぼくは今まで、ずっとずっと、死に物狂いで「物質的なもの」

 

そして自分が成功と思い込んでいた「未来の状況」を追い求めてきた。

 

 

きっと誰だってそう願うだろうし、それが間違っている、というわけでもない。

 

 

しかし

 

 

物や状況と言った、条件がぼくを幸せにしてくれるわけではないのだ。

 

 

どんな対象であれ

 

「幸せを感じる心」がぼくを幸せにし、人生の成功をもたらすのだ。

 

 

そしてそれは

 

 

他人には語る必要もない、理解も及ばない

 

 

ぼくだけのものだ。

 

 

 

 

 

ぼくは気づいてしまった。

 

 

 

 

 

ぼくは、この衝撃的真実を前に上気を失い

 

 

今までの

 

 

そして

 

 

これからの全てに意味を失い、混乱し、錯乱状態に陥ってしまうのでした。