一転して

 

 

 

 

 

 

妻は決して(ぼくも一緒に日本へ戻ってほしい)とは言いませんでしたが、

 

 

本当はそれを望んでいることは十分に伝わっていました。

 

 

 

 

 

妻はぼくに言いました。

 

 

 

― 私は今までのあなたの苦労

 

 

アメリカで成功したいという情熱はよく理解しているつもりだ。

 

 

ー しかし、もうこれで十分ではないか?

 

 

 

 

 

 

娘を授かり、資産だって出来た。

 

 

これ以上の幸せは無いではないか 

 

 

ーと。

 

 

そして

 

 

 

ー コンドミニアムを売って、日本で家も買える。

 

 

私は看護師として働きすぐに収入を得ることが出来る。

 

 

 

あなたはゆっくり仕事を探せばいい。

 

 

 

娘はちょうど小学校一年生から日本の学校に入学できる。

 

 

 

 

 

 

 

でも、私が日本に帰りたい一番の理由、

 

 

ーそれはあの夫婦、アキラ夫婦と縁を切りたい、ということです。

 

 

 

そして続けて

 

 

「ハッキリ言わせてもらうが、あの夫婦は異常だ。狂人と言ってもいい。

 

あなたは感覚が麻痺している。

 

このままでは必ず体を壊すし、精神状態だっておかしくなってる。

 

そして何より、もうこれ以上、娘をここに居させることはできない。

 

 

 

 

 

 

私は不動産を売り、スッパリ縁を切って日本へ帰ります。

 

 

 

 

そしてもう二度とあの夫婦とは関わりたくない」

 

 

 

というのです。

 

 

 

ぼくは唖然としながらも、妻の強い意志を受け止め、そして考えました。

 

 

(確かに、正常な日本人の常識、感覚で言えば、妻の言っていることは至極真っ当だ。

 

そして、娘のことを考えれば、妻の意見が絶対的に正しいだろう。

 

親方夫婦やここの生活が異常だなんてことはぼくが一番わかっている。

 

 

 

 

でも・・・。

 

 

 

本当にそれでいいのか・・・。

 

 

 

やっとこれからではないか。

 

 

 

自分の事だけを考えれば、今帰国するなんて絶対に有り得ない選択だ。

 

 

 

 

日本で就職?

 

 

そんなこと出来るわけがないだろう。

 

 

自分だけアメリカに残る?

 

 

しかし、娘はどうなる・・・。

 

 

最愛の娘と離れるなんて到底出来ない相談だ。

 

 

いや、しかし待てよ

 

 

 

 

こちらには・・・弟がいるのだ。

 

 

 

あんなに説得して無理やり呼び寄せた弟はどうするのだ・・・)

 

 

 

考えは止め処なく巡り、歓喜の渦から一転、

 

 

 

突如としてぼくは究極の選択を迫られることになってしまったのです。