ウルフマンジャック

 

 

 

 

そしてついにラジオ出演の日がやってきました。

 

ポールさんに言われたように、ぼくはオンエア用のCDを持参しました。

 

 

 

サンタバーバラFMは、特にマニアックな音楽

あまり公共のメディアには乗らないような

民族音楽やインディーズ系、ジャズやブルーズ、レゲエなどが多く取り上げられている

珍しいラジオ局という印象で、その特質を考慮したうえで、ぼく自身がある程度語ることができるもの、という基準でCDを選ぶことにしました。

 

 

 

ぼくが選んだのはアフリカ、コンゴ共和国(旧ザイール)発祥の「リンガラ」という音楽を追及した日本人のバンド「ヨカ・ショック」のCDでした。

 

 

ヨカ・ショックはぼくの地元、千葉県出身のセミプロバンドで、ヨーロッパ、アフリカでの公演経験もあり、サンタバーバラFMとの相性、面白い話題としても、ヨカ・ショックはピッタリだと考えたのです。

 

 

 

 

 

その日はまずポールさんの家に寄り、そこから彼の運転する車に先導されてラジオ局に向かいました。

 

 

10分ほど走り

 

 

車は、UCSB(カリフォルニア大学サンタバーバラ校)の敷地内へ入って行きました。

 

 

その、海岸に隣接した広大なキャンパスの脇にラジオ局があるのです。

 

 

 

 

巨大なパーキングエリアに駐車し、ポールさんに従ってキャンパスの周りを囲む森を横切り、さらに向こう側に見える、30メートルほどの高さのアンテナ塔を目指して歩いていきました。

 

 

 

 

ちょうどお昼時で、キャンパス内は学生たちで賑わっていました。

 

 

アンテナ塔に到着すると、その建物の一階がラジオ局で 

 

真っ赤に塗られた分厚い鉄の扉が入口でした。

 

 

 

 

ポールさんがドアに設置された暗証番号付きのロックを解除し、重い扉を開け

 

ぼくらは局内に入りました。

 

 

 

この局は、創立60年ということで、歴史が感じられる佇まい。

 

ポスターやステッカー、様々なメッセージが書かれたチラシなどが、壁という壁に無造作に貼られていて、いかにもラジオ局という雰囲気を醸し出しているのです。

 

 

 

 

建物内は意外に広く、放送のためのスタジオが何室もあるようでした。

 

 

ぼくは期待と緊張、喜びが入り混じり暫し茫然としていました。

 

 

 

 

そのうちに

 

 

奥のスタジオのほうから微かに今放送されている音声が聴こえてくると

 

 

ぼくの脳裏には「ある光景」が鮮明に蘇ったのです。

 

 

 

 

(そうだ!この感じ・・・)

 

ピンと来るものがありました。

 

 

 

 

 

 

それは夢のような瞬間でした。

 

 

ぼくは子供のころ観た

 

 

アメリカングラフィティという映画を思い出していたのです。

 

 

その映画は、スティーブン・スピルバーグ監督

 

 

1960年代にロスアンゼルスに実在した伝説のラジオDJ

 

ウルフマンジャックの出演

 

 

そして

 

全編にカーラジオから流れるアメリカンポップスが物語の核心となっている名作です。

 

 

 

ぼくはウルフマンジャックに憧れていました。

 

 

驚いたことに

 

KCSBサンタバーバラFMは

 

そんな「アメリカングラフィティ」に登場した

 

古き良きアメリカのラジオステーションが

 

映画で見たそのままの姿で現存していたのです。

 

 

 

 

 

                                      WOLFMAN JACK